下北沢通信

中西理の下北沢通信

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NODA・MAP(野田地図)第24回公演『フェイクスピア』@東京芸術劇場

NODA・MAP(野田地図)第24回公演『フェイクスピア』@東京芸術劇場

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野田秀樹演出の舞台を劇場で観劇するのはずいぶんひさしぶりのことかもしれないと考え、このブログを検索してみると「赤鬼」を配信で観劇しているほか、WOWOW「Q」を観劇。シネマ歌舞伎では「野田版 桜の森の満開の下」、宮城聰演出の「野田版 真夏の夜の夢*1などは見ているので、野田秀樹から長らく遠ざかっていたという意識はなかったのだが、野田秀樹演出の舞台を劇場で観劇するのは10年近く前の「THE BEE」*2以来だったかもしれない*3。今回の新作「フェイクスピア」は事前情報をほとんどいれずに出かけたのだが、表題はフェイク+シェイクスピアの造語なのだろうから「贋作 シェイクスピア」のような舞台になるんだろうなと思いながら観劇した。
冒頭から舞台はイタコのいる青森県の恐山という設定で展開し、白石加代子が演じるイタコ見習いが登場、そこに死者の口寄せをしてほしいと二人の男(高橋一生橋爪功)がやってくる。詳細は分からずともそのことだけでこの作品が死者たちを巡る物語となるのだろうということは想像がつく。作品では、冒頭から説明もなしに「私には三人の娘がいる」などと口寄せにやってきた男が「リア王」 のセリフを語りはじめる。以下「オセロ」「マクベス」「ハムレット」のセリフが次から次へと劇中の俳優によって語られていくから、「贋作 シェイクスピア」のような舞台という予想はそう大きくはずれたものではなかった。ただ、この「フェイクスピア」は例えば「贋作 罪と罰」のように下敷きとなる原作を野田流に翻案したものではない。そして、この作品が面白いのは「赤鬼」のように表題と劇の展開からはやばやとその結末が想像できてしまうということはなく、神様から預かったという「言の葉」というものが入った箱のようなものを巡る物語として、前述したシェイクスピアにさらに加えてプロメテウスの神話、「オデッセイア」、サン・テュグジュぺリ「星の王子さま」など多岐に渡る引用を交えながら、延々とう回にう回を重ねていき、なかなか結末にたどり着かないことである。
 そして、長い旅路の果てにたどり着いたのは私にとっては「なぜこれ選んだのだろう」という意味では相当に意外な出来事であった。その出来事を集団演技のアンサンブルで演じきった最後の数十分間はいかにも野田秀樹らしい場面といえるし、感動的でもあった。しかし、最後の最後まで私はこれをなぜ今芝居にしたのかという疑問が脳裏から消えることはなかった。そこで演じられた出来事がそれ自体としてではなく、現在進行形の出来事のメタファー(隠喩)として演じられたのかもしれないとも考えたがその解釈もどうもしっくりとはこないのだった。むしろ、現実に起こった出来事をすっかりそれが起きた時のままに舞台上で再現してみせた、それがフェイクつまり演劇の虚構であり、それこそがシェイクスピアから延々と繋がっている演劇の存在理由なのだというのが、この作品で野田が問いかけたいことなのだろう。
 とはいえ、この舞台の場合、舞台の魅力の多くの部分がそれを演じる俳優の魅力に支えられていたのは間違いないだろう。まず印象的であったのは橋爪功白石加代子というベテランの二人。それに主役格の高橋一生も加えた3人による丁々発止のやりとりは見どころが十分だった。シェイクスピアとその息子であるフェイクスピアを演じた野田秀樹はもちろん魅力的で彼でないと演じられないキャラクターだった。実はこの日の観劇の目的のひとつでもあったのだが、前田敦子も野田組初参加の割には持ち味をうまく発揮していたのではないかと思う。最近はよくも悪くもドラマなどでは等身大の役を演じることも多いが少年のような個性はやはり彼女の持ち味だ。星の王子さま役はよかったし、野田の過去作品の中にも彼女にやらせたい役がいくつも思い浮かんだ。彼女がいつか野田作品のヒロインを演じる日は訪れるのだろうか。
そして、もっと遠い未来になりそうだが、私はももクロファンであり演劇も好きだから、ももクロメンバーの雄姿も野田がまだ元気なうちにNODA MAPの舞台で見てみたい。「ぜひ百田夏菜子を」と書きかけたが、もし夢の遊民社時代の作品*4ならば立ち姿の美しさから玉井詩織一択かもしれない。ぜひ野田秀樹にも玉井詩織が座長を務める明治座の舞台視察に来てもらいたいが無理か。

野田秀樹、一年半ぶりの最新作は、その名も『フェイクスピア』。
“偽物”、“でたらめな”、“ごまかし”を指す“フェイク”。今やSNSから現実世界にまで蔓延る“フェイク”な「コトバ」。50年近く劇作という仕事に携わり、「コトバ」を生業にしてきた野田が、世界中を“フェイク”が跋扈する時代に、「コトバ」というものに正面から向き合ってみようという思いで新作に挑んでいる。
主演を務めるのはNODA・MAP初参加の高橋一生。八面六臂の大活躍を見せる高橋を始め、いずれ劣らぬ実力と類稀な個性に溢れた豪華俳優陣のケミストリーが、ベールに包まれた『フェイクスピア』の物語を濃密に描き出す!!
未だ混沌とする時代のなか、改めて生の演劇の悦楽を、さらには我々が生きる現代を、野田はどう描くのか。野田秀樹渾身の最新作をぜひご期待ください。

公演日
2021年6月1日(火) 開場18:15 開演19:00
会場
東京芸術劇場 プレイハウス (東京都)
席種・席番
補助席 (1階席に設置したハイチェア(ひじ掛けなし、浅い背もたれあり)) ×1枚
1階 LS列 9番


[作・演出]野田秀樹 [出演]高橋一生 / 川平慈英 / 伊原剛志 / 前田敦子 / 村岡希美 / 白石加代子 / 野田秀樹 / 橋爪功

*1:simokitazawa.hatenablog.com

*2:simokitazawa.hatenablog.com

*3:「Q」はチケットを購入していたが、急用で観劇は断念していた。

*4:キャンディーズ解散後3年後の1981年(昭和56年)には伊藤蘭夢の遊眠社の舞台『少年狩り』(野田秀樹作・演出・主演)に立っている。もちろん、舞台は見ていないが舞台写真で見る伊藤はなぜか玉井と二重重ねになる。もちろん、ももクロは解散も卒業もないはず。