下北沢通信

中西理の下北沢通信

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第66回岸田國士戯曲賞最終候補作品が決定 世間の話題はNEWS加藤シゲアキだが、瀬戸内美咲、山本卓卓ら有力か?

第66回岸田國士戯曲賞最終候補作品が決定

 第66回岸田國士戯曲賞最終候補作品が決定した(選考は2月28日)。昨年は受賞作なしとなった*1 *2が、今年は誰かが受賞してほしい。世間の話題はジャニーズNEWSのメンバーである加藤シゲアキによる「染、色」だが、岸田國士戯曲賞はマスコミ報道では演劇界の芥川賞などと呼ばれ新人賞とされているけれど、それは実態を表してはいない。むしろ、その世界ではすでに有名な人も新人に近い人も同等の基準で評価されるという意味ではM1に近いかもしれない。そのため、加藤ファンの方には申し訳ないが個人的には受賞の可能性はそんなに高くはないとみている。事実、最近でもNHK朝ドラの脚本が決まった長田育恵や小説家の古川日出男やドラマ脚本家として有名な坂元裕二も最終選考で落ちている。戯曲そのものを読んでないが、すでに文学賞にもノミネートされており文才はあるのだろうとは思う。戯曲が公開されるはずだから、ぜひ読んでみたいと思う。
 個人的に私が注目しているのは額田大志「ぼんやりブルース」*3福名理穂「柔らかく搖れる」*4である。ファイナリスト9人のうち、この2作品だけ観劇もしているということもあるが、どちらも注目の若手作家だからだ。この2本の作品はどちらもこまばアゴラ劇場で上演されたが、内容は非常に対照的であった。額田大志に才能があることは間違いないが、筋がほとんどなく、非常に実験色の強いこの作品で賞を射止めることができるだろうかとも思う*5 *6。一方、福名理穂「柔らかく搖れる」は全編広島弁で書かれたオーソドックスな群像会話劇。ノミネートには驚いたが、地域語の群像劇では長谷川孝治も畑澤聖悟も松本哲也も賞には届いてない。松田正隆の「海の日傘」受賞例はあるが、あの作品は特別だった。「柔らかく搖れる」にこの作品で一気に受賞という完成度はあるのかいうと疑問は残る。福名は青年団演出部だが、青年団演出部には他にも俊才が多い。特に宮崎玲奈の名前がないのには納得がいかない。宮崎玲奈の「東京の一日」は2021年演劇ベストアクトに私が選んだが、最終候補作からは漏れた。もっとも当然入るべきと思う作品が入ってないということでいえば、この賞は毎年そうなのだ。昨年は受賞作なしで、最終選考が問題になったが、候補作選考過程により大きな問題があるのではないかと以前から考えている。
 過去の実績も申し分なく、すでに受賞していてもおかしくないという意味で瀬戸内美咲山本卓卓(範宙遊泳)が今回の有力候補ではないかと思う。特に山本卓卓は2018年の『その夜と友達』はその年の演劇ベストアクト1位に選んだ作品で受賞しないのはおかしいと思っていた。ノミネートされた「バナナの花は食べられる」は冒頭部分がYotubeに公開されていた*7ので見てみたが、これが面白くてしかも斬新。上演が2021年4月なのでコロナ感染で観劇を断念したが、最有力候補かもしれない。瀬戸内美咲も実力者で『埒もなく汚れなく』はヨーロッパ企画上田誠の異例のノミネートがなければ賞候補有力といってもおかしくない作品だった。「彼女を笑う人がいても」は新聞記者と安保闘争についての物語のようで、この種の作品は評価が二分されそう。どこまで政治的メッセージに傾いているのかが評価の是非につながってきそうだ。これも読んでみたい。
 笠木泉「モスクワの海」遊園地再生事業団などに出演していた女優で候補作は彼女の第二作目の作品。この作品は見ることができなかったが、デビュー作は見ていて、面白かったからこれがどんな作品なのかが気になる。関西勢ではピンク地底人3号「華指1832」が入った。どうしても東京の作家と比べれば候補作に残るという時点での不利は否めないとは思うが、選者にどのような評価を受けるかは気になるところである。

小沢道成「オーレリアンの兄妹」
笠木泉「モスクワの海」
加藤シゲアキ「染、色」
瀬戸山美咲「彼女を笑う人がいても」
額田大志「ぼんやりブルース」
蓮見翔「旅館じゃないんだからさ」
ピンク地底人3号「華指1832」
福名理穂「柔らかく搖れる」
山本卓卓「バナナの花は食べられる」

 第66回岸田國士戯曲賞白水社主催)の選考会が2022年2月28日月曜日、午後5時より、東京神保町・學士會館にて行なわれます。
 選考委員は岩松了岡田利規ケラリーノ・サンドロヴィッチ野田秀樹矢内原美邦の各氏(五十音順、敬称略)です。
 本年度の最終候補作品は下記の9作品となっております。

*1:simokitazawa.hatenablog.com

*2:simokitazawa.hatenablog.com

*3:simokitazawa.hatenablog.com

*4:simokitazawa.hatenablog.com

*5:深津篤史「うちやまつり」の例もあるから可能性がないとは言い切れない。

*6:平田オリザが選考委員から外れたが、青年団の若手には今後候補に入ってきそうな若手が多数いるという理由からかもしれない。事実劇団員の作品については積極的には議論に加わらないという姿勢を貫いていたことから逆に不利ではないかという観測もあった。

*7:www.youtube.com