浪江女子発組合「2021年JA浪江 組合総会 あいのりきっぷ」@ LINE CUBE SHIBUYA (渋谷公会堂)
ももクロの佐々木彩夏(あーりん)がプロデュースする浪江女子発組合のライブ(組合総会)をLINE CUBE SHIBUYA (渋谷公会堂) で見た。先日のももクロのひさびさの大規模会場(さいたまスーパーアリーナ)でのライブは素晴らしかったが、会場の規模こそ違うが、「過去から現在へ」という時の流れを感じさせるという意味ではそれと比べても遜色がないほどのいいライブだったのではないか。やはり、あーりん企画のライブ*1にははずれなしと改めて思った。
今回のライブの目玉は新曲や新衣装の披露もあったが、それでもクリスマスメドレーから引き続きはじまったメンバーそれぞれによるカバー曲の披露のブロックだろう。もちろん、浪江女子発組合は東日本大震災の被災からの復興を目指す福島県浪江町を応援するためのアイドルグループというのはこのグループのレーゾンデートル(存在理由)でもあり、それはそれで動かないのだが、ここに来てそれに次ぐ第二のこのグループのコンセプトが明確になってきたのではないかと思う。それは「3Bjuniorの魂を受け継ぐものたち」というものだ。
3Bjuniorはメンバー26人で構成される女性アイドルグループとして、2014年11月1日より活動開始。2018年11月3日を以て活動を休止した。この活動休止に関しては当時のファンの間から不平不満が出ていたのは知っていたが、私自身はもともとこのグループは育成を目的にして設立されたグループであったから、このままどこかのレコード会社でメジャーデビューするということはありえず、そこからロッカジャポニカ、はちみつロケットというメジャー契約グループをふたつも輩出、3Bjunior解散後残ってアイドルを続けたいというメンバーにより、アメフラっシが設立されたことで、一定以上の成果を上げたということはいえるのではないかと思う。
そして、3Bjuniorはももクロの生みの親である川上アキラの手によって発足したプロジェクトとして、私立恵比寿中学、TEAMSHACHI、たこやきレインボーなどとは違いももクロの直系の妹分と言って良い。
浪江女子発組合のメンバーはあーりん以外はそれぞれ複数の別々のグループから集められた7人により構成されているが、所属グループはアメフラっシ、B.O.L.T.、Awww!(現在は解散)と分かれているが、全員が3Bjunior出身でかつて同じ集団にいた仲間だったのである。しかも、これにはもうひとつ意味がある。一緒にアイドルへの夢を目指した26人のうち現在も現役でアイドルを続けている7人だからだ。しかも、全員が所属グループの解散というアイドルにとっては厳しい試練の経験を経てここにいまいる。
それぞれのソロ曲は歌った本人自身が「これを歌いたい」と自己申告した曲だということで、それは嘘ではないのだろうが、愛来がその抜群の歌唱力の一端を披露してみせた安室奈美恵「White light」、鈴木萌花がギターの弾き語りでAIの「Happiness」とこちらもアイドル界屈指の音楽的素養を見せて、浪江女子発組合のポテンシャルの高さを見せつけるが、実はここにもひとつの仕掛けがあった。曲は「自分の原点となった曲」という条件で選ばせており、愛来、萌花に挟まれて内藤るなが「ぼくはくま」(宇多田ヒカル)、その後、佐々木彩が「LOVE涙色」(松浦亜弥)とそれぞれ歌手(アイドル)に憧れた幼少の頃歌った思い出の曲を歌った。
さらに播磨かなが佐々木彩夏の「ハッピースイートバースデー!」の替え歌を「播磨のハッピーメリークリスマス」として歌い大いに場をさらった後に今度市川優月が3Bjunior時代のクリスマスソングの名曲「べリメリ・クリスマス」*2を披露、クリスマスならでは祝祭感を会場全体に振りまいた。
そして、この後、高井千帆が「労働賛歌」、小島はなが「鋼の意志」*3とそれぞれももクロの曲を歌うのだが、最初は「会場に来ているモノノフへのサービスかな」ぐらいにしか思わなかったのだが、途中でソロで歌う小島のもとに残りのメンバーが旗を持って出てきた時に過去に目撃した国立競技場でのまだ幼かった3Bjuniorの彼女らが旗を持って登場した場面を突然思い出しすべてがつながった。
