下北沢通信

中西理の下北沢通信

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TRASHMASTERS vol.27 「不埒」 @下北沢駅前劇場

TRASHMASTERS vol.27 「不埒」@下北沢駅前劇場 
 

2017年7月15日 [土] >>7月23日 [日]@下北沢駅前劇場 [全11回公演]
作・演出 中津留章仁

出演
カゴシマジロー
星野卓誠
倉貫匡弘
髙橋洋介
龍坐
川﨑初夏

乙倉遥 [演劇集団 円]

 「 緻密に組み立てられたリアルな政治劇」「社会の状況に対する批判を作品に大胆に盛り込み権力に対する鋭い批判を演劇に組み込んだ」などの評価の声をこの劇団の舞台に対して寄せる批評家あるいは観客もいるのだけれどもそうした言説に対してどうもしっくりこないものを感じていた。 

  今回は東芝を思わせる一流企業に勤務する夫とその家族とそれぞれの親族、友人が登場する。夫はどうやら不倫していて妻と息子はそれが許せない。マンション前にある鉄道(鉄道路線は特定されないが、小田急がモデルだろうか)では現在高架工事が進んでおり、そのプロジェクトには夫の会社も参画している。工事への反対運動への参加の件で妻、息子と激しく対立するが、単純に政治的な対立を描くだけではなく、ここではその対立の背後に人間関係のいざこざがあることが分かってくる。家族の家庭内の不和を描くことが、現代社会で様々な問題での対立軸に重なっていくというのがTRASHMASTAERS=中津留章仁のいつものやりかたでこの作品もそれを踏襲している。

 問題の設定はかなり極端に単純化され、分かりやすく改変されている。例えばこの作品では私鉄の高架工事について高架工事自体が開発企業と政治権力が結びついた利権構造のうえにあるなどと描いているが、マンションが立地している場所を世田谷区と措定しているから、これは小田急京王電鉄のことに思われる。実際に高架化も何カ所も実施された場所はあるが、正直言ってこういう工事は利権のためというよりは列車の本数を増やして高速化するためとか実際に高架化される場所より遠隔地の住民の利便向上などの企業収益上の合理的な理由があるのではないだろうか。

 こういう問題は単に私企業=もうけ主義=悪などという単純な構図は当てはまらない。結局のところ「都心に近い住民の利益」対「郊外の住民の利便性」という「公共」対「公共」の利益対立の構図となり、全体としてどちらの利益をより重視するのかということ政治的な判断が迫られる案件とならざるを得ない。

 この作品は会社を悪として描くだけではなく、退職後の夫が工事阻止のために市会議員にまでなり、反対運動を初期から展開していた学校教師と組み、自らの主張を有利にしようと会社に戻った友人を脅し、会社の機密情報を探らせようと強要しようとするところまでも描く。その後には警察官になった息子の手で「共謀罪」の容疑で逮捕されるという顛末があり「正義を掲げるものこそ危うい」とのメッセージも見受けられるのだが、どうもこれも「共謀罪」の事例としては全くリアリティーがない。

 ただ、この劇団の作品を「リアルな政治劇」と見なす見方そのものが根本的に間違っているのではないかという風に考え直したときTRASHMASTAERSが一定数以上の観客から支持を受け続ける理由が分かったようにも思えた。ここでの議論はよくも悪くもショーアップされたものだ。展開される論理は「朝まで生テレビ」的な政治的なショーの趣きに近い。息子の警察官としての登場なども大向こう受けを狙ったお芝居としてなら理解できなくもないのだ。

 この劇団の作品を「リアルな政治劇」と見なす見方そのものが根本的に間違っているのではないかという風に考え直したとき同時にTRASHMASTAERSが一定数以上の観客から支持を受け続ける理由が分かったような気がした。ここでの議論はよくも悪くもショーアップされたもので、展開される論理は「朝まで生テレビ」的な政治的なショーの趣き、つまり政治劇的なエンターテインメントなのかもしれない。