下北沢通信

中西理の下北沢通信

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ブス会「女のみち2020~アンダーコロナの女たち」@本多劇場【Streaming+(配信)】

ブス会「女のみち2020~アンダーコロナの女たち」@本多劇場【Streaming+(配信)】

 コロナ自粛明けのAV撮影現場を描き出した群像会話劇。基本的にはコメディ仕立てで大いに笑えるが、脚本・演出を手掛けるペヤンヌマキは現役AV監督でもあるので、相当以上にリアルに関係者の日常を切り取っているのに加えて、AV現場への熱い思いも滲み出すようなものとなっている。
 AVの話とはなっているが、実はこれはそのまま演劇についての話とも受け取ることができる二重性があり、こういう作品がいま本多劇場で上演されるということには大きな意義があるかもしれない。
 コロナ対策をしながら撮影を進めているAV撮影の現場だが、登場人物それぞれでコロナに対する見方(意識)の違いがあることが芝居が進行していくなかで浮かび上がってくる。AVもそうだが、こういうことは演劇をやっていく中でも日常的に起こっていることではないか。もちらん、演劇やAVだけではなくて個々が体験するさまざまが現場において常に起こり続けている軋轢でもある。
 劇中に濃厚接触が不可欠のAVはコロナともっとも相性が悪い仕事だというようなセリフが出てくる。そして、登場人物の一人はそうであるから細かいことをいちいち気にしても意味がないと主張するのだが、最初に登場した時から椅子や化粧台など自分の周りをこれでもかこれでもかと神経質なまでに除菌をしている婦長役の女性(高野ゆらこ)は「だからこそ現場からは絶対に感染者を出してはいけないのだ」と反論する。「ただでさえ、世間一般からは反感を受けやすい業界なんだから、もし感染者が出たら世間の人たちはここぞとばかりに私たちを叩く。そうさせてはならない」などと自分の気持ちを吐露する。
 AV現場の話となっているが、実はこれと同じようなことを笑の内閣の高間響は演劇について話している。最近公開された舞台の配信映像向けのZOONアフタートークでも同じ主張をしていたが、これは演劇人のある程度共通する思いだと思う。高間はコロナ禍で上演されたZOOM時代劇「信長のリモート」にもZOOMアフタートークのゲストに演劇ファンでもある現役AV女優を招いて、コロナ禍での演劇とAVについてのトークを行ったが、こうした共通認識があることは重要だ。特に演劇界の一部には劇場にクラスターが出た時に「あれは演劇ではない」とか「私たちはああいうものとは違う」というような言説がかなり多く出てきたことで、いまこそそういう根源的なことを再考することが必要ではないかと思った。
 内田慈、もたい陽子、高野ゆらこの女優陣が見事な存在感を見せた。特に高野ゆらこは毛皮族に若手として出ていた時の印象が強かったせいもあって、いつの間にこういう感じになっていたのかと驚いた。勘違いではなく、同一人物だよなあ。貫禄がありいい女優になった。

脚本・演出:ペヤンヌマキ
出演者:内田慈 もたい陽子 高野ゆらこ 尾倉ケント / 安藤玉恵

https://live.eplus.jp/2067809