下北沢通信

中西理の下北沢通信

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「該当作なし」について私が思ったこと。 第65回岸田國士戯曲賞、今年は該当作なしに。

第65回岸田國士戯曲賞、今年は該当作なし

今年の岸田國士戯曲賞の選考委員会があり、今年は該当作品なしに。結果そのものよりも野田秀樹の選評*1にあきれかえった。

[選考委員のコメント]
コロナを意識しすぎて距離感のとれていない作品が多かった。戯曲のコトバとしても、こちらをワクワクさせるものが少なかった。(野田秀樹

「コロナを意識しすぎて距離感のとれていない」というが、この未曽有の状況下でコロナを意識するのは当たり前で、私に言わせればどれだけ意識しても意識しすぎるということはない。例年選んでいる演劇ベストアクトにも「こうした稀有の出来事に演劇作家たちがどのように立ち向かったのかということを無視して、選ぶということはできない」と書いた。
2020年の演劇界を振り返って書いた文章に「コロナ禍を一過性の問題ととらえ、感染対策を施しながらもできるだけ早く以前のような形態での公演が打ちたいと考える人たちとコロナを前提としての新たな表現形態の模索を考えはじめた作家との間に大きな差異が生じてきた」と書き、さらに「実はこのころから多くの若手演劇人と中劇場以上の規模で公演することが多い中堅以上の劇作家・演出家ではポストコロナに対する認識の差が大きく乖離してきたように思える」とも書いたが、この野田のコメントなどはまさにそういう意識の乖離を体現したような内容となっているとしか思えない。実際の選考で選考委員全員が野田の示したような考え方で統一されていたのか、こういう時だからこそ、コロナの年を示す象徴的な作品を受賞させるべきだという趣旨の主張をした委員はいなかったのか。今年こそ例年以上に議論の内容の開示が求められると思う。

こうなったそうです。とっても正直に言うと、このような大変な時代に、今まで通りの演劇という形すら守れるかわからないこのご時世に、自分がとるとらないは別として「受賞作なし」だけは演劇界のためにならなすぎるからやめてくれ、と思っていました。
もちろん状況と作品の評価というのは別であることはわかります。「大変だったのだからあげよう。」となって欲しいわけではありません。
ただ、賞とはもちろん個人や作品へのものですが、その業界が盛り上がるために存在している部分もあるとわたしは思っているので、なかなかショックな結果でした。
「コロナを意識しすぎている」と全作品をまとめた理由での該当作なしという結果を出すくらいならば、せめて岸田國士戯曲賞を今年は開催しなかった方がまだよかったんじゃないかとわたしは思いました。あくまでわたしの意見です。(中略)岸田賞の先輩方とわたしはどうやら大事にしているものが違うようです。
https://instagram.com/nemochimaki/

 最終候補に残っていたひとりである根本宗子が自らの立場を悪くするのも顧みずにインスタグラムに上記のような内容の文章を載せたが、私は個人的にはこちらの意見に完全に同意である。ちなみに私が2020年の戯曲で1本選ぶとすれば最終にノミネートもされていないZOOM時代劇、笑の内閣「信長のリモート」(高間響)である。



以下が最終候補の8作品。

岩崎う大『君とならどんな夕暮れも怖くない』
長田育恵『ゲルニカ
小田尚稔『罪と愛』*2
金山寿甲『A-②活動の継続・再開のための公演』
小御門優一郎『それでも笑えれば』
内藤裕子『光射ス森』
根本宗子『もっとも大いなる愛へ』*3
横山拓也『The last night recipe』

実際に公演を見ているのは根本宗子『もっとも大いなる愛へ』、小田尚稔『罪と愛』の2本だけなので受賞者の予想は難しいが、この2つについてはいずれも私が2020年演劇ベストアクト*4に選んだ秀作でもあり、候補にノミネートされたことは喜ばしいと思っている。上記の2人は若手作家として才能を感じる2人でもあり、もし受賞すれば大きな飛躍のきっかけとなりそうなので、そういう意味では今年はこの2人の応援モードで臨みたい。個人的には根本宗子作品は本多劇場で無観客配信のみで上演された作品でもあり、「戯曲賞であるのでそういうことは関係ない」という意見も出てこようが、今年を象徴する作品という意味合いもあるのではないかとも思う。
 昨年のノミネート時点でのブログ*5ではいきなり「焦点はすでに鶴屋南北戯曲賞を受賞している谷賢一のダブル受賞がなるかどうかだが」とはったりをかまし、「同時受賞の可能性があるとすればこのところ毎年のように受賞が期待されている女性作家。市原佐都子あたりが有力か」などとも書き、予想はほぼ的中したが、今年はほとんどの作品を見てはいないうえに有力作品として挙げた2作品もそれぞれ谷賢一の「福島三部作」ほど突出しているとは思わないので、予想は難しいかもしれない。
 昨年のブログに「なぜノミネートされなかったのか」と書いた横山拓也が今年は入っていて、この作品は見てはいないが、実力があることは折り紙付きなので、満を持しての受賞もあるかもしれない。候補者常連となりつつある長田育恵ももうそろそろ受賞しても良いころかもしれない。*6
選考会は3月12日17:00から、東京・學士會館で行われる。選考委員は岩松了岡田利規ケラリーノ・サンドロヴィッチ野田秀樹平田オリザ矢内原美邦柳美里の7人。

*1:選考委員のひとりによればコメントは白水社編集部の求めに応じて野田が口頭で答えたもので、しかもコロナについてはコメントしてないという。白水社に抗議したいともしていたが、そもそも野田のコメントが後段の「戯曲のコトバとしても、こちらをワクワクさせるものが少なかった」だけならよくあることだし、こんな文章も書いていない。いったい何が真実なんだろう?

*2:simokitazawa.hatenablog.com

*3:simokitazawa.hatenablog.com

*4:simokitazawa.hatenablog.com

*5:simokitazawa.hatenablog.com

*6:ただ、これらの作品は観劇できてないので、これ以上の予想は難しい。