下北沢通信

中西理の下北沢通信

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PARCO劇場オープニング・シリーズ 三谷幸喜氏が書き下ろす新作『大地(Social Distancing Version)』WOWOW

PARCO劇場オープニング・シリーズ 三谷幸喜氏が書き下ろす新作『大地(Social Distancing Version)』WOWOW

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 本来はチケット予約して妻と一緒にPARCO劇場で観劇するはずだった舞台だが、WOWOWのStreamingで自宅での観劇となった。客席数を減らして、有料放送(WOWOW)の配信との併用ということになったわけだが、今後はこういう舞台が増えてくることになるのだろうと思う。
 ナチスドイツのそれを思わせるような強制収容所に収監された俳優たちを描いた群像劇だ。ユダヤ人などの民族的迫害ではなく、対象とされているのは演劇人たち。時の政府から有害かつ反政府的な存在と見なされて、隔離収容されてしまうという設定が皮肉で面白い。
 笑の内閣の高間響は自ら企画したZOOM演劇への宮台真司とのプレトーク対談で「世間の人から演劇あるいは芸術は憎まれている。理解されないと窮状を訴えるのではなく、自分たちはそういう存在だということを前提に行動を起こさないとならない」と語ったが、三谷幸喜の「大地」という舞台からもあいちトリエンナーレなどでの芸術全般への逆風やコロナ禍での演劇への世間からの風当たりの強さなど昨今の状況への危機感が感じられるといえよう。
 三谷幸喜には検閲への喜劇作家の闘いをコメディーとして仕立て上げた「笑の大学」という代表作があるが、そこまで直接政治的なものではないにしても、この物語にも権力に立ち向かう演劇人たちの矜持とそれと二律背反する英雄ならざる人間の小心も描かれる。
 そこにはコロナのもとで演劇はどのように振舞えばいいかの問題とも二重重ねになってくるような問題提議もある。物語の最後には観客の存在が演劇をやるものにとっては最大のモチベーションなのだというメッセージが語られる。この種のメッセージを直接作品で表現することは三谷にとって稀なことだが、そこには演劇が置かれた現状への思いを直接ぶつけたような強い意志も感じらせた。

演じるとは何か?笑うとは何か?生きるとは何か? 三谷幸喜が新生PARCO劇場に書き下ろす、三谷流俳優論。

作・演出:三谷幸喜
出演:大泉洋 山本耕史 竜星涼 栗原英雄 藤井隆 濱田龍臣 小澤雄太 まりゑ 相島一之 浅野和之 辻萬長

この日以外は配信チケットも販売。
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