下北沢通信

中西理の下北沢通信

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劇団太陽族「足跡の中から明日を」@精華小劇場

劇団太陽族「足跡の中から明日を」(精華小劇場)を観劇。

「足跡の中から明日を」作・演出 岩崎正裕
精華演劇祭vol.12
DIVE selection vol.3
中島陸郎没後10年に捧ぐ「円型舞台への挑戦」

<出演>
森本研典 南勝 岸部孝子 篠原裕紀子 前田有香子 田矢雅美 佐々木淳子 中西由宇佳 韓寿恵 小窪潔絵 米田嶺 左比束舎箱

今年で没後10年になる関西小劇場の育ての親といっていいプロデューサー中島陸郎氏の評伝劇である。といっても、会話劇として単純に中島氏を描くというのではなくて中島氏の作品や著作、関連した資料などを基にコラージュしたものを自由につなげた構成となっている。ただ、実はこの作品だけではなくて、この前に上演されたDIVEプロデュース「中島陸郎を演劇する」も含めてのことなのだが、中島陸郎氏に捧げるというオマージュの気持ちはわかるのだけれど、どうしても違和感のようなものを感じてしまった。というのは、見られなかったけれど作品のリーディングをはじめ、この岩崎作品でも作品の一部を引用していたが、その紹介のされ方が劇作家・演出家としての中島氏の業績に偏っていて、「本当に彼の業績を顕彰するとしたら、それはプロデューサーとしての仕事であって、作家としてのそれじゃないだろう」と思ってしまったからだ。もちろん、劇作家としての中島氏の業績を紹介するのはそれはそれでかまわないけれど、本当に焦点を当てなくちゃいけないのはそこではないのじゃないかと思ったからだ。
 私にとっては中島陸郎という人はもちろんいろんな劇団、劇作家の育ての親でもあって、岩崎自身の経験を元にしたそういう点でのエピソードはこの舞台にも出てくるのだけれど、特に中島氏がそうだったような小屋付きのプロデューサーというのはまず企画力が問われるのではないか。その意味では今でも中島氏の仕事を代表するのはこちらは実際には見られなかったがオレンジルーム時代の若手劇団の競作による「熱海殺人事件」連続上演。これは関西の小劇場ブームに火をつけたと言われている伝説の企画である。
 そして、もうひとつはウイングフィールドの杮落としとなった「青木さん家の奥さん」である。こちらは実際に見ているが、内藤裕敬はもちろんではあるが、こんなことでもないと実際に同じ舞台に立つことはまずないと思われる生瀬滑久(当時そとばこまち座長)、マキノノゾミ(劇団MOP)らがまさに中島氏のためにはせ参じた形で共演。生瀬のビッグマック一口一気食いという超反則技にほかの俳優が笑いすぎてまったく演技が続けられなくなってしまうなど抱腹絶倒の舞台であった。
 舞台が面白いというのはもちろんだけれど、見る前からこれは見たい、そういうわくわくするような気にさせる企画を観客である我々の前に提示し、ムーブメントを作っていった。これが中島氏のプロデューサーとしての最大の功績で、今回の精華演劇祭が中島氏の「没後10年に捧ぐ」というのであればそういうところを顕彰するような企画にすべきではないかと思うのだが、どうも残念ながらそういう風にはなっていない。どうも「作家・中島陸郎」ということに焦点を置きすぎたことで、前衛に傾斜したラインナップとなってしまったことが中島氏の本意だったとは思えなかったのだが……。