下北沢通信

中西理の下北沢通信

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悪い芝居vol.8「嘘ツキ、号泣」@アートコンプレックス1928


作・演出 山崎彬
【出演】
山崎彬 四宮章吾 大川原瑞穂 吉川莉早 藤代敬弘 西岡未央 梅田眞千子 植田順平 森本児太郎

前作は見ることができなかったので、前々作「なんじ」*1以来2度目の観劇となった。若い劇団の進歩とは恐ろしいものだ。前回の観劇では面白いところはあるけれど?というのが正直なところだったが、どこか気になる存在ではあり、それで今回の観劇となったのだが、これは問題なく面白い。5月には東京公演が予定されているが、ヨーロッパ企画デス電所以来ひさしぶりに出てきた期待の若手劇団だといっていい。例えば東京の若手劇団では先日関西で初めて公演を見た柿喰う客やまだ本公演は残念ながら見ることができないでいるがDVD映像で見て面白かった快快(小指値)などに勢いを感じるが、この悪い芝居の今回の舞台にも同種の新鮮さを感じた。 
 その舞台がほかの劇団の舞台を連想させる、というと普通はほめ言葉とはとれないかもしれないけれど、この悪い芝居の「嘘ツキ、号泣」にはいい意味でそういうところがある。例えば、前半部分は妙に様式化されたような奇妙な調子の演技が続く。演技の質感自体が似ているというわけではないのだが、冒頭から喫茶店でのコント風の演技場面で連想させられたのが野鳩*2の演技である。

役者のまるで棒読みのような平板なアクセントの台詞まわしや演技の際の漫画的リアクションなどは、まるで学芸会のような下手な演技に見えかねないところもあるが、何度かこの劇団を見てみると実は非常にきめ細かく確信犯として演出されている一種の「様式」であることが分かってくる。

 実際の演技のやり方は野鳩とはあまり似たところがないのだが、共通しているのは明らかに自然体ではなく、なにかデフォルメされたような演技が確信犯としてなされていることで、おそらくそのデフォルメのモデルにはどちらも「漫画」という共通項があるのではなかと思われたのだ。野鳩の場合、それはドラえもんというか藤子不二雄の世界を思わせるのだが、今回の悪い芝居の場合はそのふざけた調子といい、下品さも兼ね備えたブラックなギャグといいやはりモデルとなっているのは赤塚不二夫の世界ではないかと思う。
 演劇のセリフ回しの技術といった純粋に技術的な課題ということにおいてはまだ解消されるべき欠陥がないとはいえなくて、そのために聞こえなければならない重要なセリフの一部があまりにもがなりたてるような発声法のせいで聞こえにくいなどという問題はある。そういうことは今後解消していくべきことではあるのだが、悪い芝居の特徴的な変なセリフ回しというのは「確信犯」であって、それが通常の舞台俳優の演技とは違うとしてもことさら非難すべきものではない。見ているうちにそれに慣れてくると特に「喫茶麿赤児」のシーンでの登場人物の会話などは漫画のコマ割りを模したような舞台美術とも相まってまるでふきだしのようにも見えてくる。