下北沢通信

中西理の下北沢通信

現代演劇やコンテンポラリーダンス、アイドル、ミステリなど様々な文化的事象を批評するサイト。ブログの読者募集中。上記についての原稿執筆引き受けます。転載依頼も大歓迎。simokita123@gmail.comに連絡お願いします。

神里雄大・福原充則が第62回岸田國士戯曲賞決定

第62回岸田國士戯曲賞決定

第62回岸田國士戯曲賞受賞が神里雄大、福原充則に決定。

第62回岸田國士戯曲賞白水社主催)の選考会が、2018年2月16日・金曜日、午後5時より東京神保町・學士會館にて行なわれます。
 選考委員は、岩松了岡田利規ケラリーノ・サンドロヴィッチ野田秀樹平田オリザ宮沢章夫の各氏(五十音順、敬称略)です。
 本年度の最終候補作品は下記の8作品となっております。
株式会社 白水社

第62回岸田國士戯曲賞最終候補作品一覧(作者五十音順、敬称略)

糸井幸之介 『瞬間光年』(上演台本)
神里雄大バルパライソの長い坂をくだる話』(上演台本)
サリngROCK『少年はニワトリと夢を見る』(上演台本)
西尾佳織『ヨブ呼んでるよ』(『紙背』創刊号[二〇一七年五月]初出)
福原充則『あたらしいエクスプロージョン』(上演台本)
松村翔子『こしらえる』(上演台本)
山田由梨『フィクション・シティー』(上演台本)
山本卓卓『その夜と友達』(上演台本)

候補者紹介 (五十音順、敬称略)

第62回岸田國士戯曲賞最終候補作品決定 - 白水社

MOKK『f』@こまばアゴラ劇場

MOKK『f』@こまばアゴラ劇場

作・演出・振付:村本すみれ  出演:岩渕貞太/入手杏奈
 美術協力:青木拓也 映像:大橋翔
スタッフ
舞台監督:大畑豪次郎、森山香緒梨
照明:伊藤泰行
音響:林あきの、大園康司
制作:上栗陽子、飯塚なな子

入手杏奈のソロダンスを見た。もちろん、これは「作・演出・振付:村本すみれ」によるダンス作品なのだが、見終わった後に強い印象を残したのはその身体が醸し出す通常ではない存在感で「入手は凄いパフォーマーだ」と感じた。
 もちろん、それはおそらくこの作品で村本が用意した枠組みだからこそ体現できたことだとも考える。実は入手杏奈というダンサーの名前を覚えていたのは以前に見た作品がもの凄く刺激的だったからなのだが、その作品がなんとこれはもちろん偶然なのだがこの日に岸田戯曲賞を受賞した神里雄大の振付・演出による『杏奈(俺)』だった。これはダンス作品とはいうものの神里がダンサーというものに抱いていた他者そのものあるがゆえの童貞的な妄想を爆発させた作品だった。

simokitazawa.hatenablog.com

坂崎幸之助のももいろフォーク村NEXT第81夜 ももクロアンプラグド「ももクロと坂崎とダウンタウンももクロバンドの夕べ」再演@Zepp DiverCity TOKYO

坂崎幸之助のももいろフォーク村NEXT第81夜 ももクロアンプラグド「ももクロと坂崎とダウンタウンももクロバンドの夕べ」再演@Zepp DiverCity TOKYO

坂崎幸之助 ももいろクローバーZ 本編シークレットゲストミュージシャン無し opening act 栗もえか(ガチンコ3 栗本柚希 鈴木萌花) ダウンタウンももクロバンド 宗本康兵音楽監督 佐藤大剛/竹上良成/加藤いづみ