実は私はあの時に衝撃を受けたことがあった。それはいわばバックダンサーとして出てきたはずの彼女たちが全員マイクはつけていないので声は拾われてないのに口を大きく開けて生歌で歌っていること気が付いたからだ。そして、あの時に一番小さかったメンバーのひとりである小島はながこの日は国立でのももクロにも決して負けないような声量で、この「鋼の意志」を歌い上げているのを目の当たりにして、あの時に「歌うことの大切さ」というスタダイズム(川上イズムと言ってもいい)を叩きこまれた少女たちが歌い続けることで、ここまできたのだということに心が打たれたのだった。「あきらめない夢に終わりはない」というこの歌のメッセージもここで歌われるのにふさわしいと思わせた。アメフラっシのパフォーマンスでも最近著しい成長を見せる小島だが、この日の「鋼の意志」はここが国立競技場のような巨大会場だったとしてもこのまま通用するのではないかと思わせるほどで本当に素晴らしかった。浪江の発足後の2年での変貌ぶりを見せつけるようで、この日来ていたモノノフの度肝を抜いたのではないだろうか。
浪江女子発組合はその歌割りからも落ちサビを任されることの多い、愛来と高井千帆がダブルエースでそれを圧倒的な歌唱力を持つ鈴木萌花がサポートするようなイメージが強かったが、この後披露された新曲「それぞれの旗」は冒頭の小島はなの力強いボーカルをフューチャーした「小島曲」の色彩が強く、「労働賛歌」「鋼の意志」などのももクロ流の力強さとは少し違うにしても「相馬野馬追」をモチーフにした勇壮な楽曲。このグループのメンバーの現在のポテンシャルの高さを見せつけるような盛り上げ曲ださらにさらにこの日はもう1曲新曲として自己紹介ソングである「桜梅桃李夢物語」も披露されて、来るべき来年2月のアルバム発売に向けて、着々と準備が進んでいることがうかがわれた。
とはいえ、実は私個人のこのライブの白眉と言ってよかったのがアンコールで歌われた「いつかまた浪江の空を」だった。震災で故郷浪江を離れた人の「いつかまた浪江で会いたい」というせつなさに溢れた歌で、新曲なのかと思ったのだが、実はカバー曲で、原曲を歌っているのは牛来美佳という実際に震災と原発事故で浪江からの移住を余儀なくされたアーティストの楽曲*4。地元の人に明るい未来というメッセージを伝えるためにあえて希望に満ちた歌を歌ってきた浪江女子だったが、ここに来てこの現実と鎮魂を込めた楽曲を歌ったことには大きな意味があるのではないかと思った。いろんな調整が済んでないのでこの日は「新曲」とは言わなかったが、歌い続ける意思のようなものはこの日も表明したし、最後の愛来の歌った歌詞のない部分も印象的で、浪江独自の色も出ていたんではないかと思う。歌自体ももっと知られてもいい歌だと思うので、個人的にはアルバムにも収録してもいいと思うのだが……。
最後のあーりんの挨拶では浪江や仙台での単独ライブの予定も紹介された。ももクロの「春の一大事」のライブでもかならず連動した動きはあると思われるのでそれも楽しみだし、最後にはももいろ歌合戦への参加も発表され、どのような形での参加となるのか楽しみである*5。
最後にいまだにモノノフの中には浪江女子発組合のことを春一までの限定ユニットだと思っている人がいるが、あーりんも川上アキラもそれをはっきりと否定したし、メンバーが所属するアメフラっシ、B.O.L.Tにとっても相乗効果としてのメリットもあるので、どちらかのグループが売れすぎてスケジュール的に厳しくなるまでは続けるのがいいと思う。
さらに言えば最終的には浪江女子発組合、いぎなり東北産が共同主催、ももクロやいぎなり東北産、私立恵比寿中学秋田分校、アメフラっシ、B.O.L.Tというラインナップでのフェスが仙台でできないかと夢想している。
浪江女子発組合総会「あいのりきっぷ」in LINE CUBE SHIBUYA
— 道民玉武士@TDF@春一行ける? (@doumintamanofu) 2021年12月11日
セットリスト #JA浪江 pic.twitter.com/cMWeYWOPsH