JCDN巡回公演「踊りに行くぜ!!vol.9」SPECIAL IN ITAMI(アイホール)を観劇。
1、鈴木ユキオ[金魚](振付・ダンス)x辺見康孝「Love vibration」(作曲・演奏[ヴァイオリン])
振付・出演:鈴木ユキオ 作曲・演奏:辺見康孝
2、チョン・ヨンドゥ Jung Young-doo【韓国】
「風の合間で in the pauses of the wind」
振付:チョン・ヨンドゥ
出演:チョン・ヨンドゥ、イ・ユンジョン
3、北村成美「パラシューート」【滋賀】
構成・振付・演出・出演 北村成美
休憩
4、j.a.m.Dance Theatre「タンゴ」 【大阪】
5、yummydance x トウヤマタケオ楽団 「手のひらからマウンテン」【松山・大阪】
戒田美由紀・合田緑・高橋砂織・得居幸 作曲・演奏 トウヤマタケオ楽団 トウヤマタケオ・藪本浩一郎・清水恒輔・ワタンベ
yummydance x トウヤマタケオ楽団 「手のひらからマウンテン」
「手のひらからマウンテン」 振付・出演 yummydance 宇都宮忍・戒田美由紀・合田緑・高橋砂織・得居幸 作曲・演奏 トウヤマタケオ楽団 トウヤマタケオ・藪本浩一郎・清水恒輔・ワタンベ 企画・製作: NPO法人 Japan Contemporary Dance Network 助成:財団法人 アサヒビール芸術文化財団 協賛:TOA株式会社/株式会社ジーベック撮影機材協賛:パナソニック 株式会社
「踊りに行くぜ!!」の9回目となる今回は、昨年10月から12月にかけて札幌・函館・八戸/鮫・宮城・越後妻有・前橋・茅野・珠洲・栗東・豊岡・鳥取・広島・松山・高知・福岡・佐世保・別府・宮崎・沖縄の全国19都市で開催し、41組のアーティストが出演した。その中から特に話題 になった作品を上演する“スペシャル公演”が東京・伊丹の2カ所で開催されたSPECIAL IN ITAMI/TOKYOである。
毎年最後に開催されるこのスペシャル公演ではどんな新顔が発掘されるのかが、最大の楽しみであり、実際、最近でも身体表現サークル、KENTARO!!、きたまりらの将来のスター候補がそこから巣立っていったという実績もあった。ところが今年は選ばれたのは5組のうち3組までが昨年のトヨタコリオグラフィーアワードのファイナリスト。韓国から選ばれたチョン・ヨンドゥも加え、いずれも実力派であるが、見る前はやや新鮮味に欠けるかとの印象を受けたのも確かである。作品としてもチョン・ヨンドゥの作品以外はいずれも以前に見たことがあったものばかりであったこともそうした印象をより強くしていた。ところが実際の公演を見て驚いた。以前に見た作品にはいずれも格段の進歩が見られて、まったく別物とでもいいたいほどの仕上がりとなっていたからである。
なかでも出色の出来栄えでいささか気が早いが、今年のダンスベクトアクトのベスト1有力候補がyummydanceの「手のひらからマウンテン」である。yummydanceの場合、これまでは集団を代表するような代表作*1に欠けるきらいがあったが、この舞台を見た瞬間、ついに「この1本」という作品が誕生したなと思い、これまで成長を見守ってきた観客として嬉しい気持ちになった。
松山に本拠を置くが、水準は地方のダンスカンパニーというレベルを超えている。だからこそ、トヨタコレオグラフィーアワード、横浜ソロ×デュオなどの振付賞で何度もファイナリストになった実績もあるのだが、逆にいえばこれまではいろんな面でよい作品ではあっても抜群に突出している印象を与えるという風にはいいかねるところもあったのだ。
そのひとつの理由がすべての作品がそうだということではないが、このカンパニーはメンバーの全員が自分の作品で「踊りに行くぜ!!」などのショーケース企画に出演したことがあるようにダンサーであるだけでなく、振付家でもあり集団創作を志向してきたからだ。もっとも、そのために実際の作品を見てみると、やや焦点が定まらないというところあり、そのことがこうした振付賞で賞を惜しくも逃す結果となっていた要因であったことも否定できない。
「手のひらからマウンテン」はトウヤマタケオ楽団(トウヤマタケオ・藪本浩一郎・清水恒輔・ワタンベ)とのコラボレーション作品で、JCDNが企画したDANCE×MUSIC!〜振付家と音楽家の新たな試みvol.3〜で2007年に初演されたものの再演である。なんといってもトウヤマタケオ楽団がこの作品のためにオリジナルで制作・演奏している音楽がいい。単に曲というだけでなく、ポップでありながら、どこかとぼけた曲想とyummydanceの持ち味、雰囲気とよく合致している。ミュージシャンと振付家・ダンサーとの共同制作というのは最近では珍しくないが、それほど簡単なことではなくうまくいっている例は限られている。
