珍しいキノコ舞踊団×plaplax「The Rainy Table」(山口情報文化センター)を観劇。
珍しいキノコ舞踊団 × plaplax 「The Rainy Table」
振付・構成・演出:伊藤千枝(珍しいキノコ舞踊団)
舞台美術・映像演出・メディアテクノロジー:plaplax(近森 基+久納鏡子+筧 康明)
音楽:大野由美子(Buffalo Daughter)
衣裳:AOMI
珍しいキノコ舞踊団とメディアアートのplaplax、そして音楽にはBuffalo Daughterの大野由美子、衣装にAOMIといつもとは少し違う組み合わせによるコラボレーション(共同制作)作品。山口情報文化センター(YCAM)に長期滞在して現地制作した。
「フリル(ミニ)」でのアートユニット「生意気」とのコラボにはじまって、美術系のアーティストとの共同制作はこのカンパニーの常道となっているいるようなところがあるのだが、これまでの作品は相手はほとんどの場合、造形作家であることが多く、舞台美術としても物や空間を与えられて、キノコはそこをプレイグラウンドとして遊び回るというような作品がほとんどであった。珍しいキノコ舞踊団は独特のインティメートな魅力によって、観客席と舞台空間の壁を突き崩し、彼女らの世界に観客を巻き込んで同化していくようなところがあり、その意味ではだから不満というほどではないのだけれど、生意気をはじめとするその種のコラボはどうしても珍しいキノコ舞踊団にとっては借景として世界の一部に取り込まれるものにすぎないというのもあって、それがアート作品であろうと作品ではなく、美術館の中庭や公園といった単なる「場」であれ、そこにどれだけの差があうのだろうという疑問もないではなかった。
というのはこうしたサイトスペシフィックなキノコの世界は私は個人的には好みであったからだ。ただ、その一方でダンス表現あるいはアートとしての可能性は最初に麻布DELUXEで「フリル(ミニ)」を初演した時にかなりの部分尽くされていて、その後は歌を歌ってみせたり、観客も踊らせたりするなどいろんなアイデアを盛り込んではみていたけれども場合によっては同工異曲ではないかという感もまったく起こらないではなかったからだ。
その意味でいうとアーティストとのコラボという点ではこの作品も変わらないのだけれど、メディアアートは造形物とは違って、そこで遊んでいればいいという遊び場のようなものにはとどまらないということもあって、やっと「フリル(ミニ)」から次のステップを踏み出したという風に思われた舞台であった。
ダンスにおいてマルチメディアパフォーマンスというのはダムタイプをはじめ、最近ではニブロールやレニ・バッソの例を挙げるまでもなく、珍しいものではないが、今回のメディアアート作品で好感が持てたのは映像を使った作品ということでいつもと違う雰囲気はありながら、これはやはり作品の世界観としては100%ピュアに珍しいキノコワールドというのを感じさせたところだ。
この種のコラボはなかなかうまくいかないことが多いのだが、今回の場合は珍しいキノコ舞踊団の持ち味を壊すことなく、そこにそれまでとは違うプラスアルファのようなものを付け加えることができたという意味合いでは成功だったと思う。そして、そうなったひとつの要因にはマッチングのよさがあったのではないかと思う。メディアアートそのものに例えばダムタイプ的とか、ニブロール的とかのレッテルを張るのはそもそもおかしいことではあるけれど、映像や音楽そのもののクオリティーの高さとは関係なく、例えばダムタイプの池田亮司、高谷史郎のコンビによるようなクール系の映像・音楽をもってきて、珍しいキノコ舞踊団とコラボレーションをさせたとしても、おそらくうまくいかないだろう*1、と思われる。そんななかで映像とキノコを組み合わせるとすると、まず考えるのはアニメーション系の作家などであるけれど、ここにplaplaxというグループを持ってきたのは企画制作のYCAMのスマッシュヒットだったと思う。
plaplaxというのは近森 基、久納鏡子、筧 康明という3人のメンバーによるメディアアート制作ユニットだが、普段は鑑賞者がインタラクティブにかかわれるような映像を使ったインスタレーションを数多く手掛けていて、舞台作品に取り組むのはこれがはじめてである。
plaplax
*1:無責任な立場からするとどのくらいミスマッチになるか見てみたいという好奇心はあるのだけれども