ロロ vol.13「BGM」@下北沢ザ・スズナリ
脚本・演出|三浦直之
音楽|江本祐介
振付|北尾亘(Baobab) 中村蓉
ロロ「BGM」@下北沢ザ・スズナリ観劇。時はある人気アイドルグループが解散を決めた2016年の夏*1。10年前に友達の午前2時(島田桃子)の失恋を慰めるために3人で出掛けた東北へのドライブ旅行。いまは仙台に住む彼女が結婚するというので、もう一度その時のルート車でを回ろうという2人の男、泡之介(亀島一徳)、BBQ(篠崎大悟)によるロードムービー的演劇。
ロロの描く青春が眩しくせつないのはそれが今じゃなく失われたものだからじゃないかと思う。舞台では10年前の夏の回想と現在(2016年)の出来事が融通無碍なつなぎにより交互に語られていく。そしてそのことで10年という年月の持つ距離感が浮かび上がってくるような仕掛けとなっている。ただ作品中にいろいろ謎めいた要素が埋め込まれているのも確かだ。
登場人物のほとんどがニックネームのような名前で呼ばれているのに望月綾乃だけが登場人物名もで望月綾乃のままで出演していて、演劇をやっているとか、いわき市のアリオスという劇場に演劇公演を見に行くという設定になっているのはなぜだろう、とか。逆に泡之介、BBQ、午前2時といういかにもいわくありげな名前は何を意味しているのか。旅の途中で遭遇する奇妙な人物たちにはそれぞれ何か意味があるのだろうかとかだ。
いわき、松島、仙台、石巻の旅程を選んだ土地がすべて東日本大震災の被災地であることには絶対に偶然ではなく大きな意味があるはずだ。この作品の主題が失われてしまった過去の風景であることを考えれば、この作品で設定された10年という歳月にはただの物理的な時間というだけではなくて、2016年から2006年へと過去に遡る際に、その間に2011年3月11日はあり、しかもそれは過去の風景を完全に消し去ってしまうような切断線としてそこにあるんだということを誰も否定できないだろう。
ところが、この舞台で三浦直之はあえて物語の核心である震災には触れることはない。この芝居を見る全ての観客が設定から予期すること、つまり震災の記憶をあえて描かないのが三浦らしいと思った。そしてそれがこの物語を単なるノスタルジーではないものとしている。舞台を彩る江本祐介による音楽が本当に素晴らしい。最後に踊る人たちは皆楽しそうである。でもだからこそ永遠に失われたものを描く、この作品はせつないのだ。SMAPへの言及が冒頭にあるのも「永遠に失われたもの」の象徴だからなのかもしれない。