西田シャトナーによる「祝祭演劇」LOVE THE WORLD「リラックス」
中西 理<演劇コラムニスト>
大阪南港のふれあい港館の近くに立てられた野外劇場「ラフレシア円形劇場」でLOVE THE WORLD「リラックス」(5月5日18時~)を見た。西田シャトナーの新作で死刑が国民的祝祭として定期的に開かれる寓話的世界を舞台に展開する仮面劇である。以前、宮城聰の「祝祭としての演劇論」に共感を覚えるという話を聞いたことがあり、それを考え合わせるとこの舞台は西田による一種の祝祭演劇への試みではないかと思った。
この世界では死刑囚の刑が執行される時に一般の人たちは自分の罪を死刑囚になすりつけ、その罪の重さが一定量に達する死刑囚は涙のような液状の物質に変形し、それが飛び散ることでこの世界の罪が浄化される、という設定である。そのため死刑執行人が大変なエリートで、そのため皆が競争率の高いその学校を目指す。物語は幼いころに死刑に魅入られ、死刑執行人の学校に入学した少女リラ(天野美帆)が死刑囚として処刑されるまでが描かれる。寓話としてこの物語の構造を考えると祝祭としての生贄についての物語と読み解くことができる。
経験の浅い若い俳優たちを集めて結成したLOVE THE WORLDという集団の課題は俳優の未熟さにあって、前半部分のやりとりなどは見ていて「大丈夫だろうか」と思ってしまう。台詞回しや演技における技術的な欠陥は指摘すれば枚挙にいとまがないほどだが、それでも舞台としてみるべきものがあったのは集団の演技やパントマイム的表現の多用によって、この世界の人々の世界観が観客の側にもしっかりと伝わってきて、それがラストに向かって収斂して、祝祭演劇としてのカタルシスを生んでいるからだ。
この世界を見事に作り上げたのは西田の舞台に対する構想力の確かさもさることながら、ステージングとしてマイム演技、集団構成を指導したいいむろなおき、円形劇場に象徴的な空間を切り取る舞台美術を製作したはしのちなつらスタッフの力によるところも大きい。惑星ピスタチオ時代に生みだされパワーマイムと呼ばれた西田の空間演出のノウハウを超えた新たな演劇実験に向けて、この新たな協力者を得て一歩踏みだしたことが感じられ、その豊かな可能性への期待に興奮させられたのであった。
「祝祭の演劇」=「身体性の演劇」では舞台上で等身大を超えた存在になる資質を持つ俳優が必要であるのだが、その点ではまだ台詞回しなど技術的な問題はあるもののラストシーンで言葉を使わないでもリラという存在の巫女的性格を見事に体現してみせた天野美帆の演技には魅力と可能性を感じた。単に与えられた難役をこなしてみせたというにとどまらずに物語世界の収束していく要の存在が彼女であり、演技の稚拙をこえたところでこの舞台が成立したことには彼女の資質によるものが多いのではないかと思わせるところがあった。
LOVE THE WORLDの舞台を見たのは今回が2度目なのだが、これまではやりたいこととやれることのギャップで西田が苦吟している感があった。今回は思っていたことがやれたとは思わないが、やりたいことの方向性は感じ取ることができた。集団としても同じく出来る出来ないは別にしてやろうとしていることのベクトルは感じ取れた。この可能性が実際に舞台上で体現されるまでには時間がかかるとは思うが、それを楽しみにして待ちたい、そんな期待を抱かせる舞台だったのは間違いない。
P.A.N.通信 Vol.45掲載
web.archive.org