下北沢通信

中西理の下北沢通信

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演劇とは何なのか?岡本太郎「明日の神話」へのオマージュこめた異色作。悪い芝居「愛しのボカン」(1回目)@下北沢本多劇場

悪い芝居「愛しのボカン」(1回目)@下北沢本多劇場

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山崎彬の新作である悪い芝居「愛しのボカン」は前回公演*1に続き下北沢本多劇場での公演となった。この新作は明らかにここ最近山崎彬が手掛けてきたものとは毛色が違う。物語は主人公格の明日野不発(赤澤遼太郎)が渋谷駅から下北沢駅に向かう途中で岡本太郎による巨大な壁画「明日の神話」=写真下=に出会うところから始まる。
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そして、この作品には「ボカン」と呼ばれている芸術行為を遂行している奇妙な芸術集団が登場するのだが、彼らの行為は前衛芸術家であった岡本太郎の芸術論がかなり深い関係で組み込まれているようで、作品全体も岡本太郎へのオマージュといっていいものになっている。それを「ボカン」と名付けたのは往年のコマーシャルで岡本太郎自身が自ら発言して、タモリらが物真似で揶揄的に捉えた「芸術は爆発だ」という一種の芸術論からなのだろうと思う。
当日パンフで山崎彬は「引用および参考文献」として「壁を破る言葉」「自分の中に毒を持て」*2「自分の運命に楯を突け」「自分の中に孤独を抱け」などの岡本の著書と平野暁臣の「岡本太郎の仕事論」*3を挙げている。
「ボカン」という集団は演劇や映画のように映画館や劇場で観客に対して作品を発表するのではなく、日常空間での芸術行為を通じて世界を変えていこうとしていく一種のユートピア思想のようなことを行おうとしているのだが、岡本太郎とこれらの芸術行為との関係は一度の観劇だけではよく分からない点も多い。
 それというのも岡本太郎は渋谷の壁画(もともとは海外向けに提供された作品だったが)をはじめ多くのパブリックアートに精力を注いだ人というのは間違いないが、ここで「ボカン」の例として示される「喫茶店で不和なカップルの喧嘩の演技をし続ける」とかのハプニング的行為は美術としてみれば60年代の現代美術でよく見られたもので、演劇側から見ればむしろ寺山修司を連想させるのであって、岡本との関係は薄いと感じるからだ。
 いずれにせよ山崎彬がコロナ禍で世間の演劇への無関心あるいは冷淡さの中でマイナージャンルの演劇の世界で少数の演劇好きだけが集まって作品や俳優のいい悪いを評価するような状況というのは単なる自己満足にすぎないのではないかと実感させられたことが「愛しのボカン」の制作の大きな動機となっているのではないか。この舞台を見ながらそんな風に感じた。
 山崎彬のこれまでの作風はどちらかというと「いかにも演劇らしい演劇」であって「演劇についての演劇」とかメタシアター的な構えの作品はあまりなかった。それだけに今回のこれが演劇のモチーフとしての一過性のものなのか、作風の変貌の端緒となるものなのかには注目していきたい。
 この作品は構成的にも興味深い。後半部分がほぼまるごと劇中劇として本多劇場で芸術集団「ボカン」が上演している演劇という体際になっているからだ。しかも、最後まで悪い芝居「愛しのボカン」としてのカーテンコールはなくて、役者紹介も役名のまま、公演主体の紹介も劇中劇の中のものとなっていて、そのまま舞台は入れ子の外側に戻ることはなく終了してしまう。これには驚かされたが、それだけではない。考えてみれば悪い芝居「愛しのボカン」の冒頭はそのまま芸術集団「ボカン」の本番前の描写になっていて、そちらは劇中劇からは始まっていない。この辺りの構成的な呼応関係の不一致は何を意味しているのか。これについては思うところがないではないのだけれど、月曜日にもう一度観劇するのでそこで再確認することにしたい。

作・演出山崎彬

音楽
岡田太郎

出演
東直輝
植田順平
潮みか
香月ハル
中西柚貴
山崎彬
(以上悪い芝居)

赤澤遼太郎
山脇辰哉
伊藤ナツキ
池岡亮介
齋藤明里(柿喰う客)
中村るみ
佐藤新太(第27班)
難波なう
川鍋知記
渡邊真砂珠(文学座
井上メテオ(アイアムアイ)
​采乃

スケジュール

3月18日[金] 19:00
3月19日[土] 13:00/ 18:00
3月20日[日] 13:00 ★/ 18:00 ★
3月21日[月] 14:00

★:映像収録回

simokitazawa.hatenablog.com