下北沢通信

中西理の下北沢通信

現代演劇やコンテンポラリーダンスなど様々な文化的事象を批評するサイト。

横浜ダンスコレクションコンペティションII・若手振付家(2日目)@野毛シャーレ

横浜ダンスコレクションコンペティションII(2日目)@野毛シャーレ

小林利那『鼈』
髙瑞貴『ひとごと』
加藤哲史『ぽつりと』
今枝 星菜『自分の目を舐めたい、と思ったことはありますか。』
岡﨑 彩音『cicada』
栗朱音『Quiet room』

最近いかに新しいダンス作家を見ることができていないのかという証明になって恥ずかしいのだが、今回横浜ダンスコレクションコンペティションIIで作品を発表する作家たちは全員が初めて作品を見ることになる。だから2日目を前にしても何の予想もできない。だから、逆にこの10人の中から今後その作品を継続的に見て応援したくなるような人が出てくればいいなと思っている。
 こういうことを書くと怒る人が出てくるかもしれないけれど私は最近、ももいろクローバーZというアイドルグループのことを追いかけているのだが、5人いるメンバーのうち「推し」だった有安杏果が卒業、事実上の引退を発表し大きなショックを受けて、いまだに立ち直れていない。
 私はアイドルファンでもなんでもないのでアイドルのライブの現場に出かけるのは初めてだったのだが、そのことにそれほど違和感を持っていなかった。というのはその前に10年ほどCRUSTACEA(濱谷由美子主宰)*1というダンスデュオユニットを応援していて、横浜ソロ&デュオやトヨタコリオグラフィーアワードにノミネートされるごとに当時は大阪に住んでいたのだが、横浜や東京まで出かけてきて応援していたからだ。実はももクロを応援してきた私の構えはこの当時のダンスへの気持ちとあまり変わらないのが、最近分かってきた。今年のコンペティションは推し候補となるような魅力的な作品を作る出演者は登場するだろうか。
 昨日の感想でデュオ作品を最近は見なくなっていると書いたが、 この日最初に踊られた小林利那『鼈』は女性同士のデュオ。実は昨日のデュオ作品でも冒頭で2人でひとりの上にもうひとりが乗り、ポジションをいろいろ変化させるようなことをやっていたが、実はこの日この後の別の作品でもそういうのがあったから最近の流行りなんだろうか。『鼈』はすっぽんのことで、ひとりがもうひとりの背中に乗り、すっぽんを形態模写するような動きを繰り返す。とはいえ、正直言ってそういうのは見ていてダンスとしてそんなに面白いということはないのだが、なぜそういうことをするのだろう。
 2人目の 髙瑞貴『ひとごと』も私にはよく分からない作品だった。冒頭から演者である高はゴリラの全頭マスクのようなものを頭からかぶっている。ゴリラといえば日本の舞台芸術では快快がやっているゴリラの着ぐるみを着て踊り、暴れまわるパフォーマンスがあるが、あれは自己批評的な諧謔もあって面白く見られるものに仕上がっているのだが、この人は真面目すぎるのかそういうユーモアはいっさいない。後半マスクをはずして踊るのだが、そこでの偏差もあまり有効には思われなかった。ゴリラのマスクは世間あるいは世界における疎外の象徴のようなものを意味させようと考えていたのかもしれないが、それなら同じマスクでももう少し選びようがあったのではないかと思ってしまった。
 3人目の加藤哲史という人はプロフィールを見てみると太田プロ所属のお笑い芸人ということで、どんな作品を出してくるのか期待したのだが、作品はそういう経歴とはまったく無関係なフォーサイス的な群舞作品だった。フォーサイス的といったのでは誤解を与える可能性があるが、8人のダンサーが出てきて、ユニゾンのようなものはほとんどなくて、それぞれバラバラの動きで激しく動き回る。感じたのは振付自体は悪くないかもしれないが、これはフォーサイスカンパニーとまで言わないがダンサーを相当以上に技量のある人を揃えないと本当の意味で振付を具現していることにならないのではないかということだ。この日のダンサーは個々の技量に差がありすぎて、振付の意図した以上にバラバラになっているように感じられたのだ。
  この日見てもっとも印象に残ったのは今枝星菜の「自分の目を舐めたい、と思ったことはありますか。」である。この種のコンペティションでソロは難しい。自分と作品が=になってしまいがちだからだ。そういうなかでこの作品での今枝は身体の極端な柔軟性やダンサーとしては意外と筋肉ばかりではないという自分の個性をうまく生かして生きているベルメール球体関節人形みたいなキャラを体現してみせた。
 2000年代ごろ活躍したコンテンポラリーダンサーに2002年「C◎NPEIT◎」で第1回トヨタコレヲグラフィーアワード・オーディエンス賞受賞した 天野由起子という人がいる。天野はダンス以外にデザイナーとしてキャラクターの開発も手掛けており、その中には名前を聞けば誰もが分かるようなものもあったが、そういうこともあってソロダンスでありながら自分をプロデュースしてキャラ化することに長けていた。今枝も現時点ではまだ天野にはおよばないが、自己プロデュース能力があり、この先どんな作品を出してくるかというのが楽しみな作品だった。
 岡崎彩音「cicada」は先述したこの日2つ目のデュオ。桜美林大学出身で木佐貫邦子の門下生出身。先に挙げたCRUSTACEAの濱谷由美子が木佐貫門下だった(本人は不肖の弟子で破門されていると言っていた)ため期待したのだが、前半部分は複雑な組み方を工夫しているが、基本的には先述した組体操、後半はユニゾンで元気よく踊るという風でちょっといただけない。こういうのを見るとCRUSTACEA、ほうほう堂がいかに洗練されていたかが逆に分かる。
 栗朱音『Quiet room』が一番評価に困った。椅子の上でずっと踊り続けるというのがアイデアといえばアイデアなのだが、多分、踊っているのがこの人でなければダンス作品としては凡庸だったと思われる。ところが作品が始まった瞬間に栗朱音というダンサーから目が離せない。日本人離れした身体能力に妖艶さを感じた。ダンサーとしての資質が素晴らしく、これがダンサーを称揚するダンスコンクールのような大会であればダントツで優勝するレベルだ。ところが先述したソロダンス=自分論からすれば、これは作品というよりは私たちが見ているのは「ダンサーとしての彼女」ではないのかと思わさせられる。とにかく、言えそうなの栗朱音という人は今後どういう進路を本人が選ぶにせよ、国際的に活躍するようなダンサーになれそうなスター的要素を備えている。彼女が踊るということがあるなら、ぜひそれを見たい。ただ、どちらかというとそれは振付家としてというより、ダンサーとしての評価だ。あくまで、個人的な希望だが、この人は自分の振付で踊るよりは世界的に活躍しているような振付家が振り付けた作品を見てみたい。






言わずもがなのことかなと思ったが、私が選ぶなら今枝星菜だろう。池田たっくんも悪くはないが、少しだけ既視感がある。ダンサーとしての個人賞でもあれば栗朱音なのだが。後非常に個人的にはロボットの子が好きだ。