下北沢通信

中西理の下北沢通信

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マイケル・シューマッハ、R40`s(森美香代、サイトウマコト、ヤザキタケシ、安川晶子)「マイケルが帰ってくる!! 迎えますはR40`s 」

「マイケルが帰ってくる!! 迎えますはR40`s 」(atelier GEKKEN)を観劇。

DANCE BOX提携公演
 マイケル・シューマッハ、R40`s(森美香代、サイトウマコト、ヤザキタケシ、安川晶子)
 マイケルが帰ってくる!! 迎えますはR40`s
演出・出演
  マイケル・シューマッハ、R40`s(森美香代、サイトウマコト、ヤザキタケシ、安川晶子)

照明: 三浦あさ子
音響: 黒田治

Michael Schumacherマイケル・シューマッハ)プロフィール


オランダ・アムステルダム在住。米・アイダホ出身。ジュリアード音楽院を経て、
トワイラ・サープ、フランクフルトバレエ団、プリティ・アグリーなど世界の超
一流カンパニーで活躍。ウィリアム・フォーサイス振付のフランクフルトバレエ
団での彼のソロは高い評価を受けた。現在はオランダに活動拠点を移し、音楽・
ダンスの即興的融合を目指したマグパイミュージックダンスカンパニーに所属し
ながら、フリーのパフォーマー、振付家として広く活動する。ダンス講師として
も高い評価を得ている。豊富なダンス経験に裏打ちされた高度なテクニックとイ
ンプロヴィゼーションに対する感性で世界中の多くのカンパニーから出演依頼の
絶えない人気ダンサー。

マイケル・シューマッハは元フランクフルトバレエ団のソリスト。現在はオランダを活動拠点に即興的な要素の強いマグパイミュージックカンパニーに所属する彼が来阪したのを関西を代表する4人のベテランダンサー(森美香代、サイトウマコト、ヤザキタケシ、安川晶子)が迎え撃った即興セッションである。
 R40`sは4人のダンサーの年齢がいずれも40代であることからつけられたが、実はそれだけではなくて、彼らは関西にコンテンポラリーの「コ」の字もなかった今から20年前にジャズダンスのスタジオで出会って以来の仲間であり、マイケルもポルトガルのカンパニーで一緒に踊っていた森の招きで来日して4人で同じ舞台に立った15年前以来の旧知の仲なのであった。
 ダンスにおいて即興(インプロビゼーション)は大きな要素であるが、この公演は本人が振付家でもあり、さまざまな舞台経験を持つダンサーが一緒に舞台に立ち、やり合うことでどんなものが生まれてくるかを目の前に見せてくれたという意味できわめて興味深いもので関西のコンテンポラリーダンスの底力を見せ付けたという点でも刺激的な舞台であった。
 舞台はマイケルのソロによるダンスからはじまる。青みがかった幻想的な照明のなかにゆっくりとその姿を現す。即興という風に書いたが、この部分は完全に細部に至るまで振り付けられたソロ作品である。最初ボウリングの動き、次にビリヤード、そしてフィッシング(釣り)の動きが非常にゆっくりとスローモーションのように演じられると今度はその動きがまるで映画のフィルムを逆回転させたかのように「反転」させられる。仕草をシュミレートしたという意味でマイム的な要素が強いのだが、通常のパントマイムとは明らかに違う優雅な印象を受けるのはこの部分での身体コントロールが指先の微妙な動きひとつまで計算されつくされたものであるからだ。
 このシーンの後、場面は一度暗転、今度はヤザキが舞台上にいて、客席の通路から安川が登場する。2日間の公演で続けて見てこの公演が面白かったのは「即興」という風には書いたが実はその「即興」というのは出たとこ勝負でなんでも自由にやっていいというわけではなく、そこでは場面ごとにいくつかのルールがかせられて、それによって全体の大きな構造はそれによって規定されているらしいことが分かってきたことである。事実この最初のヤザキと安川のデュオは2日間を比べてみても、ヤザキが高底のブーツを履いてでてきて、少しコミカルな動きをすると安川が奇声を上げながらチョップするような動きを繰り返すという流れはまったく同じ。で、「振付」ではないので細かい動きはまったく異なるものこの後サイトウ、森が今度は非常にゆっくりとしたたゆたうような動きで踊りながら登場。少なくともここまでは場面の印象にはそれほど大きな違いはない。
 ところがここから一度退場したマイケルをはじめ、ヤザキ、安川らは再び舞台に現れる辺りから舞台の様相は公演ごとに大きな違いを見せ始める。特に即興においてダンスを音楽に例えるのはいろんな誤解を呼ぶ基になりがちだが、それでもあえて例えるならば今回の即興ダンスのセッションはあたかも手だれの演奏家によるモダンジャズのセッションを思わせるところがあった。ちょっと見るだけでこの五人がきわめて優れたテクニックを持つ踊り手であることは一目瞭然で分かるが、それでいて技術を誇示するわけでなく、このメンバーならではのハーモニー(調和)が生まれてくるのが面白い。
 それまでのダンスの一連の流れを意識しながら、それぞれのダンサーは踊るのだが、それでいてたとえばコミカルでファニーな動きで個性を発揮するヤザキ、森の伸びやかで端正なたたづまい、運動性に優れたサイトウの流れるような動きなどとそれぞれの持ち味を見事なまでに発揮しているのもこのメンバーならではの余裕のなせる技であろう。それでいて、抜群の技術をもともと持っていながら、最近の自作ではあまりそういうテクニックを駆使したような奔放な動きをすることがない森や安川のちょっといつもと違う姿を見られたのも面白かった。
 実は即興の要素が強い公演はソロかデュオぐらいが限界でダンサーの数が増えてくると問題があるのではないかと以前から考えていた。というのは舞台上に人数が多く出ていても結局、気がつくとそのうちのひとりかふたりを目で追うことになって、それ以外のダンサーに目が行かないことが多いし、人数が増えると全体の印象も散漫になってしまうことが多いからだ。
 ところが、今回の四人(プラス1)の即興はそうではなかった。これは第一に四人の技量が拮抗していてそれぞれのレベルが高いのに加えて、二十年来の付き合いが生み出す互いの信頼関係に阿吽の呼吸のようなものを強く感じ、それがそのまま即興でありながら、クオリティーのおける安定性を感じさせることにつながっている気がした。
 しかも、今回の公演ではその四人にマイケルが絡むことでそのハーモニーは四人の場合と微妙に違うものに化学反応を起こしている。そんな風にも感じた。おそらく、このプラス1がマイケルから別のダンサーに代わればまたまったく別の世界が展開されそうで、即興がそのままでも作品になりうる可能性を示した貴重な公演であった。