下北沢通信

中西理の下北沢通信

現代演劇やコンテンポラリーダンス、アイドル、ミステリなど様々な文化的事象を批評するサイト。ブログの読者募集中。上記についての原稿執筆引き受けます。転載依頼も大歓迎。simokita123@gmail.comに連絡お願いします。

WhiteプロジェクトSHINSAI10th『震災演劇短編集』@こまばアゴラ劇場

WhiteプロジェクトSHINSAI10th『震災演劇短編集』@こまばアゴラ劇場

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東日本大震災以来10年の長きにわたって震災をモチーフにした作品を作りつづけてきたWhiteプロジェクトによる東京公演。この日は短編3本が上演された。この日に上演されたのはRequiem3部作と名付けられている「前夜」「海月と花火」「ニライカナイの風」の3本である。
今回参加した関係者全員が被災者ではないとしても実際に被災した人や震災で家族を失った関係者からの聞き取りを基にした創作であり、そういう意味では「被災当事者」による作品だといっていいだろう。震災にも被災者による震災体験を語る「語り部」が存在するようなのだが、この集団は自らをそれに準えて「語り部演劇」と位置付けているようで、10年以上が経過して震災体験の風化が進んでいるのではないかという中では特に地元ではこういう活動は重要なのだと思う。
ただ、昨年まとめた「東日本大震災から10年 震災劇ベストアクトを選ぶ 」*1でも書いたのだが震災劇において重要なのは震災との距離感をどのように意識してつくるのかではないかという問題点を再び考えさせられた。その論考では被災と作り手側の距離がほぼゼロである飴屋法水「ブルーシート」と十分に当事者からは距離をとりながら綿密な取材をもとに福島の震災後を俯瞰的に描き出した谷賢一「福島三部作」を両極に置き、その他の作品をその間に配置した。そうしたマッピングにRequiem3部作も置くとすると作り手と被災体験の距離があまりない「ブルーシート」寄りに位置づけられるかもしれない。
 飴屋作品は「当事者」のドキュメント性を生かしながら演劇作品としては虚構性の強いものだったが、Whiteプロジェクトはどうも事実であることに寄りすぎていないかと疑問を持った。この作品には「どのような手法で表現したらこの未曽有の出来事をリアルに感じられるのか」ということに対する疑いがなさすぎるんではないかと感じてしまったのだ。
 それは演劇という方法への疑いのなさでもあるかもしれない。今回の作品を見て3本ともに感じたのは「芝居っぽい」ということである。それに近いことは本当にあったのかもしれないけれど、例え事実を基にしていてもどこか作り物のお話に見えてしまう。なぜかと考えると作家も俳優も演出家もいい「演劇」を作ろうとしているからではないかと思った。
 早逝した岸田國士戯曲賞作家の深津篤史は自らも被災した阪神大震災直後に「カラカラ」という作品を作った。それは被災地の避難所を舞台にした20~30分程度の短編演劇だったが、被災直後の空虚な心象風景のようなものを表現したほとんど何も起こらない演劇だった。深津は震災のような未曽有の体験を通常の形態で演劇化することの不可能性に悩み、「ほとんどなにも表現できるものがなかったからだ」と聞いた記憶がある。
 そして、亡くなるまでの間に深津は何らかの形で震災にかかわる作品をいろんな形式で数多く手掛けたが、そこにはいつもぎりぎり表現可能なことと不可能なことのせめぎあいがあった。
 おそらく、作品作りにおけるスタンスがまったく異なるのだろうと思うけれども、残念ながらWhiteプロジェクトの舞台からは演劇で表現できることとできないことのせめぎあいのようなものを感じ取ることはいっさいできなかった。震災劇については作られた時期によっても違いは出てくるはずだし、複数の作家も参加しているようなので他の作品はどうなのかについても知りたいところだが今後の作品作りでは事実なら観客にリアルに伝わるわけではないということも熟慮してほしいと感じた。作品はお芝居としては良く出来ていて、楽しむことができたけれど私が震災劇に望むのはそういうものではないということも今回の舞台を見てはっきりさせられた。

作・演出:井伏銀太郎 演出:西澤由美子
東日本大震災から早10年、私たちWhiteプロジェクトが命を見つめ作り続けてきた短編を3パターンに分け7作品上演します。被災地で実際起きた出来事を元に創作しています。コロナ禍で全世界が被災地となり突然家族を失う悲しみ、それを乗り越える姿は今なお色褪せないと信じています。


2011年東日本大震災直後、Gin’s Barとアクターズ仙台を中心に7劇団の有志が集まり結成しました。これまで東北を中心に、東京、横浜、名古屋、大阪、新潟、長野、大分で上演してきました。



出演
井伏銀太郎、西澤由美子、恋宵、五浄壇、フラッシュ智恵子、小崎洋美

スタッフ
スタッフ:鈴木匡兵、アクターズ仙台

日時
2022年3月18日[金] - 3月21日[月·祝]

3月18日 金 AB19:00
19日 土 AB15:00 AB18:00★
20日 日 C15:00 C18:00★
21日 月祝 C13:00
開場時間、受付開始時間ともに開演の30分前


[!] A・Bの演目を統合し、4本立ての上演となりました。18、19日両日とも同内容となります。(2022.2.27)
3月18日(金)AB 「イーハトーヴの雪」「第二章 -祈りの環-」「Prelude -天使が生まれた日-」「桜ひとひら
3月19日(土)AB 「イーハトーヴの雪」「第二章 -祈りの環-」「Prelude -天使が生まれた日-」「桜ひとひら
3月20日(日)C Requiem3部作「前夜」「海月と花火」「ニライカナイの風」
3月21日(月)C Requiem3部作「前夜」「海月と花火」「ニライカナイの風」

★3月19日(土)・20(日)18時の回終了後30分程度
Whiteプロジェクトメンバーによるアフタートーク「震災演劇の10年」