下北沢通信

中西理の下北沢通信

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活劇で描く故郷への鎮魂の物語 TAKE IT EASY!「御法度。」

活劇で描く故郷への鎮魂の物語 TAKE IT EASY!「御法度。」

中西 理<演劇コラムニスト>

 伸び盛りの若い劇団の舞台と出合う時はわくわくする気分を感じるものだがTAKE IT EASY!「御法度。」(6月13~15日、梅田HEP HALL)はまさにそんな旬を味あわせてくれる舞台だった。神戸に本拠を置くTAKE IT EASY!は作演出、役者がすべて女性という「女の子」劇団だが、エンターテインメントに徹していながら、作・演出の中井由梨子はそのなかにしっかりと骨太な主題も盛り込むことができる腕も持っている。
 「御法度。」は仏教系のエリート校阿曼陀羅学院を舞台に女優全員が男子学生を演じる学園コメディーで、少女漫画のキャラがそのまま抜け出してきたような軽妙な味はここならではのものだ。
 女優全員が男子学生を演じる「アモーレ学院」シリーズの新作で、古びたことで生命をえた生きた仏具たち(これは客演のi gardenの俳優らにより演じられる)が学生を操る陰謀とそれに巻き込まれておかしくなっていく学友を元にもどそうと戦うサナエサンタマルタ(前渕さなえ)らの活躍がさまざまなパロディ場面を交えながらコミカルに描かれる。キャラ重視、パロディ多用で思いだすのは劇団★新感線だが、向こうが少年漫画ならこちらは少女漫画のテイストといえる。人物が突然、宮崎アニメのキャラそのままの扮装で登場したり、人気のアドベンチャーズ・イン・モーションピクチャーズ白鳥の湖」をさっそくパロったり、自分たちの好きなものをどんどん作品に盛り込んで観客を楽しませようというサービス精神には共通点がある。
 一見単なる活劇風の作りだが、実はこの芝居には裏主題がある。それは失われたモノたちへの思いである。その代表としてランドセル、仏具が登場するが、自分たちを忘れた恨みを晴らそうと人を操り、怪をなすモノたちはサナエサンタマルタに名前をつけられることで成仏していく。そしてその延長線上に焼失した観音菩薩像とそれを守れなかった天井画の龍の悔恨の物語が現れる。その焼失は震災のためであった。ここまでくれば忘れられたモノたちとは神戸が震災にあい、時をへてその体験さえも薄れていく現実へのやりきれない思いの象徴とも受け取ることも出来る。「大切なことを忘れないで」というのがこの物語に中井がこめた主題なのだが、それは焼失した天井画の龍のイメージを通じて、失われた神戸への鎮魂の思いにもつながっていく。
 このシリーズの特徴は作品固有の設定としては前渕さなえ演じる新入生には山田英之という本名があっても、劇中では「サナエサンタマルタ」と愛称で呼ばれていて、シリーズ作品を通しての一貫したキャラが継続することだ。これは他の登場人物も同じで例えば山根千佳演じるキャラはいつでも「フレンチカ」、中村智子は「トモコリアン」、清水かおりは「カオリーゴ」と呼ばれる。
 その愛称は役者の本名(芸名)から取られているから観客はシリーズを通じて、俳優/役柄のキャラに親しみを持つようになる。いわゆる「キャラ萌え」といっていいが、アニメなどではよくある作品から自立してキャラクターが独り歩きするという枠組みを演劇に取り入れたのがTAKE IT EASY!の新しいところであろう。キャラ重視のやり方は劇団★新感線がすでに一部取り入れているし、歌舞伎や宝塚といったスターシステムの演劇には昔からあるが、このように意識的に徹底した例は演劇では珍しいのではないかと思う。

P.A.N.通信 Vol.46掲載

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