下北沢通信

中西理の下北沢通信

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スペノの2人がフランス大使館賞 横浜ダンスコレクション コンペティションⅠ@横浜⾚レンガ倉庫1号館

横浜ダンスコレクション コンペティションⅠ@横浜⾚レンガ倉庫1号館


昨年(2021年)はコロナ禍下での開催で家人にも反対され参加を断念したため、2年ぶりのコンペティション観覧となった。とはいえ、見ることができたのは最終日の4組のパフォーマンスと表彰式のみとなった。この日だけの観覧とはいえ、実は受賞者のほとんどがこの日にパフォーマンスを披露した組から選ばれており、個人的には今年の分はけっこうカバーできたんじゃないかの感がある。とはいえ、横浜ソロ&デュオの時代からこのコンペではよくあることだが、審査員賞(グランプリ)を受賞したリュウ イ リンの作品は私には退屈で全然ピンとこなかった。

一番面白く、この横浜のこれまでの傾向なら受賞の可能性があるんじゃないかと考えていたのが、小野彩加・中澤陽(スペースノットブランク)の二人による作品。これが審査員賞と並ぶこのコンペのメインである若手振付家のための在日フランス大使館・ダンスリフレクションズ賞を受賞した。振付家が自分のムーブメントをダンサーに振り移すというのとは全然違うアプローチで、ダンサー(パフォーマー)が生み出した身体所作をつないで編集し、それをけいこ場で繰り返すことでムーブメントの身体的強度を高めていくというような作品であった。いわゆるダンス的な技術やメソッドをまったく使っておらず、音楽もなく無音である。身体の動きが作り出す息遣いも相まったムーブメントはこれまであまり見たことのない変なものに仕上がっており、この手の試みを演劇系の作り手が作る時にありがちな素人くささはなく、そういう意味では新たなコンテンポラリーダンスの表現として評価することには違和感はないが、アウトプットとして生まれた動きが魅力的かどうかと問われると疑問がなくはないというのが見ての印象だった。

 一方、動きのムーブメントと動きの生み出す意味性が非常に面白かったのは小倉笑の作品。男女のデュオ作品であり、男性はフレディ・マーキュリー、女性はマリリン・モンローなど「男らしさ」「女らしさ」とそのセクシャルかつフェティッシュなイメージがアイコン的に振り付けの中に引用されていて、それが魅力的だった。ただ、残念だったのは長さが7分間とあまりに短く、展開もほとんどなく、「面白いぞ、これからどうなるかな」と思っているとそこで切断されるように終わってしまうことだ。ムーブとキャラは面白いが、作品にはなっていないという印象だった。

  四戸賢治はドイツを活動拠点にしている日本人ダンサー・振付家。作品は完成度が高く実際にすでに欧州のダンスフェスティバルなどでは上演されているようなのだが、その分この日上演された他の日本人の作品のような斬新さは感じられなかった。とはいえ、危惧したように保守的なドイツ表現主義舞踊ということはなく、欧州のコンテンポラリーダンス市場という枠組みならこれが一番競争力を持っていることは間違いないが、日本人による新たな舞踊表現としてならこれを選択することは私はしないという感じだった。

 

審査員賞

リュウ イ リン

奨励賞

四戸賢治  小倉笑

最優秀新人賞

宮悠介

ベストダンサー

三輪麗水

奨励賞

斎藤健

若手振付家のための在日フランス大使館・ダンスリフレクションズ

小野彩加  中澤陽

MASDANZA賞

ファイルル・ザイヒト

城崎国際アートセンター賞

小野彩加・中澤陽

アーキタンツ・アーティスト・サポート賞

安永ひより

池上楓子・中村たから   四戸賢治

 

14の国・地域を拠点に活動する92組の応募から、映像・書類審査を通過した4カ国8組のファイナリストによる作品上演

12⽉3⽇(⼟)15:00
池上楓⼦/中村たから、寺杣彩、ファイルル・ザイヒド 〈LASALLE Dance〉、グエン ヅウィ タイン
12⽉4⽇(⽇)15:00
⼩倉笑、⼩野彩加/中澤陽、四賢治、リュウ イ リン
【会場】横浜⾚レンガ倉庫1号館
コンペティションII 新⼈振付家部⾨
振付家としての活動を⽬指す25歳以下の新⼈アーティスト29名から、映像・書類審査を通過したファイナリスト10名に
よる作品上演。
12⽉1⽇(⽊)19:00 秋⽥乃梨⼦、斎藤健⼀、SHIon、松崎桃⼦、安永ひより
12⽉2⽇(⾦)19:00 今井亜⼦、オカダヒロエ、北村桜、宮悠介、三輪麗⽔
【会場】横浜にぎわい座 のげシャーレ