コリン・デクスター「謎まで三マイル」@早川ミステリ文庫
「謎まで三マイル」も人物の失踪と身元不明の遺体の発見からはじまるが、こちらの方は失踪したのが退官まじかのオックスフォード大学の教授たちであり、その意味ではその後のシリーズの展開などを考えると一層デクスターらしい筋立てということができるかもしれない。
もっとも、見つかった遺体というのが首や手足が切断された身許不明の遺体であり、さらにいなくなったはずの人物から「自分は生きていると書かれた手紙」が届く。
ここからがモース警部ものの面目躍如というか、遺体のは誰のものなのか、教授はどうなったのか、いったい何が起こったのかについてモースの推理は二転三転していく。
物語途中では最初に探していた教授に加えて、そのライバルであり、仇敵でもあった教授も姿が見えなくなったことが判明し、どちらがどちらを罠にはめたのか、遺体はどちらのものなのか、それともそれ以外の人間の遺体なのかと事件はモースの推理のなかで千変万化の様相を見せていく。
謎解きを主眼とした本格ミステリのサブジャンルには昔から「首のない死体」というパターンがあって、これは誰の死体かを誤認させるためのトリックであるのか、逆にそう思わせる目的での偽装なのか、あるいはそのどちらかと思わせておいて死体の首が切られたことには何か被害者を誤認させる以外の合理的な理由があるのか。様々なパターンの作品が書かれてきたわけだが、デクスターにはいきなりモースが首がなかったり、足が切られたり、手が切られているのにはそこの身体部位に特徴のある人間の遺体だということを知られないようにしたと思われるけれど、実はそうではなくてそう思わせるための犯人の偽装だと断定するところから、始まって論理がそれこそ途中で何が推論で何が実際にそうだったのかが、分からなくなるほど込み入ったものになってくるのだ。