セットリスト
M01:ピンキージョーンズ (ももクロももクロ)
M02:Yum-Yum! (ももクロももクロ)
M03:何時だって挑戦者 (ももクロももクロ)
M04:境界のペンデュラム (ももクロももクロ)
M05:サラバ、愛しき悲しみたちよ (ももクロ&宗本康兵/ももクロ)
M06:Hanabi (ももクロ&村長/ももクロ)
M07:労働讃歌 (ももクロ&竹上良成/ももクロ)
M08:オレンジノート (ももクロ加藤いづみももクロ)
M09:My Hamburger Boy(浮気なハンバーガーボーイ) (あーりん&佐藤大剛/あーりん)
M10:My Cherry Pie(小粋なチェリーパイ) (あーりん/あーりん)
M11:3月9日 (れに/レミオロメン)
M12:恋のフーガ (ももたまい/ザ・ピーナッツ)
M13:ら・ら・ら (大黒摩季ももクロ大黒摩季)
M14:元気です (村長&DMB/吉田拓郎)
M15:secret base ~君がくれたもの~ (Go!Go! BAND BOY&GIRLS/ZONE)
M16:キミノアト (ももクロ&DMB/ももクロ)
M17:青春賦 (ももクロ&モノノフ/ももクロ)
M18:白金の夜明け (ももクロももクロ)

幕張の杏果卒業ライブもバレンタインライブも行けなかったため、この日が4人のももクロを生観戦できる初めての機会となった。ももいろフォーク村はもともとダンスがないし、杏果卒業直後であった先月のフォーク村に引き続き、杏果パートに坂崎幸之助加藤いづみのどちらかが入ってそのまま穴を埋めるような歌割りが多かったため、今後の歌割り、振付がどうなるかについての情報は考えていたよりも少なかったが、杏果パートをメンバーに割り振った曲では予想通りに高音部があーりんに振られていることが、多かったと思う。頑張って何とかこなしてはいたが、余裕をもってとはお世辞にもいえず、しばらくはギリギリの発声が多くなってしまうのは仕方がないかも。
 逆にそういう負担から開放された時のソロ曲での爆発振りは凄かった。ソロコンで発表された2曲も当初はそれまでの曲とかなり曲想が異なり、苦労していたはずだったのだが、この日見ればそんなそぶりは微塵もなく3Bjunior(栗本柚希 鈴木萌花)を引き連れて見事なまでに自分のものとしているさまを披露した。
  高城れにの成長ぶりも特筆すべきだったかもしれない。この日の白眉は坂崎幸之助がドラムに入ってのGo!Go! BAND BOY&GIRLS(ももクロバンド)による「secret base ~君がくれたもの~」の演奏でのベース演奏が非常に安定していたことだ。ももクロがバンドをやるというのは楽器演奏を始めた時からのひとつの目標ではあったと思われるが、バンドの核のはずだった杏果の離脱により、これは最近は一時に比べると他メンバーによる演奏機会も減っていたから、諦めたかなと思っていた(事情通のヘビによればメンバーもそれほど乗り気ではなさそうだったし)。
そうなると気がかりだったのはそのためにどうも隠れて猛練習しているっぽかったれにちゃんのことで、これまでウクレレ演奏を固辞していたのはベースのことがあるからかなと思っていたのが、ソロコンではウクレレ披露に意欲を見せたのはこれはベース諦めたかななどとうがった見方をしてしまったのはすまないの一言だ。サポートを入れなくてもリズムがきちんと刻めていたから一気にバンドは可能性を強めてきたと思う。
  ドラムをサポートメンバーでというのは考えてみればプロのバンドでもよくあることだし、たくさんいるはずのプロのドラマーではなくて、坂崎さんを据えたのは杏果の不在に注目を集めさせないという意味では「この手があったか」と感心するほどで、きくちPの巧妙な策だったと思う。レパートリー少しずつ増やしていき(出来ればビートルズ入れてほしい)、いつか全曲バンドでの単独ライブをという夢が戻ってきた気がした。
 杏果がいなくなった後、それを埋める役割をもっとも期待しているのが高城れにだ。ソロコンの映像が最近ネットにアップされているので、よく見ているのだが、彼女の声のよさ、癒やされるような魅力は天性のものでグループ創設以来ももクロ曲のほとんどのサビ部分を歌い引っ張ってきた夏菜子と2枚看板を担える資質があるのではとの思いを強くしている。
 とは言え、それぞれの曲の音域の問題もあり、この日披露した「3月9日」(レミオロメン*1では高音域のファルセット部分などでかなり苦戦していたように思われた。ただ、今年のソロコンに向けてネットで「歌がうまい」と話題になった「なんでもないや」(RADWIMPS)とかではなく、毎年ソロコンで歌ってきたこの歌をあえてこの場で歌ったことには歌への並々ならぬ意欲を感じさせられた。

