下北沢通信

中西理の下北沢通信

現代演劇やコンテンポラリーダンス、アイドル、ミステリなど様々な文化的事象を批評するサイト。ブログの読者募集中。上記についての原稿執筆引き受けます。転載依頼も大歓迎。simokita123@gmail.comに連絡お願いします。

shelf「Rintrik-あるいは射抜かれた心臓 交差/横断するテキスト:ミステリーとミスティカルのあいだで phase 1」@The 8th Gallery (CLASKA 8F)

shelf「Rintrik-あるいは射抜かれた心臓 交差/横断するテキスト:ミステリーとミスティカルのあいだで phase 1」@The 8th Gallery (CLASKA 8F)

 この舞台はもともと「交差/横断するテキスト」と題する日本とインドネシアジョクジャカルタ)の国際共同制作の一環であった。コロナ禍により製作が中断。日本側がインドネシアの作家のテキストを用いて舞台製作を行うことが先行して行われることになった。
 原作はインドネシアの小説家ダナルトの小説らしいが、 正直言ってこういうカルチュラルギャップがあると思われる作品を受容するのは簡単とは言えないというのが第一印象だ。
 粗筋は「かつてとても美しかった谷があった。若い恋人たちや旅行者の多くが訪れたその谷は、しかしいつの頃からか若い恋人たちが生まれたばかりの自分たちの赤ん坊を投げ捨てに来る場所となってしまった。それも日に20体、30体という赤ん坊の遺体が投げ捨てられるようになった。あるときふらりと現れてその谷に住まうようになった盲目の老女リントリク。彼女は雨の日も嵐の日もただ捨てられた赤ん坊を拾い埋葬し続けた。最初は彼女の存在を恐れた村人たちもいつしか彼女を畏れ敬うようになっていった」としており、現代日本に暮らすものとしてはなんともどういうコンテキストのものなのか脈絡がつかみにくいものだが、舞台自体もほぼその筋立てのまま進行していく。
ただ、これはどこか神話的あるいは寓話的なものを感じさせるモチーフではあるのだが、ここで語られている大量の赤ん坊の殺戮、遺棄のモチーフは単なる神話的モチーフに過ぎないのか、あるいは何らかの過去に実際起こった出来事をモデルにしているのか。そういうこの事実関係が分からないと、やはりこの奇怪なテキストはどのように受容したらいいのかがよく分からないのだ。日本の東京でこれを見る私は当惑するほかなかったのである。
 

出演
川渕優子、沖渡崇史、横田雄平、綾田將一

脚本
ダナルト(原案)

演出
矢野靖人(構成・演出)

料金(1枚あたり)
2,000円 ~ 3,500円
【発売日】2020/08/26
一般前売 3,500円
学生前売 2,000円
※当日会場でのチケット販売は予定していません。感染症対策のため事前予約、事前決済のご協力をお願いいたします。

サイト
https://theatre-shelf.org/jp/news/rintrik.html

※正式な公演情報は公式サイトでご確認ください。

タイムテーブル
日時
10月6日(火)19:30 開演
10月7日(水)19:30 開演
10月8日(木)19:30 開演
10月9日(金)19:30 開演
10月10日(土)17:30 開演
※受付開始・開演の30分前。
※上演時間は60分を予定

説明
■作品概要|Rintrik
かつてとても美しかった谷があった。若い恋人たちや旅行者の多くが訪れたその谷は、しかしいつの頃からか若い恋人たちが生まれたばかりの自分たちの赤ん坊を投げ捨てに来る場所となってしまった。それも日に20体、30体という赤ん坊の遺体が投げ捨てられるようになった。あるときふらりと現れてその谷に住まうようになった盲目の老女リントリク。彼女は雨の日も嵐の日もただ捨てられた赤ん坊を拾い埋葬し続けた。最初は彼女の存在を恐れた村人たちもいつしか彼女を畏れ敬うようになっていった。
ある夜、一人の若者がリントリクのもとに赤ん坊を抱えて訪ねてくる。その赤ん坊を若者は埋葬してくれとリントリクに願う。その後、その赤ん坊の母親である若い娘と、娘の父親である猟師が現れ...

ダナルトは、ジャワのケジャウェン(※ヒンズー、アニミズムイスラムがミックスした民族宗教)の精神的な教えをルーツに持つ神秘主義的な作家である。shelfの矢野は、社会的、文化的、宗教的文脈や価値観のまったく異なるこの作家のテキストを丹念に翻訳するところから始め、他者理解の可能性と、生と死あるいはアジア文学における女性の描かれ方について、舞台制作を通じて探求を試みる。またこの作品は、東京-ジャカルタを結ぶ長期国際共同制作プロジェクト「交差/横断するテキスト:ミステリーとミスティカルのあいだで」の第一弾として計画された。クリエイションパートナーであるLab Teater Ciputatのバンバン・プリハジは今回、shelfがダナルトの『Rintrik』に挑むのと同じく、三島由紀夫の『卒塔婆小町』を舞台化する。

■演出ノート|Rintrikについて
『Rintrik』の舞台を大胆に現代の都市に置き換えたい。原作の小説の持つ鄙びた土地、荒んだ大地のイメージを都市の騒乱とその中にあることの孤独とに置き換え、老女リントリクの持つ泥や埃に塗れた身体と不可思議な聖性、その清浄さについて、神経質なまでに滅菌された現代の都市空間においてそれを誇張して表現したい。イスラム教、あるいは一神教の理解は、私にはとても難しい。しかし、ケジャウェンのアニミズム的な要素を梯子にすれば、ダナルトの考える神という存在にどこか理解が届きそうな気がしている。誤解、誤読を恐れずにこの神秘主義的な小説を、まさに今、この大きな困難を迎えている現代を生きる人間のための一つの寓話劇として、時代を生きる指針を指し示せればと思う。