下北沢通信

中西理の下北沢通信

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藤本由紀夫「美術館の遠足10/10」

藤本由紀夫「美術館の遠足10/10」(西宮市大谷記念美術館)を見る。
 年に1回1日だけ開かれる現代美術家、藤本由紀夫の個展である。「美術館の遠足」としては今回が10回目。最後になることもあって、なにかすごく派手なことでもやっているのかと思って期待して行ったら、やや肩透かし。藤本由紀夫の本領はサウンドアートなのだから、これはあるべき姿ともいえるのだろうが、今回は美術作品的な展示物は過去2回見にいった時と比較して、少ないというか、絞り込んであって、なにもない美術館の空間で音が鳴っているというような作品が中心で、藤本氏も入り口近くのロビーでサインに応じていて、それを並ぶ人たちの列ができていたが、前回や前々回のようなパフォーマンスやレクチャーのようなイベントもいっさいなく、シンプルこのうえないものだった。
 作品としては美術館の中庭に借景してのインスタレーション「ECHO」が印象的。池の上にLEDの照明で「ECHO」の文字を描き出すオブジェが配置されていて、その文字が池の水面にも反射して映し出されるというもので、単純なものだが、非常に美しい。
 もっとも、音だけの作品も多かっただけに会場は2回ぐらいくまなく回ったつもりではあったのだが、気がつかないで見逃してしまったものもあったかもしれない。ゆったりとした気分で楽しんでくださいよ、というのが今回の企画意図だったのかもしれないが、どうもせこせこと回って、ゆったりした気分になれないのが、我ながらさもしいところである。
 展示については「美術館の遠足」はこれで終わりだが、来年には国立国際美術館とこの西宮市大谷記念美術館の2館を使っての藤本由紀夫展が予定されている、とのこと。これは本当に楽しみである。