*1:この歌になぜこだわるのか卒業式で歌ったというようなことを言っていたような気がしたが沢尻えりか出演ドラマ「1リットルの涙」の挿入歌だったこともあるのかも

世田谷シルク「跡 2018」@BUKATSUDO HALL

世田谷シルク「跡 2018」@BUKATSUDO HALL


2018年2月13日(火)~15日(木)
神奈川県 BUKATSUDO HALL

脚本・演出:堀川炎
出演:武井希未、木崎友紀子、絵理子、大迫健司、代田正彦

ある男が幼児の時から年老いて亡くなるまでの一生を約1時間の無言劇にまとめた舞台。作者が女性だとこうなるのかな。ここには上海太郎や柴幸男の舞台が持っているようなファンタジーとしての癒し、救済がない。身につまされるようで辛い。

Aokid×橋本匠『we are son of sun!』(世界初演)@象の鼻テラス

Aokid×橋本匠『we are son of sun!』(世界初演)@象の鼻テラス

横浜ダンスコレクション2016コンペティションⅠ 受賞者公演

横浜ダンスコレクション2016で審査員賞を受賞したAokid×橋本匠。美術やデザインなど、幅広い活動に定評のある2人は、身体と物とが等価に置かれたポップで居心地がよい空間を生みだし観る人を魅了する。

2.13 [tue] 19:30
2.14 [wed] 19:30


 会場となった象の鼻テラスはかつてままごと(柴幸男)が公演会場として利用したことはあったが、通常はカフェとして使われているスペースだ。
 横浜ダンスコレクションのコンペティションI2016審査員賞の受賞公演を赤レンガ倉庫や野毛シャーレの劇場として使われるフリースペースではなく、あえてここを選んだというのがAokid×橋本匠らしいといえるかもしれない。この場所は周囲がガラス張りになっていて、特に夜間では海も含み港の夜景が臨める絶好の場所となっているのだが、Aokid×橋本匠『we are son of sun!』は公演で使ういろんな道具(木の棒、赤いロープ、模造紙など)と並んでガラス越しに見える港の風景はこの作品にとっての重要な要素となっており、サイトスケープな作品の魅力をおおいに発揮した。
この作品はともにダンスと美術など複数の領域にわたってマージナルな活動を続けているAokidと橋本匠の共同制作作品だ。ただ、私個人としてはAokidはKENTARO!!のカンパニー「東京ELECTROCK STAIRS」で妙にへたれなダンスを踊っていたことが気になっていたころから知っていたこともあり、彼と橋本のコラボ作品として受容した。Aokidのアーティストとしての魅力は、単独の公演で見せるなんともへたれな個性はワン・アンド・オンリーではあるが、コラボ名人であって、それも相手によってその表現が千変万化する面白さにある。
 最近では「choreograph」「RE/PLAY Dance Edit」と多田淳之介作品に続けて出演しており、ブレイクダンサーとしての技術を持ちながら、そうじゃないっぽい個性的なキャラクターを発揮しているが、橋本匠と一緒に公演する時のAokidはほぼ「遊ぶ人」である。Aokidと橋本匠の2人はここでは舞台上に用意されていた紙、棒、ロープなどをいろいろに使って幼児の「ごっこ遊び」のように遊び続ける。
 興味深いのはいろいろ置いてある様々な道具がほとんど本来の目的では使われないことで、例えばギターが置いてあるが、ギターを弾いて歌ったりすることはない。Aokidがギターを抱え込んで踊ったりするのに使った。模造紙とペンは用意してあってもそれで何かの絵を紙に描くということはなく、紙の一部を破って、くしゃくしゃにしたり破ってバラバラにして、ばら撒いたりするのだった(笑)。
 こうした一見ゆるい内容なのだが、これは実際にはかなり緻密に設計されて演出されているのではないかと思う。おそらく、ダンスプロパーの方面からの風当たりは強いのではないかと思うが、このタッチは面白いと思った。

 
 

