田辺由美子*1個展(ギャラリー夢想館)を見る。
神戸在住の現代美術作家、田辺由美子の個展を王子動物園近くのギャラリー夢想館で見る。今回は完全な新作というよりは以前に制作した代表作にその延長線上の新作を加えて展示したもので、一種の回顧展的な展示となっている。まず目立つのはギャラリーの床面いっぱいに広げられた卵をモチーフにした作品の展示である。
本物と見間違うほどそっくりなのだが、アクリル性の造形物で近くに寄って目をこらしてみると1皿1皿の黄身の部分には20××とナンバーがふってあって胡麻のようににも虫のようにも見えるのは数字で1年間365日(うるう年は366日)が細かく皿の上に張られていて、しかも1皿1皿が違う模様になっている。造形的にも美しいのだが、さらに驚嘆させるのはこの一皿一皿をすべて手作りで作ったことが明らかに分かる芸の細かさである。
以前にギャラリーかのこなどでも展示された旧作でもあり、その存在はポートフォリオなどでは知ってはいたのだが、こうして実物が大量に並んでいるのを目の当たりにするとこれをどのくらいの時間をかけてつくったのだろうと彼女の作品づくりにかける執念のようなものを感じて、ちょっと眩暈さえしてくるのである。
女性だからこそなどと安易に書くとフェミニストの方々からはお叱りを受けそうだが、コンセプトやキャラ、映像などが主流となってきている現代美術の作品のなかで、草間弥生に代表されるように「モノ」としての力を感じさせる美術作品には女性によるものが多いことも確かで、それぞれの造形は小品ではあるけれど、その分、細部にいたるまでの徹底的な完成度の高さへのコダワリが感じられて、しかも美的なセンスのよさも感じさせるところが女性ならではと思わざるをえない。
同様のことは以前にも見たことのあるタンポポの綿毛をひとつずつ壁面に貼り付けたインスタレーションや新作である卵型のアクリルにセミの抜け殻とコンデンサ(のように見える円柱状の物体)を封じ込めた作品にも感じとることができた。
最初に見たのはガラスに漂白された葉脈のようなものがはさまれたボックスアート作品で、これはちょっと面白いと思ったのが彼女の作品に注目するようになったきっかけだったのだが、今回の個展でも卵(これはアクリルでの造形ではあるが)、タンポポの綿毛、セミの抜け殻と生き物をアクリルのような素材と組み合わせて造形物化するというのがその作品のひとつの特徴であるようだ。そこには自然界のなかでは放置しておくと朽ち果てていくようなはかない存在を時間をそこでとめたかのように透明なもののなかに封じ込めようというような思いが感じられる。
時間の流れを造形化したともいえそうな卵の作品をはじめ、流れていく時という主題でのこだわりが彼女の作品からは感じられる。時間の造形化ということでいうとナフタリンを使って時がたつと蒸発してしまう作品を作り続けた宮永愛子ややはり時間がたつと崩れてしまう砂糖を素材にして作品を作る佐々木愛らのことが思いだされるのだが、消えてしまう作品で見えない時間を形象化しようという宮永とアクリルで時間を封じ込めようとするかのような田辺ではアプローチがまったく逆であるのにその作品を目前にした時にどこか近しい感覚を感じるのはどうしてであろうか。ともに作品のディティールにこだわり細部に命の宿る作品を制作し、色彩的に言うと白にこだわっていることあたりに共通点がありそうなのだが。
田辺の場合は芸大出身ではないこともあって、宮永らと比較して現代美術作家としてはやや遅れてきた作家の印象もあり、活動歴がそれなりにある割には現代美術の世界ではまだ知名度もいまひとつで、現代美術ギャラリーでの本格的な展示も昨年の京都でのギャラリーはねうさぎでの展示とこの展示が現代美術界(というのがあるものとして)への遅ればせな本格デビューといったところになりそうだが、実力的には宮永をはじめとする評価で先行している同世代の作家と比べても遜色ないと思う。今回は回顧展的な色彩の強い展示ではあったが、今後どのような作品を創作していくのかが注目していきたい美術家なのである。
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