下北沢通信

中西理の下北沢通信

現代演劇やコンテンポラリーダンス、アイドル、ミステリなど様々な文化的事象を批評するサイト。ブログの読者募集中。上記についての原稿執筆引き受けます。転載依頼も大歓迎。simokita123@gmail.comに連絡お願いします。

岡田利規の「能」シアターをダンサーが上演 劇団ダンサーズ第二回公演『都庁前』@三鷹SCOOL

劇団ダンサーズ第二回公演『都庁前』@三鷹SCOOL

f:id:simokitazawa:20201011175547j:plain
 チェルフィッチュ岡田利規が古典芸能の能をモデルにした「NO THEATER」という新たな演劇の形式に取り組んでいるようだ。KAATで上演された岡田利規「未練の幽霊と怪物 挫波/敦賀*1は今年を代表するような舞台芸術の成果だと考えているが、リモートを活用した作品という別の特徴も持ちながらこれは「複式夢幻能」という種類の能の形式を活用した「NO THEATER」であり、同じように「都庁前」もそうした形式を活用したテキストなのである。
 舞台にはまず広島から東京に旅行に来たという若い男(たくみちゃん)が現れ、私はこれまで東京に来たことがなく、今回東京に来たのは「都庁の建築が建築物として面白いと思ったので一度実物を見てみたかった」などと語る。さらに男はもうひとつ東京で見てみたいのはハイアットリージェンシーで、これは映画「ロスト…イン・トランスレーション」で知った。ここに泊まるのに十分なほどのお金の持ち合わせはないが、ロビーとバーに行き、できれば飲み物も注文したい、などとモノローグで語る。
 劇団ダンサーズは出演者全員が普段は俳優ではなく、ダンスを活動の中心に置いたダンサーで構成される。とはいえ、演出自体はテキストをダンスとして上演するというのではなく、第一回公演は岸田國士を会話劇として上演したし、今回は出演者それぞれの動き自体は能を意識して抑制的とはいえ、ことさら能のすり足などをそのまま取り入れるという風でもなく、発話の調子も特に若い男などは「三月の5日間」などで見せた初期のチェルフィッチュのモノローグに近いような語り口だった。
 新宿の地下鉄ホームで都庁への出口を探す男の前に突然謎の女が現れ、男に「どこにいく」と聞き正す。男は「都庁だ。どうやったら行けるのか」と聞き、先ほどモノローグで話した都庁に行きたい理由を話すと、女は「あなたは何も分かっていない」などと突然、都議会で「自分が早く結婚したらいいじゃないか」、「産めないのか」といったセクシャルハラスメント的なやじを受けた女性都議会銀の話を始める。そして、この国はそうした女性の悔しさがいまだにはらせずにおり、私はそうした女性たちの悔しさが産み出したフェミニズムの霊なのだと言い出すのだ。
 岡田利規のNO THEATERは何らかの怨念を持ってなくなった人物が亡霊として旅人の前に現れて、その恨みを言霊として伝えるという構造を活用しながら、現代の政治的な諸問題を取り上げていこうというのがひとつのスタイルで「未練の幽霊と怪物 挫波/敦賀」では新国立劇場のコンペに勝利しながら不当な扱いを日本建築界から受けたザハ・ハディド高速増殖炉もんじゅ」がいずれも霊として立ち現れ、恨み言を語った。この作品では一義的には女性議員の無念を扱ってはいるが、亡霊が「フェミニストの霊」と名乗る通りに現代日本において女性の置かれた不当な状況を訴えたいというのが主題なのである。
 さて、ここから先はあくまで私の個人的な好みにすぎないのだが、私は昨今の岡田のこういう作品の提示の仕方にすこぶる不満である。以前の岡田の作品は例えば「三月の5日間」が米国の戦争に対する抗議の意図から書かれたということがあったとしても、作品自体はあくまで世界はこのようであるということを描いているものでストレートに「戦争反対」を訴えるようなものではなかった。
 それは不正労働者に対する問題意識を提示した「フリータイム」など後続作品についても同じで、作品自体と政治的なメッセージは直接は結びついていなかった。
 ところが「未練の幽霊と怪物 挫波/敦賀」にしても「都庁前」にしても方法論や形式が含有する面白さは十分あるにしてもモチーフ自体の政治性はあまりにも単純に露わで、私に政治的主張をなすためのプロパガンダに見えて仕方がなかったのだ。その主張自体はもちろん私も賛同するし、間違いとは思わないが、こういう主張を同じくするものにしか届かないようなものはあまり意味がないと私はどうしても思ってしまう。私はどうしても演劇にせよアートにせよ、作品を政治的宣伝の道具に利用するようなことは好まない。どちらか一方の主張を作品にしたものはそれに同感する人たちの間では「そうだ。そうだ」ということになるかもしれないが、それに異論を持つ人には絶対に届かないし、それを作品にする意味は自己の主張を宣伝することでしかないと考えるからだ。例えば、分かりやすい例を挙げればこの作品であれば「女性差別はやめよう」という主張に対して、それはあまりにも政治的に正しいのであからさまに反対する人はいないのになぜそれがなくならないのか、女性に差別的なやじを言う人たちはなぜそういうことをするのかということに踏み込んでいかないと、ただ、それを悪として糾弾したり、そういう人たちは絶対に許さないという主張を演劇にしてもあまり意味はないと考えているのだ。
 ただ、最近は社会の分断化に呼応するようにいろんな分野でストレートに政治的なアクトと結びついたものが好まれるようだから、私のような見方は時代遅れなのかもしれない*2

日程

10/9(金)
19:30〜
10/10(土)
15:00〜/18:30〜
10/11(日)
15:00〜

料金

3,000円(予約のみ・定員各回25名)

10.9 - 19:30
10.10 15:00 18:30
10.11 15:00 -
各回とも開演の30分前から受付開始・開場
ダンス作戦会議による、ダンサーのみで演劇を実践するプロジェクト「劇団ダンサーズ」の第二回公演。今回は、岡田利規による、能の形式を用いた戯曲「都庁前」を上演します。現代の日本・東京における女性差別フェミニズムという、参加メンバーにとっても当事者性の高いテーマに取り組みます。

岡田利規 『都庁前』 ( 《NŌ THEATER》より )

演出・出演: 岡田智代、神村恵、木村玲奈、たくみちゃん
_
文芸部:桜井圭介、渋革まろん
照明デザイン:中山奈美
照明オペレーション:土屋光(SCOOL)
衣装アドバイザー:臼井梨恵(モモンガ・コンプレックス)
記録写真:松本和幸
記録映像:日景明夫
ウェブビジュアルデザイン:たくみちゃん
_
上演台本:岡田利規 「都庁前」(《NŌ THEATER》より)
岡田利規「未練の幽霊と怪物 挫波/敦賀」紹介ページ
https://www.hakusuisha.co.jp/book/b515824.html

会場:SCOOL(三鷹市下連雀3-33-6 三京ユニオンビル5F)

*1:simokitazawa.hatenablog.com

*2:演劇批評家の中にも作品はそういう主張を盛り込んんでいるということが素晴らしいのだと主張する人は多く、議論をしても平行線になってしまうことが多い。