妖精大図鑑とロリータ男爵

妖精大図鑑とロリータ男爵

多摩美術大学出身の妖精大図鑑という劇団に注目している。この劇団で演出、振付を担当している永野百合子が横浜ダンスコンペティションII・若手振付家部門の最優秀新人賞を受賞し、さらには同じコンペティションに同劇団に常連として出演している小林菜々もファイネリストとして名を連ねていた。少し調べてみるとどうやら妖精大図鑑というのはダンスカンパニーというよりは劇団のようで、実はコンペの振付作品は私個人としては「ダンスというよりは演劇である」との判断からあまり高い評価をしていなかったのだが劇団となれば話はまったく別だ。
 永野本人からも話を聞き、Youtubeに作品抜粋があるというので少し見てみた。多摩美術大学といえば少し先輩に快快があるが、映像を見る限りはこじゃれた感じの快快とはまるで違う傾向だ。ところがこのテイストに近い舞台はどこかで見た記憶があると考えてみるとそれはロリータ男爵なのであった。もちろん、永野らは快快の名前を出してもあまりピンとは来ていないようであったし、ましてや先輩とはいえロリータ男爵は1995年の旗揚げであるから、20年近くのタイムラグがあるうえに2014年が最後の公演で活動休止状態にあること。逆に妖精大図鑑は多摩美術大学映像演劇学科の同期が集い結成だから短期間活動期間はかぶってはいるものの名前も知らなかったようだ。
 ただ、この2つの劇団は活動時期が20年ぐらいずれているという以外ではどちらもヘタウマ的なミュージカル劇団であること。劇団内部・周辺に美術をはじめとするスタッフをかかえ、ユニークな美術が売りのひとつであるということ、悪意のある童話じみた作風などでは共通点がある。妖精大図鑑の次回の本公演は7月に横浜STSPOTで予定されているようなのでぜひ行きたいと思う。最近公演がないので寂しく思っているかつてのロリ男ファンは一度見てみるべきだろう。ちなみに次回公演に出るのかは不明だが、小林菜々にはアイドル的魅力がある。


妖精大図鑑
www.youtube.com

ロリータ男爵
www.youtube.com

コンドルズ×あうるすぽっと 大赤字コンテンポラリーダンスフェス第2弾『可能性の獣たち2018』@東池袋あうるすぽっと

コンドルズ×あうるすぽっと 大赤字コンテンポラリーダンスフェス第2弾『可能性の獣たち2018』@東池袋あうるすぽっと

2月12日(月曜・祝日) 野獣死すべし編 17:00開演
OPアクト1 横国大学 / OPアクト2 埼玉大学
1 ブッシュマン(黒須育海)
2 トップスター
3 セッションハウス推薦枠:Contact Arts Company
4 CHAiroiPLIN(スズキ拓朗主宰)
5 古賀剛ソロ
6 マグナムマダム(山本光二郞出演)
7 OrganWorks(平原慎太郎主宰)

2018年2月11日(日曜)12日(月曜・祝日)
3回

〇スーパーバイザー:近藤良平
〇チーフアドバイザー:石渕 聡
〇MC:ぎたろー
〇プロデューサー:勝山康晴

今回はコンドルズ+あうるすぽっとの企画。観客はコンドルズのファンなのかもしれないが、例えばTPAMやF/Tには絶対こないような観客を掘り起こしていて興味深く思った。
それでいてそういう人たちにCHAiroiPLINのようによく出来たエンターテイメントを見せるだけではなく、昨年横浜ダンスコレクションのグランプリを受賞したブッシュマン(黒須育海主宰) やOrganWorks(平原慎太郎主宰)のような最新のコンテンポラリーダンスの作品まで見られるのがいい。
 さらに言えば中規模以上の劇場で公演と宴会芸的な古賀剛ソロ、マグナムマダム(山本光二郞出演)が同じラインナップに並んでいる緩急自在さもいいと思う。それにしても「踊る社長」こと古賀剛、どうやらコンドルズのメンバーでもあるようなのだが、いったい何者なんだ。
 ネタではなく本当にお金があるなら毎回出演していいから、代わりにこの企画に参加している有望な若手作家・ダンサーに古賀剛賞として奨学金でもあげて欲しいなあ(笑)。

