下北沢通信

中西理の下北沢通信

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劇場から外に「ボカン」は今も続く 悪い芝居「愛しのボカン」(2回目)@下北沢本多劇場

悪い芝居「愛しのボカン」(2回目)@下北沢本多劇場


山崎彬の新作である悪い芝居「愛しのボカン」は前回公演*1に続き下北沢本多劇場での公演となった。ただ、緻密に作りこんだ感のあった前作とは違いストロングスタイルの圧倒的パワーで押しまくる「悪い芝居」ならではと思わせる舞台であった。
劇団から招待をいただき、二度目の観劇。舞台上には大勢の人がいつもおり、いろんなことが同時に起こっている。時間当たりの情報量が非常に多い作品で、一度だけでは消化しきれない部分もあった。公演の規模から言って自力で何度も行くのは難しいから非常に有難かった。
最初の観劇で不可解に思ったラストシーンだが、この舞台には作品の外枠がないという演出。そしてそうすることで、これは悪い芝居による演劇の公演ではなく、あくまで「ボカン」による本多劇場公演であり、それはいまでも続いている。三度もカーテンコールを受けながら、出演者が名乗るのは毎回登場人物の役名で、役者の名前も悪い芝居の名前も一度も名乗らない。それほど徹底的なこだわりを見せたラストはここで行われていたことは単なる舞台上の出来事ではなく、いまも「ボカン」はそこここで行われている。そういうメッセージなんだなというのがはっきり理解できた。
 そして、「ボカン」というのが何かと考えて浮かび上がってきたのは「ボカン」というのは要するに山崎彬自身そして悪い芝居のことなのではないかということだ。
 京都の大学で演劇サークルの先輩に「演劇で世の中を変えてみないか」と誘われて演劇サークルに入ったという話は何かどのように演劇を始めたかというインタビューで山崎自身の体験として聞いたことがあるような気がする。そして、そう考えてみると、受からないオーディションを受け続ける俳優、壁にぶち当たって自分の進む道が分からずもがく元アイドル……。ここに登場する人物は皆そのまま描いているわけではないけれど悪い芝居の活動を通じて山崎彬が出会った人々がモデルなのではないか。そんな風に考えると「ボカン」というのはこうなったらいいなと山崎が考える「幻想のもうひとつの悪い芝居」なのかもしれない。だからこの世界には悪い芝居は登場しないし、カーテンコールで現れることもない。そういうことではないかと思ったのである。それならば本多劇場でのこの公演が終わっても、今度は劇場の外でも「ボカン」は続くし、私たちがそれを目撃したり、Tik TokやYoutubeでバズったそれを見ることも起こるはずだ。

作・演出山崎彬

音楽
岡田太郎

出演
東直輝
植田順平
潮みか
香月ハル
中西柚貴
山崎彬
(以上悪い芝居)

赤澤遼太郎
山脇辰哉
伊藤ナツキ
池岡亮介
齋藤明里(柿喰う客)
中村るみ
佐藤新太(第27班)
難波なう
川鍋知記
渡邊真砂珠(文学座
井上メテオ(アイアムアイ)
​采乃

スケジュール

3月18日[金] 19:00
3月19日[土] 13:00/ 18:00
3月20日[日] 13:00 ★/ 18:00 ★
3月21日[月] 14:00

★:映像収録回

simokitazawa.hatenablog.com