京の年中行事 當る寅歳吉例顔見世興行 「東西合同大歌舞伎」(第一部)@南座
京の年中行事 當る寅歳吉例顔見世興行 「東西合同大歌舞伎」観劇2日目。この日のメインは近松門左衛門の「曽根崎心中」。さすがにこの演目は実際にこの日見る以前からそれぞれの場面設定も筋立ても記憶しているから過去に何度も見ているはずだが、観劇記録は残していなくて、唯一残っていたのは2004年4月の「浪花花形歌舞伎」(大阪松竹座)*1。その時は扇雀のお初(ダブルキャスト、もう1人は翫雀)に鴈治郎(坂田藤十郎)の徳兵衛だった。今回は坂田藤十郎三回忌追善狂言として、鴈治郎(徳兵衛)、扇雀(お初)の兄弟コンビで上演されたが、これがよかった。いままで見た「曽根崎」の中でも最上の部類となっていたのではないか。親子共演は松竹座以降も何度か見たことがあるはずだが、やはりバランスはこちらの方がいい。現代の眼で見ると近松の心中ものの中でも「曽根崎」の徳兵衛は本当に情けなくて、見ていていらつきそうになるほどなのだが、強気のお初との相性はある意味いいのかもしれなくて、女性上位に現代性も感じた。この物語はこれまでははっきりとは気が付かなかったが、「封印切り」のように追い込まれて罪を犯してしまうというのではなくて、二人が死出の旅についた後に無実が証明され、心中する必要などなかったのにその情報が届かなかったことから心中に至ってしまったという二重の悲劇性があり、若い二人の死という面でもシェイクスピアの「ロミオとジュリエット」(もちろんこちらは心中ではないのだが)とシンクロする部分があるとあらためて感じた。とはいえ、お初とジュリエットには共通点ありとは思うのだが、ロミオと徳兵衛は性格的には正反対とも言ってよい。徳兵衛は喜劇的な様相もあり下手をすると「おもしろ」になってもおかしくないところを(こんなことを書くと歌舞伎ファンには怒られそうだが)鴈治郎はぎりぎりのところで踏みとどまっていたと思う。
もう1本の「晒三番叟」は壱太郎、虎之介、鷹之資と鴈治郎、扇雀の子供世代による若い座組み。発声にところどころ若さ、軽さを感じてしまうところはないではないが、特に壱太郎など女形としての立ち姿が美しく、今後が楽しみな出来ばえであったと思う。壱太郎はヨーロッパ企画の上田誠の舞台『夜は短し歩けよ乙女』*2でも好演していて、現代の若者らしいなかなかよい持ち味を出していたので歌舞伎以外での活躍も期待しているのだが、これまでは父も祖父も立ち役も女形も両方を演じた家系でもあり、歌舞伎でも立ち役での演技が増えてくるのではないか。とはいえ、遠からず壱太郎がお初あるいは徳兵衛をやる時もやってくるであろうから、これも楽しみである。
第一部
第一、晒三番叟(さらしさんばそう)
如月姫
佐々木小太郎行氏
結城三郎貞光
壱太郎
虎之介
鷹之資
近松門左衛門 作 宇野信夫 脚本・演出
第二、曽根崎心中(そねざきしんじゅう)平野屋徳兵衛
天満屋お初
手代茂兵衛
下女お玉
天満屋惣兵衛
油屋九平次
平野屋久右衛門
鴈治郎
扇 雀
虎之介
寿治郎
松之助
亀 鶴
梅 玉