ミュゼ・ドゥ・ももクロを予習する 現代美術に魅せられて-原俊夫による原美術館コレクション展@原美術館

現代美術に魅せられて-原俊夫による原美術館コレクション展@原美術館

2017年12月12日
会期:2018年1月6日[土]- 6月3日[日]
前期: 1月6日[土]- 3月11日[日] / 後期: 3月21日[水・祝]- 6月3日[日] *展示替え休館: 3月12日[月]- 20日[火]

展示物をモチーフにしたケーキセット(原美術館カフェにて)

【出品作家】
【前期】 アメリカの作家では、戦後絵画に大きな影響を与えた抽象表現主義のジャクソン ポロックやマーク ロスコ、その後続世代を代表するロバート ラウシェンバーグやジャスパー ジョーンズ、世界を席巻したポップアートの代表者であるアンディ ウォーホルやロイ リキテンシュタインなど。そして、前衛的・実験的精神に溢れたヨーロッパの作家たちとして、絵画のジャン デュビュッフェやカレル アペル、彫刻のアルマン、セザール、ジャン ティンゲリーなど。日本の作家では、戦後日本美術を牽引した今井俊満河原温工藤哲巳、宮脇愛子など。また、今も現役で活躍する作家たちでは草間彌生、篠原有司男、杉本博司李禹煥。さらに世界に影響を与えたアジアの作家として、ナム ジュン パイク、艾未未(アイ ウェイウェイ)。
*前期出品作品リストはこちらへ(PCから)。

【後期】 安藤正子、荒木経惟、ヤン ファーブル、加藤泉、ウィリアム ケントリッジ森村泰昌奈良美智名和晃平蜷川実花野口里佳、マリック シディベ、杉本博司束芋、ミカリーン トーマス、アドリアナ ヴァレジョン、やなぎみわ(予定・調整中)

 ももクロがアートと親しむと言うネット配信番組「ミュゼ・ドゥ・ももクロ」の第1回目に選ばれた。美術好きとはいえももクロ佐々木彩夏(あーりん)が訪問する場所とするなら、一緒に仕事したこともある蜷川実花をはじめ、森村泰昌奈良美智名和晃平やなぎみわ束芋などと興味をひきやすそうな作家が並ぶ後期の展示の方が盛り上がりそうではあるのだけれど、こちらの前期は渋いラインナップながらあーりんがなじみがあるピカソなどより新しい抽象表現主義以降の作家やポップアートのアンディ ウォーホルやロイ リキテンシュタインなど欧米の現代絵画の流れが概観できるキュレーションで、現代美術入門としては適当なのかもしれない。
 草間彌生、篠原有司男はともかくとして、庭に箒を並べていた杉本博司の作品などどのように目に映ったろうか。何にまず食いついたろうという予想に対し、一緒に行った妻の予想は3階にあった「風呂のない風呂」(と妻は呼んでいた)だった。私はピンクではないけれど、真っ赤で塗りこめられた作品だったからイブ・クラインかなと予想。
 ちなみに上の写真のケーキが模していたのはナム・ジュン・パイクの作品。
    

横浜ダンスコレクションコンペティションI(2日目最終日)

横浜ダンスコレクションコンペティションI(2日目最終日)

チェ・ミンソン / カン・ジンアン『Complement』
水中めがね∞『絶滅危惧種~繁殖部屋にて~』
大石 裕香『ウロボロス
イー・ギョング『A broom stuck in a corner』
四戸 賢治『K(-A-)O』

ファイナリスト(五十音順、年齢=2017年7月17日応募締切時点、出身地)                                 
振付家名 年齢 出身地 作品タイトル
大石 裕香 33 大阪府 ウロボロス
北尾 亘 30 兵庫県 2020
四戸 賢治 27 岩手県 K(-A-)O
水中めがね∞ 25 東京都 絶滅危惧種~繁殖部屋にて~
田村 興一郎 24 新潟県 F/BRIDGE
タリノフ ダンス カンパニー   34 茨城県 フィクション
Choi Minsun/Kang Jinan 34/35   ソウル市(韓国) Complement
Kim Seo Youn 32 ソウル市(韓国) Selfish Answer
Lee Kyung-Gu 25 テグ市(韓国) A broom stuck in a corner
Michael Barry Arbas Que 24 セブ市(フィリピン)   NEGATIVES TO POSITIVE