今回のマッチングに関してはまずyummydance側が松山でのライブを以前からいっていたなど、トウヤマタケオのファンだったということがまずあり、一緒に作品を制作する際にもまずyummydanceの過去の作品の映像資料を見てもらったりして集団へのイメージをしっかり持ってもらったうえで、作品制作に入ったのがよかったようだ。オリジナルの音楽なんだけれど、これはyummydanceのイメージとぴったりな曲想で、聞くところによるとこの楽団は普段の演奏ではこういう聞きやすいポップな曲だけでなく、もう少し現代音楽風な曲も演奏しているということなので、今回の音楽はまさにyummydanceのために作ったもので、この「手のひらからマウンテン」のなかのダンサーがそれぞれの動きがそれぞれ違っていながら、普段の作品よりもまとまりが感じられるのはそれぞれのダンサーの動きは違っていても音楽がそれを束ねる役割をして、それぞれの動きがそれぞれ共通の音楽に同調することで、全体としての動きにも差異がありながらも同調性が感じられるようになっているのであり、そのバランスがこの作品では絶妙であったからだ。
ダンサーたちを見ながら思わず思い浮かべたのは「小鬼の乱舞」というイメージ。彼女らの演じるキャラは子供のようでもあり、年相応な三十代の女性のようにも見えるのだが、そのふたつが重なり合うところにyummydance独特の表現はあるように思う。つくづく残念だったのはリハーサルでのけがのためこの日は宇都宮忍が出演できず4人バージョンとなっていたことで、それでも十分にいい作品ではあったが、好舞台なだけに完全版を見たかった。
鈴木ユキオ(金魚)とバイオリニストの 辺見康孝による「Love vibration」もDANCE×MUSIC!が初演。以前に見た時はまだお互いに距離感を測り合っている感があったのだが、今回はその時とは一変して、呼吸もぴたりで、ソロダンスに伴奏がつくというよりも演奏家とダンサーによるデュオ作品という感じである。音楽家とダンサーとの共演というのは即興演奏・ダンスによるものを含めば珍しくないが、相手がバイオリニストで舞台狭しと動き回ったり、果ては地面に寝転んで演奏するなどといのは前代未聞ではないだろうか。鈴木のダンス作品としてもトヨタアワードを受賞した代表作「沈黙とはかりあえるほどに」と比べても遜色のない完成度の高さを感じさせた。
j.a.m.Dance Theatreの「タンゴ」、北村成美の「パラシューート」はいずれも以前に見たことがあったが、練り上げられてきたことで完成度の違いは歴然。再演していくことの重要性を改めて再確認させられた。特に「タンゴ」は京都芸術センターでのダンスショーケースでの上演など何度も見たことのあるおなじみの作品で、以前見た時にはタンゴの音楽に合わせてパフォーマーがお互いにキスするように口と口を近づけながら(だけど、実際には接触はしていない)踊るというアイデアが面白い、という程度の印象でしかなかったのが、ハードエッジに男女の関係性を描いた激しいデュオ作品に印象が一変。照明効果や衣装を変えたことの印象の違いも大きく、暗闇のなかにサスの照明のなかに二人のダンサーが浮かび上がる場面から、女()が男()に激しくぶつかりそのたびに振り払われるのが何度も繰り返させる冒頭の一連の流れは思わず引き込まれてしまう力があった。最近のj.a.m.Dance Theatreはフィジカルシアター的な要素が強まり、この作品のように激しい動きの連続というのはあまりなかったのでそこの部分もこの作品は新鮮な感じがした。
「パラシューート」は栗東文化会館さきらで上演された北村ひさびさの新作。初演は一晩もののプログラムということでもう少し長くいろんな要素を含んだ作品であったが今回はそれをコンパクトにまとめた。パラシュートで勢いよく降下していくような女性という作品のコアのイメージは変わらないけれど短縮版になった分だけ、その怒涛の展開はインパクトを増した。結婚そして出産としばらく小休止をしていた北村だが「38歳。まだまだ頑張ります」などと作品のなかでも語っているようにこれまでの元気いっぱいに加えて、母親になったことの逞しさも感じさせた。
最後にチョン・ヨンドゥ(Jung Young-doo)「風の合間で in the pauses of the wind」は端正さを感じさせる男女2人のデュオ作品である。ダンスのデュオ作品としてはオーソドックスな作りで、2人のダンサーの高度な技術に裏打ちされた流れるような動きの連鎖が心地よい。こういうオーソドックスなデュオ作品は日本の最近のコンテンポラリーダンスでは滅びてしまったようで現代舞踊など特殊な公演を除けばまず見ることができないと思う。作品自体を私の今現在の感覚で素直に楽しめたかというと若干の留保をせざるをえないが、ひさびさにこういうものを見せられると改めて日本のコンテンポラリーダンスについて考えさせられ、そういう意味では興味深い作品であった。