下北沢通信

中西理の下北沢通信

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岡田利規×内橋和久  KAAT神奈川芸術劇場プロデュース「『未練の幽霊と怪物』の上演の幽霊」(2日目)@Youtube

岡田利規×内橋和久  KAAT神奈川芸術劇場プロデュース「『未練の幽霊と怪物』の上演の幽霊」(2日目)@Youtube


KAAT神奈川芸術劇場プロデュース「未練の幽霊と怪物」


Youtubeでの配信二度目の観劇。一度目は部屋でパソコン画面で見ていたのだが、初日のアフタートークで劇場プロデューサーの白井晃タブレットを外に持ち出して、駅のホームとか戸外で見たら面白い体験ができたとしていたので、私も散歩に出てスマホで見ることにした。そして、それは思った以上に面白かった。分かったのは身体的な表出はなくはないはずだが、今回の上演形態では目を凝らしてずっと画面を見続けていなくても十分に作品世界に入っていけることだ。パフォーマーも基本的に正面を向いていて、その分セリフの音声と作品をつかさどり、基調低音をなしている内橋和久の音楽の力が大きい。極端なことをいうとこの舞台に関しては目を瞑って、音だけを聴いていてのその世界観に浸りきることができると思った。
 今回の上演では『挫波(ザハ)』『敦賀もんじゅ)』の一部分(能で言うと後ジテの登場する最後のクライマックス部分を除いた前半部分)を上演。『挫波(ザハ)』は日本の新国立競技場の国際コンペ*1を勝ち取りながら、理不尽な理由で白紙撤回の憂き目にあい*2、その後に亡くなってしまった建築家、ザハ・ハディドについての物語。次の『敦賀もんじゅ)』では高速増殖炉もんじゅのことが描かれた。
 岡田が東日本大震災以降、継続的に放射能原子力発電を巡る問題に高い関心を持っていることは明白なので、もんじゅが取り上げられたのはそれほど意外性があるわけではないが、ザハ・ハディドを取り上げたのはある意味かなり意外な選択だった。実は私も一連の日本政府のザハ・ハディドに対する仕打ちは相当以上に憤慨して、ありえないと思った一人であったが、その後にいろんなことが起こりすぎたせいか、すっかり忘却していたのは我ながら愕然とされられた。
 昨年のあいちトリエンナーレを巡る一連の出来事やコロナ禍における芸術活動に対するまったく畏敬の念のかけらのないこの国の国民の態度に憤慨させられたが、今になって振り返ってみるとハディドに対する仕打ちはその後何度も何度も繰り返される出来事の最初の例ではないかと気が付いたのである。
 この舞台は本来東京五輪を目前に控えた日本の首都圏で上演されることを前提として構想されたものなのだが、興味深いのはコロナ禍で東京五輪が来年に延期され、さらに私見によれば開催自体が困難であることが日に日に明白になりつつある現状で上演されたことで、よりビビッドなものになっているのではないか。
 さらにいえば世阿弥が複式夢幻能を生み出した日本の中世であればコロナのような流行病(はやりやまい)は時の支配者に対する恨みを持って憤死した人間が怨霊となってこの世界に祟るという物語が描かれ、それを世間一般の人々も信じたとしてもおかしくないところだ。一見突飛な主題にも思われるが、不遇な運命により死んだ人間(あるいは人間以上の存在)の物語が旅の僧(前ジテ)によって語られ、最後にその幽霊として我々の眼前に示現するという複式夢幻能の様式がザハ・ハディドもんじゅが遭遇した運命とうまく合致している。こういう形式を現代演劇に導入した岡田利規の狙いがよく理解できるようなものとなっていたのではないかと思う。

作・演出:岡田利規
音楽監督・演奏:内橋和久
出演:森山未來片桐はいり栗原類石橋静河、太田信吾/七尾旅人(謡手)

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【演目】
 ◆『挫波(ザハ)』『敦賀もんじゅ)』(の一部)

 ◆アフタートーク
  岡田利規(作・演出/演劇作家・小説家・チェルフィッチュ主宰) 白井晃(KAAT神奈川芸術劇場 芸術監督/演出家・俳優)
  進行:鈴木理映子(編集者、ライター)

アーカイブの配信はありません。
途中から視聴をはじめた場合はその時点からのライブ配信となり、巻き戻して視聴することはできません。
本作の録音・録画は固くお断りします。
配信は15:55より開始します。本編は16:00より始ります。

スタッフ  映像:山田晋平、音響:稲住祐平、美術協力:中山英之、演出助手:石内詠子、制作:小沼知子
宣伝美術:松本弦人 宣伝写真:間部百合 宣伝衣装:藤谷香子

企画製作・主催 KAAT神奈川芸術劇場
作・演出:岡田利規
音楽監督・演奏:内橋和久
出演:森山未來片桐はいり栗原類石橋静河、太田信吾/七尾旅人(謡手)


【日程】
 6月27日(土)上演開始16:00
 6月28日(日)上演開始16:00
 ※両日程とも同じ演目・同じトークを上演します。

【会場】
 KAAT Youtubeチャンネル

*配信URLはこの頁にて追ってお知らせいたします。
*上演時間になるとこの頁のyoutubeリンクより視聴いただけます。

【料金】
 無料

アーカイブの配信はありません。
・途中から視聴をはじめた場合はその時点からのライブ配信となり、巻き戻して視聴することはできません。
・本作の録音・録画は固くお断りします。

スタッフ  映像:山田晋平、音響:稲住祐平、美術協力:中山英之、演出助手:石内詠子、制作:小沼知子
宣伝美術:松本弦人 宣伝写真:間部百合 宣伝衣装:藤谷香子

企画製作・主催 KAAT神奈川芸術劇場

*1:新国立競技場 とザハ・ハディドwww.kamit.jp

*2:公開の公共建築国際コンペ(設計競技)の受賞者をこんな風に一方的に白紙撤回するなどという愚挙は前代未聞であり、そんな国には今後世界の一流建築家からのコンペ参加は二度となくなってもおかしくないことだと思う。