下北沢通信

中西理の下北沢通信

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コロナ下での五輪強行 戦時中の暴挙と二重写しに 笑の内閣「東京ご臨終〜インパール2020+1〜」@THEATRE E9 KYOTO

笑の内閣「東京ご臨終〜インパール2020+1〜」@THEATRE E9 KYOTO

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『東京ご臨終〜〜インパール2020+1〜』は、昨年時点ですでに構想があり、こまばアゴラ劇場で新作として上演するはずだったのが、作演出高間響の体調不良で演目差し替えとなった作品である。その構想がそのまま今回公開したあらすじに沿ったものであったかには疑問があるけれど、もうそうならば高間響の天才的な先見の明に驚嘆せずにはいられない。
劇場で実際に上演しながら俳優全員がZOOM画面のような箱型の装置=写真上=の中に入って進行する疑似ZOOM演劇。この仕掛け自体、いい意味で「どうかしている」としか思えないのだが、前回作品のZOOM時代劇「信長のリモート」の設定を引き継いで、第二次世界大戦の末期「インパール作戦」が実行された時にZOOMがあり、軍議をそれで行っていたらという突飛な設定で進行していく。

インパール作戦インパールさくせん、日本側作戦名:ウ号作戦〈ウごうさくせん〉)とは、第二次世界大戦大東亜戦争)のビルマ戦線において、1944年(昭和19年)3月に[3]帝国陸軍により開始、7月初旬まで継続された、援蔣ルートの遮断を戦略目的として、イギリス領インド帝国北東部の都市であるインパール攻略を目指した作戦のことである。作戦に参加したほとんどの日本兵が死亡したため、現在では「史上最悪の作戦」と言われている。
当初より軍内部でも慎重な意見があったものの、牟田口廉也中将の強硬な主張により作戦は決行された。兵站を無視し精神論を重視した杜撰な作戦により、多くの犠牲を出して歴史的敗北を喫したため、「無謀な作戦」の代名詞として、しばしば引用される。

 
以上がウィキペディアでのインパール作戦の解説だが、本作品では「一度決まったからには止められない」とこのコロナ禍においても世界の現状を顧みず東京五輪パラリンピック開催にまい進する日本(東京都)の姿をインパール作戦と二重重ねにして描き出していく。
 強固な自民党支持者で政府のやることはなんでも正しいというネトウヨ的な心性の持ち主でない限りは今年から1年延期された五輪が来年も開催することが困難であることは薄々分かっていることであると私は思っている。ところが、この国では政府も開催都市もマスコミもあたかもそのことに触れることが言霊として凶事を呼び込むことの原因になることのように公開の場ではそのことには触れないで、希望的観測だけで最悪のシナリオへと突き進んでいく。
 現在の客観的な状況を示さない情報操作(大本営発表)、反対意見を言わせないような状況づくり……。最悪と言われ、破滅の道に突き進んでいったインパール作戦でさえ、軍の当事者の多くは作戦自体の無謀さは知っていたが、忖度と自己保身により誰もその破滅への流れを止めることはできなかった。高間はそれと同じことが不可能な五輪開催にまい進する日本に起こっているのではないかと考え、それをコメディーに仕立て上げ、この作品を作った。
 実はこの作品のもうひとつの特徴は冒頭が東京都ではなくある大学(大東亜大学)の学内のZOOM会議から始まり、ここでは翌年に五輪開催を控えた大学がPR活動のために学生を五輪ボランティアに駆り出そうといの話し合いを設けることでスタートすることだ。
おそらく、昨年中止になった舞台「東京ご臨終〜インパール2020~」では灼熱が予想される気候状況や予算が膨大に膨らんでいく過程など、さまざまな困難を迎えた中で東京五輪を強行しようという人々と戦時中のインパール作戦を対比して描こうという従来からの作品構成があり、そこに降ってわいた新型コロナの状況が加わることで、一度決定したことはいかなる状況の悪化があり、そのままそれを進めてもうまくいかないという関係者個人個人の見解があっても、現実にはそれを撤回すると自分の誤りを全面的に認めることになり自らの存在基盤さえ危うくさせかねないという事情から撤回できないという日本(東京)の現状を描きだす。
 つまり、上に二重重ねと書いたが、この作品では6人の俳優がそれぞれ大学、東京都、戦時中の陸軍における人物の三役を演じている。同じ人物が似通った立場にある3役を演じることで、自然とそれが重なり合うような構成を作者は用意しているわけなのだ。
見てから思ったのは現代の東京都のコロナ対策と五輪の関連性を揶揄した社会批評的なコメディーとしては屋上屋を重ねる感があり、大学講師についての部分はプロット的に不必要とも感じるが、そうでありながらここまでこの物語を大きく扱わなければなかったことに作者の作家としての性(さが)を感じてしまった。
 この部分はあきらかに作者自身についてのことであり、作家本人が妻と離婚せざるをえなくなかった顛末についての近況が事実そのままではないにせよ、かなり赤裸々に語られているからだ。
 妻と別れた大学講師を過去に遡ってやりなおさせていることが、実は作者本人にはインパールや五輪と並ぶ、大きな主題なのかもしれない。その部分が必要以上に肥大化したために作品構造が破綻をきたしてしまっているのではないかとも感じたが、それでもそこを書きこまざるを得ないのが高間響で、そのことが個人的には好きだ。

 

牟田口廉也

大日本帝国陸軍で誰よりも恐れられた将軍。…ただし味方から

太平洋戦争末期の1944年。敗戦が濃厚になった大日本帝国で、ビルマ方面軍参謀の牟田口廉也は、ビルマからインドに抜けイギリス軍の重要拠点・インパールを急襲するという作戦を立てる。しかし、ビルマからインドに抜ける道は、道とは名ばかりのジャングルと3000m級の山脈だった。

牟田口以外誰もが「成功するわけがない」と思ったが口に出せず、なし崩し的に作戦は決定。案の定まともに進軍できなくても「一度決まったからには止められない」まま最悪の事態は進んでいく。

一方、舞台は2020年。この状況では来年でもオリンピックは開催できない、そう誰もが思っていても止められないまま進んでいく…。

笑の内閣の最新作は、過去と現代が目まぐるしく入れ替わる「一度決めたら止められないコメディ」
■日時
9月20日(日)19:00
21日(月・祝)13:00/19:00
22日(火・祝)11:00/16:30

■会場
THEATRE E9 KYOTO

■来場チケット
https://askyoto.or.jp/e9/ticket/20200920

■映像配信チケット
https://warainonaikaku.wixsite.com/index/gorinjumovie

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