下北沢通信

中西理の下北沢通信

現代演劇やコンテンポラリーダンス、アイドル、ミステリなど様々な文化的事象を批評するサイト。ブログの読者募集中。上記についての原稿執筆引き受けます。転載依頼も大歓迎。simokita123@gmail.comに連絡お願いします。

斉藤由貴 ~Billboard Live Tour "水響曲" featuring 武部聡志~

斉藤由貴Billboard Live Tour "水響曲" featuring 武部聡志


卒業 from 水響曲 スタジオライブ(feat. 武部聡志)
f:id:simokitazawa:20210402193207j:plain
斉藤由貴のライブは素晴らしかった。この人はやはり歌手というよりは根っからの女優だと思うのだが、女優ならではの感情の発露がそのまま歌に乗せられた時に技術に頼った歌手には届かないような表現が立ち現れるのではないか。この日のライブを見てそう感じた。
特に本編最後の曲となった「卒業」とアンコール曲となった「MAY」「さよなら」でのいまにも涙を流しそうな感情移入のされ方には凄まじいものがあって、これをみられただけでも来たかいがあったと思った。
 斉藤由貴のライブは以前見たことがあるのだが、それは1995年1月の天王洲アートスフィア(現銀河劇場)でのライブ。だから、今回は26年ぶりの生ライブ鑑賞となる。実はその時は歌唱のイメージよりはつかこうへい作品の演出などで知られる岡村俊一がライブ演出を担当していて、ステージ上で突然「きょう限りで引退します」とサプライズで宣言するというような演劇的な趣向が仕掛けられていたということの方が強く記憶に刻まれている*1。 
 今回はもちろんそうしたギミックな演出はなく、武部聡志の新アレンジによるピアノと弦楽カルテットによるシンプルな伴奏と斉藤由貴の声だけでたっぷりと表現された世界観を堪能させてくれた。
若い頃からのファンではあるが、もともとは女優としての彼女のファンで高井麻巳子と共演した「恋する女たち」やこの日も歌われた「さよなら」が主題歌であった「さよならの女たち」など大森一樹作品で見せた女優としての魅力に魅了された。
若い時と比べると若干かすれる度合いが増したという気はするが、この人のささやくようなウィスパーボイスはやはりワンアンドオンリーな魅力だと思う。こういうことを書くとまた老害と言われそうだが、いわゆる歌唱テクニックはあっても最近の若い歌手は皆同じような歌い方に聴こえる。もちろん、斉藤由貴の歌だけがいいと言っているわけではなく、松田聖子にしても山口百恵にしてもそれぞれ全く違う歌い方でそれぞれに魅力的な個性があった。こんなことをことさら書くのも、私はももクロが好きで彼女たちにはメンバーひとりひとりの歌い方に異なる特徴があって、それが魅力的だと思うのだが、最近の上手いとされている歌手の歌唱法とまるで違う歌い方なのでいまだに下手だという人がいて、この斉藤由貴のように汎用性のある歌唱技術よりも自分の個性を突き詰めた人の方が私には魅力的だし、ももクロにもそうなってもらいたいと思っているからだ。
こんな風に突然斉藤由貴とまったく関係がないようなアイドルの話を持ち出したことには実は理由が無いわけでもない。
アルバム「水響曲」のアレンジとこの日のライブの音楽プロデューサーでもある武部聡志は実はももクロライブの初代音楽も務めたももクロの育ての親の1人でもあったからだ。
実は武部聡志音楽監督時代のメンバーで現在はシンガーソングライターとして活動している有安杏果ももクロ在籍時に武部のラジオ番組に出て、いつかブルーノートでライブが出きるようになりたいと夢を語っていたことがあった。
偶然ではあるが、この日の翌日には杏果が仙台PITで弾き語りによるソロライブ、ももクロ横浜アリーナで企画ライブを行う予定なのだが、何年か後にはビルボードライブやブルーノートでも両者のライブを見てみたいとも考えてしまった。

○卒業
○白い炎
○初戀
○情熱
悲しみよこんにちは
○青空のかけら
○MAY
砂の城
○「さよなら」
○AXIA〜かなしいことり〜
全10曲収録

*1:斉藤由貴自身は迫真の演技でこれをこなしていたが、私自身は照明を担当していたのも演劇を通じて知っているスタッフで突然のはずなのにあらかじめピンスポットが移動した位置をあらかじめ狙っていたことなどから、お芝居なんだというのは気が付いていた。