下北沢通信

中西理の下北沢通信

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吉祥寺からっぽの劇場祭 コンサート【Play from someone(nice sound!)】額田大志 企画@吉祥寺シアター

吉祥寺からっぽの劇場祭 コンサート【Play from some one(nice sound!)】額田大志企画@吉祥寺シアター

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[吉祥寺からっぽの劇場祭] 額田大志『Play from someone(nice sound!)』
額田大志によるコンサート【Play from someone(nice sound!)】は映像配信やテクストがプログラムの中心となっている「吉祥寺からっぽの劇場祭」のなかでは数少ない劇場で実際に舞台が見られるプログラムである。とはいえ、コロナ禍における劇場のあり方について半ばコンセプチャルに思考したプログラムが並んだ同劇場祭だけに通常を越えた安全基準によって遂行されたコンサートであった。実際の模様はYoutube映像により確認することも可能であるので、上記のリンクの映像をぜひ参照してみてほしい。
 コンサートと銘打たれてはいるが、額田大志による作品はいわゆる音楽作品ではなく、舞台上に登場するパフォーマーがそこでおこなう行為によって発生される音を「音楽」と位置付けるものだ。舞台上での行為自体は額田大志によって演出されているため、これを演奏行為ととらえ、行為の演出を楽譜に準ずるような指定と考えれば現代音楽と考えることもできるだろうし、逆に行為自体を中心に見ればパフォーマンス(あるいは演劇)としてとらえることもできるだろう。

曲目
1. Nice ballet (distance)
誰もが演奏できる音楽。
演奏:綾門優季、大川智史、鈴木啓佑、野田夢乃、原田つむぎ、山下恵実
吉田恭大、渡邊織音、額田大志
作曲:額田大志

2. 服飾の音楽
ミシンの使用経験者が演奏できる音楽。
演奏:原田つむぎ  作曲:原田つむぎ、額田大志

3. テニスプレイヤーによる独奏
テニス経験者が演奏できる音楽。
演奏:鈴木啓佑  作曲;鈴木啓佑、額田大志

4. 通勤のためのアンサンブル
同じ勤務先の2人が集まったとき、演奏できる音楽。
演奏:大川智史、吉田恭大  作曲:大川智史、吉田恭大、額田大志

5. Book of Days
本好きが演奏できる音楽。
演奏:綾門優季  作曲:綾門優季、額田大志

6. 目指すべき場所
ダンサーが演奏できる音楽。
演奏:山下恵実  作曲:山下恵実、額田大志

7. Fire Flower Makers
2人の建築家が演奏できる音楽。
演奏:野田夢乃、渡邊織音  作曲:野田夢乃、渡邊織音、額田大志

8. Watermelon Party
この夏を楽しみたい、全ての人が演奏できる音楽。
演奏:綾門優季、大川智史、鈴木啓佑、野田夢乃、原田つむぎ、山下恵実
吉田恭大、渡邊織音  
作曲:額田大志

 舞台上で遂行される行為が自由に選ばれているわけではなく、出演者それぞれと紐づけられているのがいかにも額田大志らしい。額田は通常の演劇作品においても出演者それぞれの持ち味に合わせて、それを生かす演出を行いブリコラージュ的に舞台を創作することが多いが、ここでも同様の趣向は生かされていると思う。

[開催日時]
2020年8月8日(土)20:00~

[構成・演出]
額田大志(音楽家/演出家)

[演奏]
綾門優季
大川智史
鈴木啓佑
野田夢乃
原田つむぎ
山下恵実
吉田恭大
渡邊織音

[音響]
山川権
[撮影]
和久井幸一

[協力]
東京デスロック
青年団リンク キュイ
ヌトミック
コンプソンズ
グループ・野原
ひとごと。
企画内容
「吉祥寺からっぽの劇場祭」に参加している人々が、それぞれのバックグラウンドを活かして演奏するコンサート。
8人の演奏者が、ステージ上で1.5m程度の長さの棒を振りながら一定の距離を保ち続ける『Ensemble for distance』を始めとした全8曲を演奏。全曲が世界初演となる。

なお作曲は基本的に各演奏者と額田の共作となり、リハーサルで相談をしながら構成された。
作曲、及び演奏のプロセスには演奏者の「バックグラウンド」が用いられている。
バックグラウンドとは、例えば職業が大工であれば「釘打ちが上手い」、趣味がサイクリングであれば「自転車を漕ぐのに慣れている」など、それぞれの個人が持つ技術や経験のことである。
本作は、演奏家ではない人々が持つバックグラウンドを「音」に変換し、音楽として構成している。すなわち、それぞれの楽曲は「出演者と同じバックグラウンドを持つ人々」であれば、誰しもが奏でられる音楽でもある。
演奏をごく日常的な行為と捉え、創作から発表までを行うのが、本作『Play from someone(nice sound!)』である。

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