下北沢通信

中西理の下北沢通信

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範宙遊泳『#禁じられたた遊び』@吉祥寺シアター

範宙遊泳『#禁じられたた遊び』@吉祥寺シアター

2018年11月23日(金・祝)~11月28日(水)


東京を拠点に、海外での公演も行う演劇集団・範宙遊泳が吉祥寺シアターに初登場!!
これまでの海外公演・国際共同制作の経験をもとに、 「日本人が出演し日本語のみが喋られる演劇」ではない形を模索しながら、 国内で新たな国際共同制作に挑戦いたします。
introduction
 東に富士山を望むことができる永井県永井市は架空の街である。かつては有数の農業地帯として桃畑や葡萄畑や桑畑に囲まれた村だったが、駅の誘致を契機に隣接する町と合併し市になった。市になってからは開発が進み、都心からほど近い利便性と豊かな自然に憩いを見出した比較的経済的ゆとりのある外国人が多くこの地に集まっていった。
舞台は永井が市になって定着し、浸透し、幾度かの世代交代も繰り返された頃の時代。マイノリティの声マジョリティの声そんな区別なく声は声。 聞く耳を持たない時代の終わり。まずここから。

山本卓卓 

[作・演出] 山本卓卓

[出演] ​熊川ふみ 福原 冠
前原瑞樹 油井文寧
小野亮子 唐沢絵美里 神田初音ファレル グンナレ 更
啓豪 実近順次 鈴木みのり 野口卓磨
藤本しの 細谷貴宏 李 そじん
飴屋法水

[翻訳] クリストファー・グレゴリー [振付提供] 北尾 亘 [音楽] 大野希士郎
[照明] 富山貴之 [音響] 池田野歩 [衣裳] 藤谷香子 [映像] 須藤崇規 [舞台監督] 櫻井健太郎
[デザイン] 工藤北斗 [編集] 武田 俊 [制作助手] 川口 聡 谷口順子
[制作] 柿木初美 坂本もも

[協力] プリッシマ jungle 青年団 無隣館 FREEDOM RIDER
舞☆夢☆踏 よしもとクリエイティブ・エージェンシー
letre てがみ座 芝居三昧 ばけもの 東京デスロック
Baobab FAIFAI ロロ 急な坂スタジオ ローソンチケット 

助成:  芸術文化振興基金
アーツカウンシル東京 アーツコミッション・ヨコハマ

共催:公益財団法人 武蔵野文化事業団
企画制作・主催:範宙遊泳 さんかくのまど

  昨年(2017年)の年間ベストアクトに範宙遊泳「その夜と友達」を選んだのだが、映像ドキュメンタリー風の創作「changes」に続き、この作品と範宙遊泳(山本卓卓)の充実ぶりは続いた。しかも「#禁じられたた遊び」はいろんな意味でこの集団の集大成ともいってよく、今年(2018年)も最後に年間ベスト級の作品を出してきたといっていい。
 範宙遊泳はこのところ幾つかのプロジェクトにおいて海外のアーティストとの共同製作作品として、同じ舞台上で複数の言語による会話が交わされるような作品を創作してきた。今回の舞台は参加したのは、多くが海外にルーツを持つ俳優たちだが、その多くは日本育ちでもある。舞台上では日本語字幕のもとで中国語、韓国語、英語、日本語が入り交じって展開する。
 さらに言えば単に舞台上での多言語共存という手法だけの問題だけではなく、地方都市における在住外国人と地元住民の軋轢やネットにおけるヘイト発言や政治的なあるいは宗教的な外国人排斥運動を主題に取り入れたことでこの舞台は単に実験的、試験的な創作にとどまらず現代におけるビビッドな問題群として描き出すことができた。
 こうした政治的な問題をリアリズム手法で描き出す演劇は最近増えてきているけれど、範宙遊泳がそうしたものと一線を画すのは舞台を富士山ろくにある「永井県永井市」という架空の街としたように物語の枠組みに一定程度の抽象性を持たせることで、ある種の寓話性、神話性を物語に持たせることに成功していることだ。こうした手法には松井周(サンプル)の作劇を連想させるところがあるのだが、範宙遊泳はLINEやメールのやりとりなどをプロジェクターで壁面に映し出すようなやりかたを持ち込むことで、同じく新興宗教的な出来事を扱っていてもサンプルのそれのような土俗的ともいえるようなイメージはここには薄い。あえて、類縁例を探すとすると宮沢章夫などを挙げることができるかもしれないが、ここだけのものというオリジナリティーは強く感じた。