□審査員(五十音順)
岡見さえ(舞踊評論家)チェン・ミンスン
近藤良平(コンドルズ主宰・振付家・ダンサー)
多田淳之介(東京デスロック主宰・富士見市民文化会館キラリ☆ふじみ芸術監督)
浜野文雄(新書館「ダンスマガジン」編集委員
ティエリー・ベイル(在日フランス大使館文化担当官)
矢内原美邦ニブロール主宰・振付家・演出家・戯曲作家・近畿大学准教授)

 田村興一郎が若手振付家のための在日フランス大使館賞とシビウ国際演劇祭賞をダブル受賞。これは大いにめでたいことだし、彼にとっては大きなチャンスとなる契機となりそうなので、これはおおいに喜ぶべきことではあるのだけれど、 韓国人ファイナリストのうち、奨励賞のイー・ギョング、ベストダンサー賞のキム・ソヨンは順当だといえなくもないが、仰天したのはグランプリに当たる審査員賞にチェ・ミンソン / カン・ジンアンが入ったこと。これが審査員賞というのはありえないだろう。どう考えても田村興一郎がこれも取るに決まっていると思っていたので「嘘でしょ」と叫ぶ結果になった。トヨタコレオグラフィーアワードでは私の予想はだいたいその通りになったのだが、横浜ダンスコレクションの前身である横浜ソロ&デュオではことごとく予想と結果が異なり唖然とすることが多かった。今回はまさか違わないだろうと思っていたもののやはりまさかな結果である。
 まさかの結果と言えば今回からベストダンサー賞というのが急きょ作られたのだが、確かにいいダンサーだったキム・ソヨンがこれを受賞するのにいっさい異論がなかったのだが、北尾亘がベストダンサー賞という結果には思わず虚をつかれた。確かにダンサーとして頑張ってはいたので彼にとっては喜ばしい結果だったと思う。
 若手振付家の方も私の予想は完全に外れた。やはり、根本的に評価基準が違うかなとも思った。賞からは漏れてしまったが、タッチポイントアートファンデーション賞 に私のイチオシだった今枝星菜が選ばれたのは彼女のために喜びたい。   

審査員賞  チェ・ミンソン / カン・ジンアン
奨励賞 イー・ギョング
ベストダンサー賞 キム・ソヨン
ベストダンサー賞  北尾亘
若手振付家のための在日フランス大使館賞 田村興一郎
MSDANZA賞 キム・ソヨン
M1コンタクトフェスティバル賞 四戸賢治

シビウ国際演劇祭賞 田村興一郎
タッチポイントアートファンデーション賞 今枝星菜
最優秀新人賞 永野百合子
奨励賞 高瑞貴
ベストダンサー賞 小林利那

横浜ダンスコレクションコンペティションI(1日目)

横浜ダンスコレクションコンペティションI(1日目)

マイケル・バリー・アルバス・ケ『NEGATIVES TO POSITIVE』
北尾亘『2020』
キム・ソヨン『Selfish Answer』
タリノフダンスカンパニー『フィクション』
田村興一郎『F/BRIDGE』


ファイナリスト(五十音順、年齢=2017年7月17日応募締切時点、出身地)                                 
振付家名 年齢 出身地 作品タイトル
大石 裕香 33 大阪府 ウロボロス
北尾 亘 30 兵庫県 2020
四戸 賢治 27 岩手県 K(-A-)O
水中めがね∞ 25 東京都 絶滅危惧種~繁殖部屋にて~
田村 興一郎 24 新潟県 F/BRIDGE
タリノフ ダンス カンパニー   34 茨城県 フィクション
Choi Minsun/Kang Jinan 34/35   ソウル市(韓国) Complement
Kim Seo Youn 32 ソウル市(韓国) Selfish Answer
Lee Kyung-Gu 25 テグ市(韓国) A broom stuck in a corner
Michael Barry Arbas Que 24 セブ市(フィリピン)   NEGATIVES TO POSITIVE

審査員(五十音順)
岡見さえ(舞踊評論家)
近藤良平(コンドルズ主宰・振付家・ダンサー)
多田淳之介(東京デスロック主宰・富士見市民文化会館キラリ☆ふじみ芸術監督)
浜野文雄(新書館「ダンスマガジン」編集委員
ティエリー・ベイル(在日フランス大使館文化担当官)
矢内原美邦ニブロール主宰・振付家・演出家・戯曲作家・近畿大学准教授)

