下北沢通信

中西理の下北沢通信

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土田英生の新作を見て個人的に考えたこと。MONO第49回公演『悪いのは私じゃない』@吉祥寺シアター

MONO第49回公演『悪いのは私じゃない』@吉祥寺シアター

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最初に断りを入れなければならないだろう。これから書く文章は劇評とは言い難く、私の個人的な感想となる。なぜならその内容についての論理的な検証ができないし、このことについて例え作家本人に直接聞いたとしても本当のことはなかなか言い出せない類のことだと私は考えているからだ。私は劇評と呼ばれるものは個人的な思い込みの表明ではなく最低限の論理的検証が必要であると考えており、これから書く文章はそれには当たらないと思っている。ただ、現在の気持ちとしてどうしても書きとめておきたいと思い、ここに書き記した。
昨年の同時期に上演されたMONO「アユタヤ」について「今回は時代劇であったが、現在のメンバーであれば今後これまでのこの劇団では難しかったようなことも含めて、いろんなシチュエーションの演劇への挑戦が可能ではないかと感じさせた」と書いたが、今回のMONO第49回公演『悪いのは私じゃない』@吉祥寺シアターはそういう挑戦的な色合いはいっさいなく平常運転というか、きわめてこの劇団らしい、MONOならではという作品に戻ったようにも見えた。ただ、なぜ土田英生がこの作品を作ったのかをよくよく考えてみるとそこにはいかにも劇作家らしい社会問題事案への見解の表明と受け取れる部分も多いのだ。
「悪いのは私じゃない」は地方のある中小企業で起こったハラスメント案件が主題である。奥村泰彦が演じる男が社長を務める会社は社員が数十人という典型的な中小企業だが、「社内でいじめを受けた」としてひとりの社員が突然退社届を出して辞めるという出来事があった。そして、社長の命を受け、社内に調査チームが発足、気が進まぬままに金替康博演じる総務部長らによる社員からのヒアリング(聴き取り調査)が始まるのだ。
冒頭だけを聞けばこれは最近よくあるハラスメント事案を取り上げた問題劇かなと観客は身構えることにもなりそうだが、まったくそういう風になっていないのが土田英生らしいところだといえそうだ。
社内調査によって本来の「社内でのいじめ」事案のことは明らかにならずに問題とは関係ないが、聴取を受けた社員それぞれの隠していた本音が暴かれ、挙句の果てに隠している不倫や皆に隠して付き合っていたカップルの間に起きた二股交際疑惑、当該の「いじめ」とは無関係な比較的軽微な境界線的ハラスメント的事案、会社からの備品の勝手な持ち帰りなどの不正行為が次々明らかになって、社員の間に疑心暗鬼が生まれていく。この作品で土田はそうした出来事をシリアスというよりはコメディータッチで描いていく。
最近世間(というのは当然演劇界も含まれる)を騒がせているハラスメント案件という意味ではそれは土田自身が役員としてかかわっている日本劇作家協会で昨年起こったハラスメント事案もこの作品と無関係とはいえないはず。土田本人は「めっそうもない」と完全否定しそうだが、この作品ではこうした事案での聴き取り調査への揶揄さえも含んでいるから、おそらく無関係とはいえないし、それがこの物語が書かれたもっとも大きな動機のひとつではないかと個人的には睨んでいる。
 「悪いのは私じゃない」の中で社長は典型的だが、パワハラが普通にあった時代の古い人間の本音感覚もたびたび登場する。ただ物語全体を通しては登場人物個々の立ち振る舞いのなかで、「そういうことはかつてあったけれど、今はそれはダメとはいうことははっきりしている」という共通理解が具体的なやりとりの中であぶり出されるように作られてもいる。物語の顛末としては直接その問題を問うということではない方向に流れていくことに対し、不満を抱く人も出てきそうだが、そういう「問題劇」にしないというのが土田という作家の真骨頂だと思う。

運転しているとフラフラ歩くヤツに腹が立った
車を駐めて目的地まで歩いた
するとクラクションを鳴らしてくる車にムカついた
いつだって私は悪くない


京都の人気劇団MONOが2020年3月の上演以来、
2年ぶりに吉祥寺シアターへ登場します。

何故だか心が温まる、おかしみのある人間模様。
土田英生が描く軽妙で巧みな会話劇をどうぞお楽しみください。

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【あらすじ】
山奥の小さな会社で問題が起きた。解決を迫られる総務部部長。
けれど誰が悪いのかは分からない。
それぞれに言い分があって誰もが正しい。
真っ向から意見は対立し会社内の人間関係は最悪だ。
ああ、このままでは会社の先行きすら危ない。
ねえ、みんな仲良くしようよー!

MONO一年ぶりの新作は分断された社会の隙間を探す喜劇です。

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[作・演出]土田英生

[出演] 水沼 健 奥村泰彦 尾方宣久 金替康博 土田英生
石丸奈菜美 高橋明日香 立川 茜 渡辺啓

[舞台美術] 柴田隆弘 [照明] 吉本有輝子(真昼)[音楽] 園田容子 [音響] 堂岡俊弘
[衣裳] 大野知英 [演出助手] 鎌江文子 [演出部]習田歩未 [舞台監督] 青野守浩
[イラスト] 川崎タカオ [宣伝美術] 西山榮一(PROPELLER.)大塚美枝(PROPELLER.)
[制作] 垣脇純子 池田みのり 谷口静栄
[協力]キューブ Queen-B リコモーション radio mono


[主催]キューカンバー
[提携]公益財団法人武蔵野文化事業団
[制作協力]サンライズプロモーション東京