下北沢通信

中西理の下北沢通信

現代演劇やコンテンポラリーダンス、アイドル、ミステリなど様々な文化的事象を批評するサイト。ブログの読者募集中。上記についての原稿執筆引き受けます。転載依頼も大歓迎。simokita123@gmail.comに連絡お願いします。

マームとジプシー「LEM-on/RE:mum-ON!!」@元・立誠小学校

「LEM-on/RE:mum-ON!!」

死にゆく男と周囲の人々。始まりと終わりの中間点。
人々は右往左往しながら、生まれてから死ぬまでを、
常に進行方向を変えずに、矢印を終点に向けながら、
今日も陰鬱に歩いている。今夜も酔っ払ってしまい、
それでも街へ繰り出して、歩く。歩く。歩く。歩く。
廃校になった学校の中を、歩き。躓き。歩き。躓き。
ひたすら反復し繰り返す、冬のマームとジプシー的、
人生論みたいな辛いお話。




「LEM-on/RE:mum-ON!!」
[初演] 2012年3月
[出演者]
伊野香織 荻原綾 尾野島慎太朗 川崎ゆり子 斎藤章子
高山玲子 成田亜佑美 波佐谷聡 召田実子 吉田聡

[スタッフ]
原案:梶井基次郎檸檬』他
作・演出:藤田貴大
舞台監督:森山香緒梨
照  明:吉成陽子
音  響:角田里枝
記録・舞台美術協力:細川浩伸(急な坂アトリエ)
制  作:林香菜、市川公美子
主  催:マームとジプシー、坂あがりスカラシップ(急な坂スタジオ、STスポット、のげシャーレ)
共  催:立誠・文化のまち運営委員会

 マームとジプシー「LEM-on/RE:mum-ON!!」はサイトスぺシフィックな作品であった。廃校になった学校に漂う独特の空気感は藤田の劇世界と共鳴しあって観客自身の記憶のツボを刺激した。梶井基次郎の「檸檬」を舞台化すると聞いていたのだが、そうではなく「檸檬」はもちろん「Kの昇天」「冬の蠅」「桜の樹の下には」など梶井の複数の短編に登場するイメージをコラージュのように引用しながら、時を隔てた同年代(少し上だが)の梶井に向けての藤田の返歌としてこの作品は制作された。

 岸田國士戯曲賞を受賞した「塩ふる世界。」をはじめ藤田の劇世界では大切な人の死ないしその変奏としての別離がモチーフとして頻出する。原作ものとしてはこの作品の前にカミュ「異邦人」を手掛けたが、その小説も母の死という藤田が好んで取り上げた主題を共有しており、それからいうと梶井基次郎は自らの病弱を反映してか、死を象徴するモチーフが頻出する作家であるということからして、藤田と精神的な双生児のようなところがある。

 この作品では何度も同じセリフや主題が繰り返されるが、そこに通底しているのはやはり「死」のイメージであって、「塩ふる世界。」や「Kと真夜中のほとりで」と比較すると身体的な強度は低いが、それでも繰り返すことによる「肉体の酷使」という手法はここでも使われていて、そこには「RE/PLAY」と共通するような問題意識が表れていることは強く感じた。