下北沢通信

中西理の下北沢通信

現代演劇やコンテンポラリーダンス、アイドル、ミステリなど様々な文化的事象を批評するサイト。ブログの読者募集中。上記についての原稿執筆引き受けます。転載依頼も大歓迎。simokita123@gmail.comに連絡お願いします。

シアター21フェスSTEPUP vol.26@神楽坂セッションハウス  

出演 :南弓子、かえる企画、鈴木清貴+前納依里子、BAoBAo、矢嶋里美


南弓子『dying scape』 

構成、演出、振付、出演:南弓子 音楽:生形三郎

新進気鋭の作曲家、生形三郎と、南弓子のコラボレーション。

プロフィール

■南弓子

京都市立芸術大学で現代美術を学ぶが徐々に身体表現に傾倒、今)貂子のもとで舞踏を学ぶ。2004年より自ら舞台作品を創る。特異な身体と独特の作品世界には定評あり。最近は舞台作品の他にミュージシャンとの即興セッションも意欲的に試行している。

■生形三郎(作曲家)

昭和音楽大学作曲科卒。在学中に国内外の作曲コンクールで受賞し渡仏、電子音響音楽の作曲と演奏を学ぶ。世田谷美術館でのソロコンサートや仏国立シャイヨー劇場での演奏活動の他、マルチレイヤーサウンドシステムを用いた電子音響イベント「響彩陸離」を主宰。各種コラボレーション、ワークショップ、CDリリースなども。現在、東京藝術大学大学院にて研究活動を行う。

 神楽坂セッションハウスの主催している公募制のダンスショーケース。同種のものにアートシアターdBのDANCE CIRCUSや横浜STスポットのラボ21がある。目的は関西から東京に移住した南弓子の作品をひさびさに見ることであったが、南はともかくほかの作品はダンサーとしてならかなりキャリアのある人が含まれているのにもかかわらず正直言って「うーん」という感じ。こういうのを見てしまうといろいろ批判的なことも書いたけれども直前に見た「吾妻橋ダンスクロッシング」の水準の高さが歴然と分かることも確かだ。
 そんな中で唯一、吾妻橋に登場した作品とは方向性は全然違うけれど、遜色のないレベルで一頭抜きんでた実力を示していたのが南弓子であった。ただ、この作品「dying scape」は以前に京阪なにわ橋駅なにわ橋駅! ダンスサーカス*1で上演された作品の再演でその時にも同様の感想を抱いたのだが、南の作品としては彼女の魅力が十分に出し切れていなくて歯がゆい感じがした。
 
 電子音響音楽の生方三郎とのコラボレーションである。通常の伴奏音楽のように音に合わせて踊るというようなのではなくて、生方の音楽が作りだす音響インスタレーションに晒すように身体を置き、そこに立ち続けるというようなことを志向した作品に見えた。その試みは面白くはあるのだけれど、その分、以前の作品と比べると動きの語彙のバリエーションが少なく単調に感じられる。最近の彼女は充実していて少し以前にはなるがアートシアターdBでの「学園天国」や京都芸術センターで上演された「MUSHI-KERA」では強靭な身体能力と妖しいキャラが相俟ってきわめて魅力的な作品に仕上がっていた。それと比較するとこの「dying scape」はキャラ作りよりも、ただ身体を晒すといううことが重視されたためか、やや地味な印象なのだ。
 生方も優れた音楽家で、南も出演した電子音響イベント「響彩陸離」でのライブ演奏では音自体の物質的な厚みを感じさせられ感銘を受けたのだが、この作品では以前他の作品では感じられた音自体の厚みが弱く、「ひと夏の思い出」的な具象的な自然音が入り込んでいて、南の表現もやや抒情に流れた感もあった。この2人のコラボレーションでは強靭さというのが共通のキーワードになるので、どうしても物質的強度の音の塊のなかで南が屹立するというようなことを期待してしまうのだが、「dying scape」は少し違う方向性の作品だった。
 これは単純に趣味の問題かもしれないのだが、少女めいたかぶりもののついた衣装も南にはあまり合っていない印象もあった。京都の「MUSHI-KERA」の時のような際どい衣装の方が彼女の持つコケティッシュな魅力をより強調したように思う。もちろん、これも趣味の問題といわれればその通りなのだが。
 厳しい見方になってしまったが、私が高く評価していた「MUSHI-KERA」で横浜ソロ×デュオのファイナリストに選出されることになった。ダンサーとしての潜在的な魅力は抜群の人だけに期待して待ちたいと思う。ちなみに次の日(9月13日)のKIKIKIKIKIKIの公演の後、知ったのだけれど、横浜ソロ×デュオにはきたまり「女生徒」も選ばれたようで、ひさびさに関西勢から(南は東京に移住しているが)から2人が選出され、これはひさしぶりに要注目かもしれない。