下北沢通信

中西理の下北沢通信

現代演劇やコンテンポラリーダンス、アイドル、ミステリなど様々な文化的事象を批評するサイト。ブログの読者募集中。上記についての原稿執筆引き受けます。転載依頼も大歓迎。simokita123@gmail.comに連絡お願いします。

グルーポ・デ・ルア(Grupo de Rua de Niteroi )「H3」 YCAMで公演

 以前エジンバラ演劇祭で見て、「これは凄い」と仰天したブラジルのコンテンポラリーダンス・ヒップホップグループ「グルーポ・デ・ルア」が来日、山口情報センター(YCAM)で公演することが分かりました。11月なのでまだ先のことではありますが、これはニュースです。いまのところ、YCAM以外での公演予定があるのかどうか、不明ではありますが、これはもう必見でしょう。
と山口以外での公演はないかとネット検索していてびっくりしたのはこちら(http://www.yokohama-kenbunroku.com/bknum_kuchi/k009/index.html)。今回が初公演かと思えば、2003年に横浜レンガ倉庫で公演していたじゃないか。しかも、それならだれかレビューでも書いてないかと検索してみるとコンテンポラリーダンス系の専門家はだれも書いておらず、えんげきのページのお薦め芝居でかつての僚友だった「ウニタモミイチ」*1と「横内会長」(しかも、えんぺのお薦め芝居コーナーで)*2のみが書いていたのだった(笑)。この時は今回と別の作品のようなのだけれど、横内会長のを読んでみるとだいたいの様子は分かるけれど、けっこう笑えそう。それにしてもコンテンポラリーダンスの世界には全然反響を呼ばなかったわけですね(笑)。とここまで書いてきて再び愕然。私がエジンバラで見たのは「H2」で今回来日公演するのは最新作「H3」だということにたった今気がついた。これはますますもし公演がYCAMだけならば万難を排していかなければ。こちらの映像もYOU TUBEで発見したけれどめちゃめちゃカッコよさそうです。
「H2」2005年
 
「H3」2008年

以下エジンバラ演劇祭の時のwonderlandレビュー*3から引用。

 コンテンポラリーダンスでは今年の目玉公演はブラジルから来たヒップホップ系のカンパニーによるGrupo de Rua de Niteroi 「H2」(The EdinburghPlay House)であった。ここ10年ほどの流行としてヨーロッパではヒップホップに代表されるようなストリート系のダンスの動きをコンテンポラリーダンスのなかに取り入れるという動きがあって、前述のマリー・シュイナールもそういう傾向の振付だったが、このカンパニーの振付家Bruno Beltraoの試みが面白いのはコンテンポラリーダンスにヒップホップを取り入れたのではなく、ヒップホップそのものの現代化、前衛化を志向していることだった。

 床も壁も純白に彩られた無機的な空間でこのパフォーマンスははじまる。舞台が始まると後ろの白い壁にはプロジェクターによって「Hip-hop loves the beat of the music」の文字が映し出され、大勢のダンサーが舞台に登場して、リムスキー・コルサコフの「蜜蜂の飛行」の軽快な音楽に乗せて、頭を下にしてくるくると独楽のように回り始める。Hip Hopというのがダンスの種類の名前であるとともに音楽のジャンルの名前でもあるようにこの種類のダンスにはアメリカの文化のなかから生まれたということの出自と切り離せないところがあるのだが、Bruno Beltraoはそういう背景から純粋にムーブメントのストラクチャーだけを切り離して、分析しそれを再構築した時にそこからどんなものが生まれるのかというきわめて刺激的な実験をこの作品のなかで試みてみせる。

 軽快なクラシック音楽に乗せての冒頭の場面はその最初の試みだが、この部分はまだ挨拶のようなもので、ここから通常のヒップホップでは考えられないような場面が続く。しばらくすると「Hip-hop loves the beat of the music」から「of the music」の部分の文字が消えて、「Hip-hop loves the beat」が残るのだが、ここではビートといっても現代音楽といってもいいような非常にゆっくりとした重低音のビートが時折鳴り響くだけで、後は無音な状態のなかで、ひとり、あるいはふたり程度のダンサーが交互に舞台に登場して、ヒップホップの動きのうち、ある特定のムーブメントだけを取り出したミニマルな動きを長い停止の間に何度か繰り返す。

 この部分はまさにヒップホップの解体であって、私にはこのパフォーマンスのなかで一番興味深かったとことなのだが、ダンスとしてはまさにミニマルでヒップホップというと連想されるようなグルーブやエンターテインメントの要素は完全に剥ぎ取られたある種のポストモダンダンスのようなところがあり、観光客中心にノリのいいダンスを期待してきていたと思われるエジンバラの観客には明らかに戸惑いがあった。落ち着きがなくなったり、耐え切れなくなってか席をはずして途中で帰ってしまう客も現れたりして「どうなってしまうんだろう」と心配になったりしたのだが、その後ちょっとしたコミックリリーフ的に挟み込まれた「Hip-hop loves」になってからの男性ダンサー同士のいちゃつき合いやキスの場面をへて、最後の10分間はフランスのバンドCQMDの音楽に乗せて、ハイスピードでの超絶技巧のダンスが展開された。

 実はこの最後の部分に関してはYOU TUBE上に動画(http://www.youtube.com/watch?v=O63nMxT-2s4)を発見したので興味のある人はそちらを参照してもらいたいのだが、ここではミニマルな場面で登場したダンスのムーブが振付の部材として使われており、それを脱構築することでそこにヒップホップのムーブメントを基調としていながら、いわゆるヒップホップダンスとは違うダンスのストラクチャーがヒップホップではない音楽の元に現れていることに気がつくと思う。

グルーポ・デ・ルア「H3」
振付・演出:ブルーノ・ベルトラオ
日付 : 2009-11-14(土)
時間 : 19:00開演
場所 : スタジオA /
料金 : (チケット発売 any会員先行 10月3日 一般 10月10日):全席自由
前売 一般 2,300円/any会員・特別割引 1,800円/25歳以下 1,500円 
当日 2,800円
インターネットでのご予約·購入

山口市文化振興財団チケットインフォメーション(YCAM内): 083-920-6111

ヒップホップ×コンテンポラリーダンスがダンス界に新風を巻き起こす
やはり
ストリートダンサーを起用し、ヒップホップとコンテンポラリーダンスを融合するパフォーマンスで大きな話題を呼ぶ、ブラジル人若手振付家ブルーノ・ベルトラオの最新作がYCAMに登場。ダンス、音楽、美術、ファッションなど文化や社会にも独特の影響を与え続けるヒップホップが、コンテンポラリーダンスに新風を巻き起こします。ストリートと劇場を横断する躍動的な舞台です。


平成21年度文化庁芸術拠点形成事業

 さらにもう少しなにかないかなと思って探していたらブルーノ・ベルトラオ振付の映像作品も発見しました。少し長いけれどこちらの方も結構カッコイイです。