Baobab『FIELD-フィールド-』@吉祥寺シアター
baobab
前作「靴屑の塔」から2年。Baobabの放つ、来る2020年を見据えた圧倒的熱量の舞踊表現!15名を超える過去最大規模のアスリート/ダンサー部隊が集い、挑むのは熱狂の舞台(フィールド)で生まれる“新たなスポーツ” 。物語ることをやめてしまった全ての人たちへ。吉祥寺シアターから望む、リアルと未来の地平。
振付・構成・演出:北尾 亘
[出演] 田中穂先(柿喰う客) 中村蓉 植田崇幸 中川絢音(水中めがね∞)
中村駿(ブッシュマン) 下島礼紗(ケダゴロ) 米田沙織(Baobab)北尾亘(Baobab)
佐藤郁 間瀬奈都美 藤島美乃里 小林利那 原愛絵 長谷川真愛 橋本ロマンス 山田茉琳 伊藤奨スタッフ
楽曲提供:岡田太郎(悪い芝居) 舞台監督:熊木進 久保田智也
照明:富山貴之 音響:相川 貴 舞台美術:中村友美
衣装:清川敦子(atm) 衣裳・演出助手:入倉麻美 宣伝美術:佐藤翔吾
コピーライティング:深澤 冠 仮チラシデザイン:office NYUU Design
宣伝写真:長野柊太郎 宣伝写真レタッチ:小柴託夢
印刷:堤智奈美 ドラマトゥルク:中瀬俊介(Baobab)
制作:白井美優(Baobab) 高杉夏実
プロデューサー:目澤芙裕子(Baobab)主催:Baobab
提携:公益財団法人 武蔵野文化事業団
助成:アーツカウンシル東京
(公益財団法人東京都歴史文化財団)
公益財団法人アサヒグループ芸術文化財団
ワークショップにたまたま参加した学生ダンサーとかではなく、自ら振付家としてのキャリアを持ちダンスコンペでの受賞暦もあるダンサーを十数人集めての本格的ダンス作品を上演したというだけでも北尾亘は現在のダンス界における存在感を示したと思う。
ただ、これだけの数のダンサーが参加するなかで分かりやすいユニゾンによる群舞の組み合わせではなく、個々のダンサーの個性を重視しての振付は評価が難しい部分もあったかもしれない。それぞれのダンサーの動きの魅力を堪能できるところはあり、最近はコンセプトや主題、物語中心の作品が目立つ中でこういう作品は珍しく、そういう部分はおおいに評価したいのだが、動き自体の統一性にも作品のメッセージ性にも欠ける印象が強いため作品における作家性の強さに欠け、淡い印象を受けるのだ。
逆にいえば作品中のいくつかのソロ、デュオのシーンは忘れがたいインパクトを残した。おそらく、これは全体の枠組みとシーンごとの方向性は示唆しても動きそのものは北尾が振り移したのではなく、それぞれのダンサー、パフォーマーのクリエイティビティーを生かした作りにしたことにあるかもしれない。
作品中でもっとも印象的だったのは横浜ダンスコレクション2017コンペティションII「最優秀新人賞を受賞した下島礼紗(ケダゴロ) と男性ダンサー(田中穂先?)によるデュオ部分。身体を止まった状態で保持している田中に下村がぶら下がり、そこから変形してのコミカルなリフトが続く。下村の作品*1もいくつか見たことがあり確かに彼女の作品にはコミカルなところがあり、それが魅力ではあるのだが、その中にこういうリフトを見た記憶はなく、北尾亘の過去の作品でも類似の振付を見たことはない。おそらく、北尾のシーンについての指示のもとで下島と田中が動いていくなかで生まれてきた動きだと思われるが、この作品にはそれぞれ質感の違うダンサー固有の動きが数多く組み込まれている。
今回参加している中でもキャリアが長い中村蓉のソロでの動きや北尾自身のソロも際立っていた。ただ、若干気になったのはそうしたソロなどを担ういわばリード役のダンサーは動きの細部まで注意が払われていて魅力的な動きなのだが、それ以外のダンサーがそのソロの動きに合わせてユニゾン的にシンクロしていく動きは最初のソロの劣化コピーのように思われることがあって、ダンスとして練りこみが物足りないと感じることがまだまだあった。出演人数が多いからということもあるにはあるのだろうが、こういうところにどうしても散漫さを感じたことも確かなのだった。
もうひとつは実際には存在しないけれどあったかもしれない架空のスポーツの選手がいたら見せたかもしれないフィジカルな動きを見せていくというのが作品の主題のようだが、そのスポーツがどういうものかについての明確なコンセプトがあるわけではないためいまいち焦点が定まらない印象があるのだ。