下北沢通信

中西理の下北沢通信

現代演劇やコンテンポラリーダンス、アイドル、ミステリなど様々な文化的事象を批評するサイト。ブログの読者募集中。上記についての原稿執筆引き受けます。転載依頼も大歓迎。simokita123@gmail.comに連絡お願いします。

大阪平成中村座 十月大歌舞伎 夜の部

夜の部(午後4時45分開演)
近松門左衛門 作 「平家女護島(へいけにょごがしま) 俊寛(しゅんかん)」
 平家討伐の企てが露見、これに加担した俊寛は、康頼、成経と共に鬼界ヶ島へ流され、飢えと孤独の日々を過ごしている。ある時、成経が島の海女の千鳥と恋仲となり、祝言を挙げて喜ぶところ、都から赦免船が到着する。四人が乗船しようとすると、上使の瀬尾が千鳥の乗船を拒み、さらには、俊寛の妻の東屋が首を討たれたと告げる。絶望した俊寛は、瀬尾を手に掛けた上、千鳥を乗船させ、自らは島に留まる。遠ざかる船を見送る俊寛…。
近松門左衛門作の『平家女護島』の二段目にあたる『俊寛』は、時代物の中でも単独でしばしば上演される人気演目です。幕切れ、船を見送る俊寛の心の機微がしどころとなる名作をお楽しみ下さい。

俊寛僧都中村勘三郎
丹左衛門尉基康中村勘太郎
海女千鳥 (交互出演)坂東新悟 (3〜15日)
中村鶴松 (16〜27日)
丹波少将成経中村萬太郎
瀬尾太郎兼康坂東彌十郎
「太閤桜(たいこうざくら)」
 慶長3年3月15日、豊臣秀吉が京都の醍醐寺で、豊臣秀頼、北の政所、淀殿ら近親の者をはじめ、諸大名からその配下まで約1300人を従え花見の宴を催しました。『太閤桜』は史上空前の桜の花見で味わった家族との幸福なひとときと、栄華を極めた秀吉の晩年の思いと人生の儚さを描いた新作舞踊劇です。秀吉にまつわる人々が登場し「醍醐の花見」といわれたこの盛大な花見を、華麗にそして幻想的な舞台でご覧いただきます。

豊臣秀吉中村橋之助
北の政所中村扇雀
淀君中村七之助
明智光秀中村獅童
猿若中村勘三郎
河竹黙阿弥作 「弁天娘女男白浪(べんてんむすめめおのしらなみ)」 
松屋見世先の場、稲瀬川勢揃いの場鎌倉の呉服屋浜松屋に美しい武家娘が供を連れてやって来る。娘は、婚礼の準備のため品定めをするが、緋鹿子を懐に忍ばせるのを店の者に見とがめられる。店の者は万引きと言って騒ぎ出し、娘は額に傷を付けられてしまう。だが、万引きされたと思った品は、娘が他の店で買った品であった。供の者は、婚礼前の娘の顔に傷を付けられた代償として百両を要求する。しかし、奥から玉島逸当という侍が現れ、娘が男であることを見破る。実は、ふたりは世間でも評判の盗人。そして、侍と見えた逸当も…。娘姿の盗人が素性を明かす際の名台詞や、稲瀬川で白浪五人男が勢揃いする色彩美など見どころ満載。河竹黙阿弥の代表作をお楽しみ下さい。

弁天小僧菊之助 中村七之助
南郷力丸 中村勘太郎
赤星十三郎 中村萬太郎
松屋伜宗之助 (交互出演) 坂東新悟 (16〜27日)中村鶴松 (3〜15日)
忠信利平 中村獅童
日本駄右衛門 中村橋之助

 ニューヨークやドイツベルリン、ルーマニアシビウと海外公演を重ねている平成中村座であるが、大阪での公演は扇町公園で見た2002年11月の「法界坊」「夏祭浪花鑑」以来でなんと8年ぶり。今回は大阪城が間近に見える大阪城西の丸庭園内に特設劇場を設営しての2カ月連続興行となった。11月は平成中村座おなじみともなり前回公演でも上演された「法界坊」「夏祭浪花鑑」の2本立てとなったが、今月は昼が「熊谷陣屋(くまがいじんや)」、七之助獅童らによる「紅葉狩」、勘三郎が上方和事の代表的な演目を演じる「封印切」、夜の部は勘三郎十八番ともいえる「俊寛」、今回のために用意した新作舞踊劇「太閤桜」、勘太郎七之助の兄弟ら若手に橋之助が加わる「弁天娘女男白浪」。ともにバラエティーに富んだ演目を選んでの公演となった
 「法界坊」「夏祭浪花鑑」など通しでの公演となるとどうしても勘三郎奮闘興行というようなイメージが強くなるのだが、今回は新作の「太閤桜」にも少しだけ顔見せはしているものの、勘三郎が文字通りメインの演目は昼の部は「俊寛」、夜の部は「封印切」と1本ずつに絞りこみ、ここでは大熱演を見せたものの、常連ながら客演でもある橋之助獅童にも随所に見せ場を与えながらも、勘太郎七之助の活躍の場を広げた感があった。
 なかでも今回は「紅葉狩」の鬼女、「弁天娘女男白浪」の弁天小僧菊之助、「封印切」の梅川といずれも難役を好演した七之助の活躍ぶりが強く印象に残った。特に面白く感じたのは「弁天娘女男白波」の「浜松屋店先の場」。弁天小僧菊之助が早瀬主水の息女に扮して相棒の南郷力丸ともども呉服屋の浜松屋に騙りにやってきて、正体がばれたと知ると開き直って大見得をきるこの場面。これは尾上家の芸として有名なだけあって、菊五郎菊之助のものは何度も見たことがあるのだけれど、七之助のはそれとは少し趣きが変わってやや線が細い感はあるけれど、なかなか魅力的であった。
だが、なんといっても今回の最大の売り物は舞台後方の扉が開くと大阪城天守閣が眼前に迫るようになっており、いくつかの作品でこれを「借景」として使っていることだ。特に夜の部で見た大阪城はライトアップされたせいで闇の中に白く浮かび上がり、それが芝居のなかで見事に描かれている幻想シーンのイメージと見事に合致して歌舞伎ならではの「けれん」の魅力を体現していたことだ。
 ライトアップされた大阪城の姿を見ることは珍しいことではないのだけれど、これがその瞬間にそれほどの息をのみような効果を上げるというのは実際に体験してみないとちょっと想像ができないほどで、特に「百万両の夜景」と思わず名づけたくなった幻の大阪城の姿を幻視するこの一瞬を味わうだけでも少々高い入場料ではあるけれど、料金分の元はとったと思った。