下北沢通信

中西理の下北沢通信

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青年団第91回公演『忠臣蔵・武士編』(2回目)@アトリエ春風舎

青年団第91回公演『忠臣蔵・武士編』(2回目)@アトリエ春風舎

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東京では珍しい雪のなか、小竹向原のアトリエ春風舎に向かった。赤穂浪士が討ち入りに向かう日も小雪混じりと描かれることが多いから、偶然とはいえ、「忠臣蔵」観劇には絶好の日といえたかもしれない。
 平田オリザには彼が「現代口語演劇」と呼んでいる群像会話劇の作品以外に「会議」シリーズという系譜の作品がある。演劇には「12人の怒れる男たち」やそれを元に日本に舞台を移した三谷幸喜12人の優しい日本人」のような裁判劇というものがあるが、会議劇もそれに類するようなジャンルで、平田オリザの作品では「ヤルタ会談」「御前会議」などがそれに当たる。殿の刃傷沙汰による切腹の後で、どのようにふるまうべきかを描いた赤穂藩での紛糾を戯画化して描いた平田版「忠臣蔵」もそうしたジャンルの演劇ということができるかもしれない。
 そして三谷幸喜12人の優しい日本人」が相手の立論に論理的に反論していくようなある意味理路整然とした会話を進める「12人の怒れる男たち」に対して、日本人ならこうなるかもというある種「日本人論」のような側面を持った作品でもあった。そして、同じような理由で平田版「忠臣蔵」は平田による日本人論ともいえそうだ。
 注目すべきはここで平田が描き出す大石内蔵助のリーダー像である。藩士たちの話し合いにおいて大石は西洋的なリーダー像によくあるようにレトリックを駆使したりして自らの信念を訴え、議論をリードすることはない。むしろ、議論の過程では徹底的に聞き役に回り、議論の交通整理をする役に徹しているように見える。ただ、実はその議論の途中で大石は議論の流れを大きく変えるような提案をほんの数個行う。最初は藩士たちの話し合いが、討ち入りか、こもってこもって徹底抗戦するか、それとも幕府に恭順の意を示すかでそれぞれが自分の持論を主張し合って、収拾がつかなくなっている状況であえて思ってもいない「城を枕に切腹」論を持ち出すのだ。これが誰もが呑みにくいような案でありながら、実は幕府に抗議の意を示すという意味合いでは絶妙な案なのであり、議論全体がこの案の引力圏を離れたいと幕府への抗議から、吉良に対する恨みを晴らすという討ち入り案に近づく契機となっていく分岐点となっている。
 結局この後、幕府に抗議の念を示すという「立てこもり」案は「城を枕に切腹」案とセットで議論の対象から消えていくことになる。そして、議論は次第に「討ち入り」案に精算はあるかどうかに移っていくのだが、ここで大石は再び「自由参加型」という提案を行う。仕官を目指し、仕官が決まった場合は参加しなくてもいいということにしよう、というのだ。これも非常に巧妙だ。

平和ボケした赤穂浪士たちのもとに、突如届いたお家取り潰しの知らせ。
その時、彼らは何を思い、どのように決断したのか?
私たちに最も馴染み深い忠義話の討ち入り決断を、日本人の意思決定の過程から描いた、アウトローな『忠臣蔵』2バージョン

出演

忠臣蔵・武士編』
永井秀樹 大竹 直 海津 忠 尾﨑宇内 木村巴秋 西風生子 五十嵐勇

忠臣蔵・OL編』
根本江理 申 瑞季 田原礼子 髙橋智子 本田けい 西風生子 山中志歩

スタッフ

舞台美術:杉山 至 舞台監督:海津 忠
照明:井坂 浩 照明操作:西本 彩 伊藤侑貴 衣裳:正金 彩 中原明子
チラシイラスト:マタキサキコ 宣伝美術:太田裕子 制作:太田久美子 土居麻衣


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