下北沢通信

中西理の下北沢通信

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『赤鬼 』(作・演出:野田秀樹 )A team(『Akaoni』A team)@Youtube

『赤鬼 』(作・演出:野田秀樹 )A team(『Akaoni』A team)@Youtube

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東京芸術劇場が芸術監督の野田秀樹作演出により今夏上演した「赤鬼」を海外向けも意識しYoutubeで英語字幕を付けて配信、これを見ることができた。
上演は「東京演劇道場」と名付けた野田秀樹のワークショップの生徒により4種類の座組みで上演されたが、今回配信されたのはそのうちのA teamである。キャリアの薄い若手俳優が中心の配役ではあるが、関西小劇場出身で木ノ下歌舞伎などの舞台では常連の森田真和が赤鬼を演じたほかりゅーとぴあ出身で野田作品にも出演経験がある河内大和らもキャストも含まれている。
「赤鬼」は初演時から何度か見ている。だがこれまではあまりいい印象がなかった。それというのは主題はアウトサイダーに対する差別の問題と思われたが、差別の描き方があまりにもあからさまでステレオタイプに思われたからだ。
『赤鬼』は、1996年が初演なのだが、この作品は野田秀樹の英国留学時の経験が大きく影を落としているようにみえ、集団が特定の個人を差別して排除するというここで描かれた構造は外国人差別よりもむしろ当時大きな問題となっていた「いじめ問題」につながるように思えたが、「いじめ」では「赤鬼」にあるように明らかな他者(異物)に対する排除ではなく、何の違いもない任意の一人が差別されるようないじめ=差別の構造が問題だが、そういうこというを描いた作品としては物事を単純化しすぎているように感じ、当時の私にはリアリティーが感じられなかったのだ。
ところが、今回ひさしぶりにこの舞台を見てみるとだいぶ印象が変わってきた。これは作品というよりはその間の日本社会の変容にあるように思われる。
作品についてのインタビューで野田自身が英国初演時の失敗とその後の変化について語っているが、ここ最近の中韓の人に対する激しいヘイトや外国人労働者に対する差別などを鑑みても現代の方が初演時よりもはるかに作品のリアリティーは高まっているのではないかと思う。
さらに言えば森田真和の演じる鬼の姿も面白かった。鬼といえば大柄で狂暴というイメージがあるが、森田が小柄ということもあって彼の演じる赤鬼には異形ではあるが、どこか愛嬌もあってその分赤鬼の運命に対する同情心を引き起こす部分もある。それが大柄の英国人が赤鬼を演じた初演とはかなり異なる印象を受けることになった。
ヒロインの夏子もいい。彼女を見たのは始めてだと思う。まだ、まったくの未知数だが、野田の舞台で鮮烈なデビューをした黒木華に続くような存在になりえるかもしれない。

『赤鬼 』A team(『Akaoni』A team)
 
作・演出:野田秀樹

出演:
[あの女]夏子 [とんび]木山廉彬 [ミズカネ]河内大和(客演) [赤鬼]森田真和
[村人]池田遼 織田圭祐 金子岳憲 佐々木富貴子 末冨真由 扇田拓也 八条院蔵人 花島令 広澤草 深井順子 藤井咲有里 間瀬奈都美 三嶋健太

企画制作:東京芸術劇場

収録日:2020年7月27日(月)
会場・会期:シアターイースト(2020年7~8月上演)