下北沢通信

中西理の下北沢通信

現代演劇やコンテンポラリーダンス、アイドル、ミステリなど様々な文化的事象を批評するサイト。ブログの読者募集中。上記についての原稿執筆引き受けます。転載依頼も大歓迎。simokita123@gmail.comに連絡お願いします。

キラリふじみ・ダンスカフェ スペシャルコラボレーション『幻想曲』@キラリふじみ

キラリふじみ・ダンスカフェ スペシャルコラボレーション『幻想曲』@キラリふじみ

f:id:simokitazawa:20200118160042j:plain
f:id:simokitazawa:20200118151325j:plain
 キラリふじみ芸術監督の白神ももこによるダンス企画。2日間のプログラムのうち初日の第一楽章、第二楽章の2つのプログラムを見ることができた。
 きたまりを見るのが目的のようなものだったことを考えるともう少し彼女がソロでガンガンに激しく踊る場面を見たかった。ただ、彼女の場合どうしても3人いる場面でも目立ってしまうということがあって、そのせいで上村なおか、花上直人を落ち着いて見ることができたのは終盤にきたまりが一度はけている間のことであった。
 この企画の特徴はコンテンポラリーダンスとしては珍しいほど小さな子供を連れた親子の観客が多いことだ。それだけならこの種の地方のホールの子供向けの企画でないことはないのだが、この日の演目はあまり子供向けということは意識してないのではと思わせるような挑戦的なもので、そこが色んな意味で面白かった。
 どんな作品なのか?冒頭はほぼ完全暗転の暗闇である。真っ暗の中でおどろおどろしいような音が聞こえてくるが、時折ちらりと動く影のようなものが見えるが何なのだかは全然分からない。客席はオールスタンディングで、私のいた場所の前には小さな女の子がお母さんと一緒にいたようなのだが、私の所にもその子の「お家帰る」の連呼が聴こえてきた。
 照明が少し明るくなってからも演者が布で出来た衣装を頭からかぶって亡霊を思わせるようななりで出てくることから子供らの恐怖は続いていたようで、先程とは別の母親からは「あれは布をかぶってるだけだから怖くないよ」と小声で伝えるのが漏れ聴こえてきたほどだった。
 トラウマになってしまうのではないかと思わず心配したが、それは杞憂と分かる。気がつくとダンサーの動きを食い入るように見つめて、目が釘付けになっている子供たちの姿に気がついたからだ。
子供たちの反応ということでいうと第一楽章以上に素晴らしかったのが第二楽章。白神ももこのダンサーへの演出にはサル山のサルの群れを動かすようなところがあったのだが、どうやらそれが見ていた子供たちを刺激して、途中からまるで作品の内部に取り込まれたように動かし始めたのだ。
 こういう地方の劇場には子供向けの企画とというのがよくあって、子供たちはそういう舞台を楽しんではいるのだが、この日に私が目の当たりにしたものはそういうものとはまるで違うものであった。
 白神の振付はダンスらしくないものなので、冒頭近くからそれを「これってダンスなの?」などと一緒に来ていた母親に聞いているようなところは確かにあった。ただ、その時点では「見られるもの/見るもの」の区別ははっきりしていて、ちょっと風変わりなダンスというようなものだったのだ。
 ところがそれが崩れたのが最初端の方に置かれていた「山」と呼ばれている木組みの塔のような舞台装置が少し舞台中央寄りに運ばれて出ていった辺りで全体の様子が変わってきたのだ。
山にはまだ幼い子供たちがこちらもサル山のサルのように集団で群がってダンスを見ていたのだが、ダンサーが二人一組になって木の枝が折れたようなものを二人でつかんでダンスでいうコンタクトインプロビゼーション的な動きを始めると子供たちも周囲に散らばっていた舞台美術から同じような木の棒を拾ってきて、それを手に持って遊びはじめたり、近くに来たダンサーにそれを手渡ししたりと明らかにダンサーらの動きにビビッドに反応して誰に即されることもなく、作品に参加し始めたのだ。
 この場合おそらくダンサーの動きはまったくの自由というわけではなく、振付により規定されているはずだが、振付られているはずもない子供たちの動きも観客である私の目には全体としてひとつのまとまりのように見えてきて、その全体が見たいがためにオールスタンディングで見る場所が規定されていないことをいいことにダンサー、子供たちの両方が一度に見える位置(最初の入り口からすると奥の壁沿い)に移動することにしたのであった。
 ラストシーンも最初に入り口側になっていた廊下側のガラスの壁が取り払われ、池となっている外側が見通せるようになり、ダンサーらが池に入って消えていったのも印象的。芸術監督としてここをホームグラウンドとして知り尽くしているからこそ可能な演出で予想を超えて素晴らしい公演であった。予定があり、翌日の企画後半部分を見ることができなかったのが残念で仕方がない。 

キラリふじみ・ダンスカフェ スペシャルコラボレーション『幻想曲』

作品について

どこで観る?何を観る?
目の前で生まれていくダンス・美術、光、音etcによる幻想曲
今シーズンから当館の芸術監督に就任した白神ももこが、2016年より始めた「キラリふじみ・ダンスカフェ」。
これまでにダンサーや振付家たちが、44㎡のガラス張りの会場を使い、カフェに行くように休日のひと時を楽しむダンスの時間を提供してきました。
4年目を迎える今シーズン、このダンスカフェのスペシャルバージョンを上演します。
形式にとらわれず自由な発想でつくられる「幻想曲」。
マルチホールという空間に集まった、ダンス・美術・光・音などの舞台をつくる様々な要素が、それぞれの想像力に基づいて自立して存在しながらも、時に交ざり合い、一つの世界を構成していきます。
目の前で変わり続ける舞台。
どこで観る?何を観る?かはあなた次第。
4つのピースからなる『幻想曲』を、五感、ときには第六感をフル活用してご堪能ください!



何かが生まれる瞬間、そして変化しやがて終わっていく瞬間に、私は何を見、何を聞き、どこへ立つのだろう。
キラリふじみ・ダンスカフェ、4年間続けて参りました。今回は劇場の中でのスペシャルコラボレーションです。ぜひ様々なポジションでお立ち会いください。お待ちしております。

コンセプト・ディレクション 白神ももこ(当館芸術監督)


出演
1月18日(土)
【第一楽章】
上村なおか きたまり 花上直人
【第二楽章】
臼井梨恵* 加藤典子* 北川結* 仁科幸*
塙 睦美* 夕田智恵* 白神ももこ*
岡田智代
長田健生 長田陽生