リリーエアライン「巨獣」(HEP HALL)を観劇。
元惑星ピスタチオの女優、遠坂百合子によるプロデュースユニットがリリーエアライン*1。今回はやはり元惑星ピスタチオの盟友である西田シャトナーが作演出を手掛けた新作「巨獣」を上演した。惑星ピスタチオを解散した後、シャトナーは若手の俳優を集めたLOVE THE WORLD*2や即興的な演劇を追求するシャトナー研といった惑星ピスタチオ時代とはかなり方向性の異なる枠組みで舞台づくりに取り組んできた。
それはそれで面白かったし、ピスタチオという枠組みでは不可能であったシャトナーの新たな可能性を共有できたという点で刺激的な舞台だった。しかし、今回はキャストも遠坂以外も若手ではなく中村恵子(演劇集団キャラメルボックス)、佐久間京子(元ランニングシアターダッシュ)、平林之英(劇団☆世界一団)、北村守(スクエア)と小劇場界の実力派俳優を集めてのキャスティングであった。それだけにここで西田がどんなものを見せてくれるのかには期待が大きかった。
結果は期待はなかば満たされたものの、いろんな面で不満も感じた舞台となってしまった。海賊たちの物語ということだが、モチーフとしては「白鯨」*3+「スタートレック」*4といったところであろうか。冒険活劇的なスピーディーな展開にそこに登場する想像上の「巨獣」を俳優たちのアンサンブル、身体表現だけで描いていくユニークな劇世界はまさにシャトナーならではのものだった。こういう舞台がひさびさに見られたのは惑星ピスタチオを注目してきたひとりのファンとしても感慨新たなものがあった。だが、残念ながらこの日の舞台を見る限りではそこでシャトナーが俳優を使って表現しようとしたと想像される世界と実際の俳優らの演技には明らかに乖離があるのではないかとも思われた。
特にそれが露わだったのは冒頭の集団によるアンサンブルの集団演技と客席方向を向いての個々の台詞が次々と重なってくる場面である。ここは舞台の印象を決定的にするこの芝居にとってもっとも重要な場面であり、舞台設定などが明らかにされるという点でも重要な台詞であるはずだが、発声に問題があるためか、活舌の問題なのか、あるいは激しい動きと台詞を同時に行うことの身体的負荷に耐えられないためか、台詞がほとんど意味のあるものとして聞こえてこない。特に音楽が重なってくるとますますそれはひどくなって、それは個々によって違うけれども、声を大きくしようとして張り上げたりするとそれが逆効果になってなにか意味不明の叫び声のようなものにしか聞こえなかったりする。
惑星ピスタチオ時代の役者たちが演技がうまかったのかというと一部の例外を除けばここに出ている出演者の方が俳優の技量としては上だと思うのだけれど、ピスタチオ時代はシアターアップルなど大劇場に進出して以降、若干活舌や発声に問題があるのではないかとの指摘はあったにしても、この日上演されたHEP HALL程度の規模の劇場においてまったく台詞が聞きとれないということはなかったはずだ。
まず、分かりやすいこともあって台詞の部分を取り上げたが、こういう演技の上での精度の低さを感じさせるところは実は動きの切れや集団で動く際のシンクロニシティなど細かいところを含めれば無数にあって、それが見ていてほんの微妙な違いではあっても塵もつもればなんとやらで、見ていていらいらさせられるのだ。
もっとも、こんなことを書いても慰めにもならないとも思うが、これがLOVE THE WORLDだったら元々、全然といっていいほどできていないので、こちらは次第に想像力によりそれを補うという作業を頭のなかではじめるので、逆に見慣れてくるとそれが気にならなくなるのだが、この「微妙な違いではあっても」というのが実は曲者で乗り越えようとして、なかなか困難なものなのだろう。
見てきて「これは明らかに稽古不足なのか」と思って、「本が遅かったのか」とシャトナーに確かめてみた*5のだが、本人の言葉を信じるならば「そうではない」ということだった。
もっともシャトナーの芝居の場合は惑星ピスタチオの絶頂期時代であっても、初日からしばらくは完成度が低いことはよくあって、そのことはえんげきのページの1行レビューなどを見ていると、最初は★とか★★とかが並んで厳しめの評が続いているのが、ある日を境に★★★★が続出する日が来る。そうなると「あ、やっと初日がでた」と思って、それから初めて劇場に出掛けたという経験がよくあった(笑い)。それゆえ、この公演も東京楽日(4月9日)までにはおおバケして近来稀に見る傑作となっていることもおおいにありえる*6のだが、惜しむらくはその時と比べれば公演回数が少なすぎることで……というか、役者も全員中堅以上のキャリアなんだし、それじゃだめだろう(笑い)。
*1:http://yaplog.jp/lily-airline/
*2:http://d.hatena.ne.jp/simokitazawa/20031221
*3:未見だがシャトナー研で上演したはず
*4:西田シャトナーのシャトナーはもちろんカークを演じたウィリアム・シャトナーから取られている
*5:過去の例からするとシャトナーには悪いがついこれをまず考えてしまう