 横浜ダンスコレクションの本編的存在であるコンペティションIの初日である。若手振付家(U25)のコンペティションIIとは異なり、こちらはある時期以降トヨタコレオグラフィーアワードとの差別化を図る狙いもあってかアジアの振付家が多数最終ノミネートに参加しているのが特色。特に韓国ではかつてこの賞を受賞した振付家がそれを契機にこの世界のスターになっていったという実績もあって、アワードが注目されているようで、毎年複数の候補者が名を連ねる状況となっていた。
 とはいえ、注目は北尾亘と田村興一郎だがどうなるかということだった。特に北尾はカンパニー公演、演劇公演などへの振付などで知名度は高いが、過去の例からすると実績のある人は抜群の評価を得ないと受賞しにくいという過去の歴史もある。そもそも北尾はいままでこの手の振付賞的なコンペは得意なタイプではないと思っていた。例えば、人気実績を兼ね備えた振付家であってもイデビアン・クルー井手茂太は活動初期にダンスのコンペではないガーディアンガーデン演劇祭の公開選考会に参加し演劇祭への出場権を勝ち取ったことはあるもののいわゆる振付賞への応募はないと思われ、活動領域が似ているせいもあるが北尾亘もそうだと思っていたからだ。
 北尾亘「2020」は面白い部分もあったのだが、2020年東京五輪を主題に実際にはない架空のスポーツというコンセプトは正直分かりにくかったのではないか。北尾は作風が多彩なことが特徴で、例えば群舞の作品でもう少しコンテンポラリーダンスとして普通に受けとれる作風のものも作れる人なのだが、ソロ作品で身体はかなり酷使するとはいえ通常の意味では「ダンス」ではない作品を出してきた。そのことにはあえて振付賞に応募するならオーソドックスと思われるようなものではなく、こういう尖った作品ではという思いはあったと思うが、私には北尾のよさが出た作品という風には思えず思いがやや空回りしていたように思われた。
 特に韓国の女性振付家、キム・ソヨン『Selfish Answer』という作品がシンプルでオーソドックスで新味に欠けるもののダンスとしてはクオリティーの高い作品。以前は韓国の作品にあったモダンダンス的な臭みはない。ただ、コンテンポラリーダンスとしては保守的な作風に見え、私の好みからはかけ離れている。だが、過去にはこうした傾向の海外アーティストの作品が賞をさらっていったのも何度も目撃しているためにこの手のものがグランプリでは嫌だなと思った。 
ところがこうしたもやもやも最後の田村興一郎『F/BRIDGE』を見てすべてが吹っ飛んだ。これは久しぶりの圧倒的な作品だと思う*1。田村は京都造形芸術大学の出身でこの「F/BRIDGE」はもともとは大学の卒業制作として制作したものを再構築したものようだ。冒頭逞しい肉体の8人の男たちが出てくるが、すでに舞台奥にひとりが力尽きて倒れている。男たちは全員コンクリートのブロックを持っていて、次にそれを後頭部に載せて、上手から下手、下手から上手へと動き出す。動きは最初はそろってゆっくりなのだが、次第に加速して速度もバラバラについには力尽きた何人かが倒れてしまうが、そうすると今度は倒れた仲間の上にブロックを載せて、引っ張っていく。最近よくある酷使される身体を見せる作品とはいえるが、単純に身体的なものだけを見せるというだけではなくて、それが現代日本の特に若者が置かれた労働状況とダブルイメージになっていく仕掛けつが巧みである。ただ、この作品の本当の魅力はそういうところではなく、身体的負荷を超えて次第に動きが激しくなっていく過程で若い男性パフォーマーが生み出す凄まじいまでのエネルギーの爆発が体験できたことだ。まだコンペティションは1日あるがこれがグランプリでないようなことがあったら、審査員はいったい何を見ているんだということになると思う。

*1:団菊爺じみて嫌なのだが、ひょっとしたらトヨタアワードで黒田育世の「side-B」を見て以来の衝撃かもしれない。