下北沢通信

中西理の下北沢通信

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KATHY+graf「炎のメリーゴーランド」

 KATHYgraf「炎のメリーゴーランド」を横浜のBankART Studio NYKで見た。KATHYはあえて分類すれば一応、ダンスカンパニーということになるのだが、2002年の結成以来、これまで主として美術フィールドで活動してきた女性3人の集団で、その正体は謎という覆面カンパニー(黒のストッキングと金髪の鬘をいつもかぶり、観客には顔を見せない)ということになっている。
 カンパニーの名称でもある「KATHY」というのは米国女性の名前で、彼女の指令のもとに彼女らはいろんな場所に出没、その強大なる力に操られるままにパフォーマンスを見せる、ということになっている。通常のダンスカンパニーとは異なり、これまでの活動暦を振りかえると主として美術フィールドで活動をしてきた彼女たちではあるが、今回は初の単独でのでの有料公演となった。
 会場となったBankART Studio NYKは地下鉄みなとみらい線馬車道駅にほど近い海岸通にある倉庫を改装して、アートスペースとした建物で、公演はここの建物と海との間にある野外空間と1階のスリースペース(ホール)を使って行われた。
 「あっ」と驚かされたのは冒頭のKATHYたちの登場シーン。壮大な音楽が鳴り響いて、いよいよ始まりだ、という気分にさせておいて、建物の一部が扉が開いているのでそちらから登場するんだろうと思わせておいて、そこではなにも起こらず、肩透かしと思った瞬間、海の方に向かって左から右の方向になにやら大音響を鳴り響かせて、クルーザーが通り過ぎ、それが大きく旋回して岸壁に着き、聖火のようなトーチを持ったKATHYたちがそこから現れるというこのBankART Studio NYKのロケーションを憎たらしいほど鮮やかに利用した印象的なオープニング。この贅沢さにはには思わずやられてしまった。脱帽ものである。
 上陸するとKATHYたちは持ってきたトーチでよたよたと用意された燭台の方に近づき、今度は周りを取り囲んだ黒尽くめの魔の手先のようなものたちと一緒にスカートの裾を広がらせながら、クルクルと回り始める。ここまでがオープニングでこの後、パフォーマンスは室内に移動して続けられる。
 ここでは巨大な金の船が舞台奥から登場。これは横浜トリエンナーレの会期に合わせ、横トリでは奈良美智とコラボレーションをして話題を呼んでいる家具工房のgrafが製作。grafは船を作っただけでなく、黒子となって船を押したり、まさにKATHYに全面協力の公演であった。
 船は舳先の部分にKATHYを乗せながら、ゆっくりと倉庫の中を前進。すると今度は白い王子たちと宮廷の美女たちが奥の方から出てきて、バレエ音楽に合わせて、踊り始めるが、これがよく見ると全員が黒いストッキングの覆面に金髪のカツラという全員が囚われのKATHYたちなのであった。
 このあたりは明らかにダンスもリフトや回転などもふんだんに入っていて、「眠りの森の美女」を思わせるクラシックバレエのパロディを演じてみせる。
 この後も観客にクイズをさせてはずれた解答者をKATHYたちが拉致して、無理やり覆面とカツラを被せて一緒に踊らせたり、天井にゴムの綱でぶら下がったKATHYたちが空中パフォーマンスを見せたりとアイデアが満載の1時間。舞台作品というよりは体験的に楽しめるアトラクションの趣きもあって、なかなか楽しい公演であった。
 KATHYの特徴はいわゆるコンテンポラリーダンスとは一線を画したようなテイストにある。ダンス自体はバレエの色合いを残したもので、この日最初に見せたくるくる回転やよたよた歩き、滅茶苦茶に暴れるような動きとバレエじゃない動きを挿入しながらも、パロディとしてのバレエ的なるものはそのまま残されている。
 ただ、コンセプトやその時にかかわるアーティスト(今回はgraf)のコラボレーション的な巻き込み方やその時の場所に合わせて内容を変化させていくことなどにおいて、現代美術におけるコミュニティアート的なものとの共通点も持っていて、それがまず現代美術のフィールドで受け入れられ、評価された要因でもあったと思う。
 今回の公演もいわば海際の倉庫跡という会場の立地にいわばあてがきしているようなところもあって、このままでの再演は難しいとは思うが、ぜひ関西での公演も実現してほしい集団であった。  
(演劇コラムニスト)