下北沢通信

中西理の下北沢通信

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ぱぷりか「どっか行け!クソたいぎい我が人生」(2回目)@こまばアゴラ劇場

ぱぷりか「どっか行け!クソたいぎい我が人生」(2回目)@こまばアゴラ劇場



表題の「どっか行け!クソたいぎい我が人生」というのはかなり表題らしくないおかしな表題だと思うが、ポイントは広島の方言である「たいぎい」であり、作品中で占部房子演じる母親が繰り返す「たいぎい」という広島方言が作品全体のなんとも重苦しい空気感を作り上げているように思われた。
 実は「たいぎい」というこの広島弁は非常にユニークな言葉のようで、語源は「大儀=おっくう、嫌だ」から来ているようではあるが、ネット検索で語義を調べてみると「『たいぎい』は明確な意味を持ちません。なぜなら本当にいろんな場面で登場するので、ザックリな感じで略すと『めんどくさい』。めんどくさいが基本ベースにし、いろいろと派生していくかたち」などとある。どうやら多義的な用例があるようなのだが、いろんな状況においてこれが繰り返されることで主人公である母親とその娘の置かれたなんともいたたまれないような「たいぎい」な状況が言語化がなかなか難しい空気のようなものとして、浮かび上がってくるのである。
状況を説明するようなナレーション的な台詞はいっさい使わず、登場人物相互の会話のやりとりを丁寧に紡いでいくのが平田オリザの現代口語演劇とするならば現代の青年団には先行世代が平田オリザ離れを模索した一時期よりも明らかに正当な後継者と目される作家たちが増えている。伊藤毅青年団リンクやしゃご)、玉田真也(玉田企画)、宮崎玲奈(ムニ)らがそうした流れを汲む作家たちだが、その中でも福名理穂(ぱぷりか)典型的な群像会話劇のスタイルでそうした色合いが強いといっていいだろう。
 この作品の中核をなすのは共依存関係ともいえそうな母と娘の関係だが、中でも母親のエキセントリックな個性が場全体を支配する状況を福名は丁寧に提示していく。
 群像会話劇のスタイルでと書いたが、この作品では最初にひとりだけで舞台に登場して何かぶつぶつと独り言のようなことを話し始める占部房子の存在感にここでしか見られない特別なものを感じた。一人だけの彼女が生み出す周囲の空気を変えてしまうようななにか圧力のようなものを観客として感じることになったが、この母親がこうした存在感でいやおうなく、娘や弟らを巻き込んでいくことがこの物語で作者が描き出す状況そのものが生まれる原因となっていることが冒頭の場面を少し見ているだけで了解されてくるのである。

作・演出:福名理穂
夫に捨てられたトラウマをもつ母と、そんな母を置いて家を出る決断ができない娘。
ある日、二人の住む広島の小さな町で殺人事件のニュースが流れる。


ぱぷりか
福名理穂により2014年旗揚げ。
主に会話劇を中心とし、人との繋がりで生まれる虚無感を描く。
第5回公演『柔らかく搖れる』(2021年)で、第66回岸田國士戯曲賞受賞。
今作は受賞後初の長編新作となる。
Webサイト:https://www.paprika-play.com


出演
占部房子
富川一人(はえぎわ)
林 ちゑ(青年団
阿久津 京介(DULL-COROLED POP)
岡本 唯(ぱぷりか/時々自動)

スタッフ
舞台美術:泉 真
音響:佐藤こうじ(Sugar Sound)
音響操作:たなかさき(Sugar Sound)
照明:山内祐太
舞台監督:岩谷ちなつ
演出助手:坂本奈央(終のすみか)
イラスト:三好 愛
宣伝美術:中北隆介
当日運営:大橋さつき(猫のホテル
制作:込江 芳、半澤裕彦