MONO『その鉄塔に男たちはいるという+』@吉祥寺シアター
劇団創設30周年の記念公演ということもあり新型コロナの流行で舞台の中止・延期が相次ぐ中あえて上演に踏み切ったと思う。そしてそのことには昨今の世間の「こんな国家的な大事の時にどうでもいい演劇なんかやるな」という風潮や現政権のやり方に対する強い憤りがあるのではないかと感じられた。
上演作品は1998年に初演、OMS戯曲賞を受賞した土田英生の代表作『その鉄塔に男たちはいるという』をオリジナルメンバーである5人(水沼 健 奥村泰彦 尾方宣久 金替康博 土田英生)で上演する(第2部)とともに、最近新たにメンバーになった4人(石丸奈菜美 高橋明日香 立川 茜 渡辺啓太)のために新作部分(第1部)を書き加え、『その鉄塔に男たちはいるという+』として上演された。
MONOの土田英生の作家性としては20年前の劇団設立10周年の時に書いたこちらの文章
*1があるのでそれを参考にしてほしいが、「絶対にありえないわけではない奇妙な状況に置かれた群像を会話劇のスタイルにより、コミカルに描きながら、そこから現代がかかえる様々な問題を浮かび上がらせていく」というものだ。ここでいう現代がかかえる問題という中には社会がかかえる諸問題が含まれるため社会問題に対する批判はないわけではないが、それを正面から描くというのは珍しい。
そうした作風のなかでこの『その鉄塔に男たちはいるという』は珍しくストレートに反戦劇の要素が強く、その背景には1998年6月に改正された国際平和協力法(改正PKO協力法)に基づく自衛隊の海外派遣問題に絡んで、当時の日本やアメリカ、韓国、北朝鮮などの国際情勢を風刺するようなところがあった。
とはいえ、芝居自体は軍隊におもねるリーダーについていくのが嫌になり慰問先から逃げ出したコメディー色の強いパントマイム劇団の団員たちの物語で外地での戦争中という非常時の下でありながらどうにも呑気な劇団員たちの振舞には思わず笑ってしまう。それだけに舞台の幕切れには思わず息をのむところもあって、現在の劇団の状況とも重なりあって、いまどうすべきかということについていろんなことを考えさせる内容となっている。
今回の上演は30周年記念で賞もとった代表作をひさびさに上演するという意味合いでもともと企画されていたもので、新型コロナの流行で舞台の中止・延期が相次ぐ昨今の状況とは無関係と言っていいが、反戦歌として場面転換ごとに流されるボブ・ディランの歌(ボブ・ディランの来日ライブも中止となった)といい、現在の状況との奇妙な呼応を感じさせる場面が多数あり、いろんなことを考えさせられた舞台だったのは間違いない。
外国の戦地に慰問に来ていたグループが突然消えた。噂によればその鉄塔に男たちはいるという。
結成30周年を迎えた京都の人気劇団・MONOが
2年連続で吉祥寺シアターの舞台に登場!1998年に初演。戦争という過酷な状況の中、
鉄塔の上で交わされる下らないやり取りを描き好評を博し、数々の団体によって上演され続けている劇団代表作をオリジナルメンバーで上演。
同じ場所で展開する時間軸の違う短編をプラスし
新たな地平で物語は完結する――[作・演出]土田英生
[出演] 水沼 健 奥村泰彦 尾方宣久 金替康博 土田英生
石丸奈菜美 高橋明日香 立川 茜 渡辺啓太[舞台美術]奥村泰彦 [照明]吉本有輝子(真昼) [音響]堂岡俊弘 [衣裳]大野知英
[演出助手]鎌江文子 [演出部]習田歩未 米澤 愛 [舞台監督]青野守浩[イラスト]川崎タカオ [宣伝美術]西山榮一(PROPELLER.) 大塚美枝(PROPELLER.)
[制作]垣脇純子 池田みのり 谷口静栄 [制作協力]那木萌美
[協力]Queen-B ミッシングピース 東京サムライガンズ radio mono[主催]キューカンバー
[提携]公益財団法人 武蔵野文化事業団
[制作協力]サンライズプロモーション東京[助成]文化庁文化芸術振興費補助金(舞台芸術創造活動活性化事業)
独立行政法人日本芸術文化振興会京都芸術センター制作支援事業<<
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