下北沢通信

中西理の下北沢通信

現代演劇やコンテンポラリーダンス、アイドル、ミステリなど様々な文化的事象を批評するサイト。ブログの読者募集中。上記についての原稿執筆引き受けます。転載依頼も大歓迎。simokita123@gmail.comに連絡お願いします。

ぶんげい マスターピース工房vol.3「シェイクスピア・コンペ」(前半)@京都府立文化芸術会館

M.M.S.T(神奈川県横浜市)「あるイングランド劇作家の眼差し」作:W.シェイクスピア
演出・照明・美術・音響:百瀬友秀
出演:大久保吉倫明
映像:相内唯史
衣裳:田中秀彦
演出助手:竹中香子
「作家であるシェイクスピアの徹底した観察眼を自動BLOG生成プログラムに見立て、四大悲劇の創作過程を情報処理の観点から提示する。「演劇の持つ力とは何であるのか」を問い直す契機を生み、劇場へ足を運ぶことの価値を強く提示できればと考えます。」
出演大久保吉倫明/noriaki owkubo
アンサンブル・レゾナンス(茨城県つくば市)「メメント・モリ
出演者
石塚あつこ
磯瑚子
沢のえみ
福原まゆみ
みさお
チャールズ・レント
ジェイソン・ハンコック(声の出演)

スタッフ
振付:沢のえみ
琵琶演奏:友吉鶴心
照明:東京舞台照明
音響:勝見淳一
舞台監督:徳永泰子
 
矢内原美邦「前向きタイモン」
作:矢内原美邦高橋啓
演出:矢内原美邦
(以下後半)
・グループAKT・T(東京都調布市
  『ヴェローナの二紳士〜大正浪漫バージョン』
・劇団GUMBO(兵庫県川西市
  『マクベス・イン・ザ・ゴシップ』
・てんこもり堂(京都府京都市
  『Jeanne』

シェイクスピア・コンペ』企画のねらい
─ 巨匠に“肉薄”、なるか“超越”─
京都府立文化芸術会館では、主催事業のひとつとして2006年より「ぶんげい マスターピース工房」を開催してきました。今回はその3回目で、シェイクスピアをテーマに取りあげます。

「ぶんげい マスターピース工房」とは
 この事業は、よく知られた演劇の“名作”を創造的に上演し、幅広い観客層に舞台の魅力を伝えることを目的としています。関西では、いわゆる古典の上演は決して多くありません。国内外の優れた上演が関西にやってくることは稀ですし、また、若手の劇団が古典に取り組むこともまだ限られているといえます。観る側も創る側も、“名作”に触れて造詣を深める機会が少ないといえるでしょう。
 こうした状況を打開するため、演劇人や一般の観客に、“名作”に親しむ場を提供するのが本事業のねらいです。初回の2006年度は、若手俳優を多く起用してブレヒト作『コーカサスの白墨の輪』を製作しました。第2回は、まず2007年度に若手演出家がチェーホフの短編で競い、最優秀となったごまのはえ氏が2008年度に長編『三人姉妹』に取り組みました。そして、本年度から来年度にかけて開催する第3回では、シェイクスピアを取りあげます。


なぜ“名作”なのか
 “名作”“マスターピース”は、幾度にもわたる上演や批評を通じて、その魅力が限りなく追究されてきた作品です。同時に、学術界でも、作品や作家についての研究が数多く蓄積されています。本事業では、こうした名作に関する学術的成果と、今後の演劇界を担う若い創り手の鋭い感性や深い洞察力が交錯することで、より魅力的な舞台が生まれることを期待しています。

シェイクスピア・コンペ」について
 今回ご案内する「シェイクスピア・コンペ」は、「ぶんげいマスターピース工房vol.3」の本年度のメイン・イベントです。書類審査を経て選出された気鋭の6団体(審査の過程ならびに選評は、別紙をご覧ください)が、シェイクスピアに触発されたオリジナル短編作品を、11月20日〜23日、京都府立文化芸術会館にて競演します。そして、専門家による審査で「最優秀」と「優秀」の2作が選ばれます。選ばれた団体には、来年9月に開催される「シェイクスピア・ウィーク」での上演権が与えられます。これとは別に、観客による審査で選ぶ「でまち賞」(出町商店街協賛)もあります。
 また、このコンペに先駆けて、参加演出家が講師を務める「ワークショップ」と、専門家による「学芸講座」も開催されます。「ワークショップ」は、一般向けと俳優向け、計12コースからなる多彩なプログラムです。「学芸講座」は、コンペ参加者と一般の観客に向けて開かれ、上述のようなシェイクスピアについての学術的成果などをわかりやすく提供します。
 長い年月をかけて育まれた“名作”は、演劇の土壌を豊かにします。明日を担う演劇人に挑んでほしい、より多くの観客に深く楽しく味わってほしい、それが私たちの願いです。

 シェイクスピアに触発されたオリジナル短編作品を6劇団が競演、コンペティション形式で競うというのがこの「シェイクスピア・コンペ」である。京都府立文化芸術会館の主催事業として開催されている「ぶんげい マスターピース工房」の一環として開催されたものだが、今回注目したのきっかけは対象が私が演劇に興味を持つきっかけとなり原点でもあるシェイクスピアであったこととと公募により選ばれた参加団体のなかに以前から私が注目していたニブロール矢内原美邦が入っていたことだ。
 プログラムは前半後半に分かれ、それぞれ3演目ずつ上演されたが、この日はそのうちM.M.S.T「あるイングランド劇作家の眼差し」、アンサンブル・レゾナンス(茨城県つくば市)「メメント・モリ」、矢内原美邦「前向きタイモン」の3本が上演された。全体の印象としては明らかに演目ごとのレベルの差がかなり大きくて、玉石混交という感じだった。このコンペティションは企画書による一次選考を実施していたようなのだが、実際の上演を映像などで確かめたうえで選んでいるわけではないこともあり、内容に大きなバラつきがあったようだ。
 前半部の3本のなかで面白かったのはやはり矢内原美邦の「前向きタイモン」であった。これは「アテネのタイモン」という日本ではあまり上演されることのないシェイクスピア作品をあえて取り上げて、原作をそのまま上演するというのではなくて、矢内原流に自由翻案したものだ。