下北沢通信

中西理の下北沢通信

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期間限定Saccharin「その鉄塔に女たちはいるという」@ドーンセンター

「その鉄塔に女たちはいるという」
原作 土田英生(MONO) 「その鉄塔に男たちはいるという」
演出 土橋淳志(A級MissingLink

出演 棚瀬美幸(南船北馬)、樋口ミユ(劇団Ugly duckling)、芳崎洋子(糾〜あざない〜)、竜崎だいち(ミジンコターボ)、遠坂百合子(リリーエアライン)


「そのどこかに男たちはいたという」
作 棚瀬美幸(南船北馬)、樋口ミユ(劇団Ugly duckling)、芳崎洋子(糾〜あざない〜)、竜崎だいち(ミジンコターボ)、遠坂百合子(リリーエアライン)
演出 安武剛(トイガーデン)

出演 大塚宣幸(大阪バンガー帝国)、坂口修一、西田政彦(遊気舎)、ファック ジャパン(劇団衛星)、森田真和(尼崎ロマンポルノ

 土田英生(MONO)のOMS戯曲賞受賞作品である「その鉄塔に男たちはいるという」を女性だけのキャストで、土橋淳志(A級MissingLink)が演出し「女版」として再構成した。このキャストというのが全員、関西を代表するような劇作家でもあって、彼女たちが「その鉄塔に男たちはいるという」に対するオマージュとして書き下ろした短編5本をこちらは坂口修一、西田政彦(遊気舎)、ファック ジャパン(劇団衛星)ら関西を代表する男優5人が出演し、若手で今関西でもっとも注目株の演出家・安武剛(トイガーデン)が演出。この2本が1組になったような2本立て公演として企画された。
 MOMOによるオリジナル上演も見たことがあるが、今回の「その鉄塔に女たちはいるという」はキャストが女性に変わったことで台詞として不自然になった部分の修正など原作の脚色は小幅にとどめて、ほぼ原作に忠実にギミックはなく、新規な解釈もはさまずに上演された。
 それゆえ、戦場に慰問に来たお笑いグループのメンバーが近く起こるらしい大きな戦闘を前にして逃亡して、鉄塔に立て籠もる。そこに招かれざる客として1人の逃亡兵現れてという基本的に設定は同じ。だから、この登場人物が女性に代わるとかなり「リアリティー」という面では後退してしまうというのは否めない。
 ただ、今回は最初からこの5人で、というのがおそらく決まっていたのであろうキャスティングをうまくそれぞれの役柄に落とし込んで、皆それぞれの女優としての個性をうまく発揮できるようなキャラを演じさせて、それぞれの役者としての魅力を引き出していたのはよかった。特にのんびり・天然系に見えながら実は意外と反骨精神の強い女性を好演した遠坂百合子は演技には質感は当時とはまるで違うが、かつて惑星ピスタチオの看板女優だったことを思い出させるだけのものがあった。普段は作・演出だけで舞台に出演することが最近はあまりない棚瀬美幸も今回は出色の演技だった。これは引き出した土橋淳志の演出の手腕であろう。
オリジナルのMONOの上演では脚本がメンバーにほぼあて書きで書かれていて、そのため戯曲上設定されているそれぞれの役柄と実際の劇団活動におけるそれぞれの立場が二重写しになるような仕掛けがあり*1、一種の集団論として読み解くことができた。
 さらに1998年6月に改正された国際平和協力法(改正PKO協力法)に基づく自衛隊の海外派遣問題に絡んで、当時の日本やアメリカ、韓国、北朝鮮などの国際情勢を風刺するようなところもあった。つまり、そういう複数のレイヤーが重なり合うような場としてこの舞台のMONOによる初演は上演されていたのだ。
今回の上演ではそういった重層性は薄く、キャストされた5人の個性にもMONOのメンバーがそうだったようないるだけでその存在が愚かしくもおかしいというところがないので、それぞれの出演者の熱演とのあいまって、シリアスな「反戦劇」としての色合いがより濃く出ていたような気がした。もちろん、それを是とする見方もあるだろうと知ってのうえではあるが、MONOによる上演のイメージが強かったせいもあり、棚瀬美幸、遠坂百合子ら個々の役者の演技のよさを感じながらも個人的にはその部分の若干の違和感は最後までぬぐいさることが難しかった。ただ、違和感と書いたのは文字通り「もやもやっとした感じ」なのであって、完全にだからだめという否定的なものではなく、正確にそれがなになのかについて正体がつかめず、観劇から何日か経ってからもそのことを反芻し続けている。
だから、これは批評というよりは感想にすぎないのだが、その正体についてはもう少し考えてみたいと思う。

*1:例えば後から一員に加わる兵士役を演じた金替康博は時空劇場解散後、フリーで活動していたが当時正式にMONOのメンバーになって間もない時期だった