青年団第91回公演『忠臣蔵・武士編』@アトリエ春風舎
平田オリザによる「忠臣蔵」作品。歌舞伎・文楽で知られる「仮名手本忠臣蔵」には江戸時代に上演された時から外伝、本家どりのような派生作品が数多く存在する。鶴屋南北もそれを好み、有名な「東海道四谷怪談」「盟三五大切(かみかけて さんご たいせつ」も実は「忠臣蔵」の裏話的設定の物語なのである。
現代演劇でも映画にもなった「つか版 忠臣蔵」*1、そとばこまち「冬の絵空」*2、自転車キンクリートSTORE「例の件だけど、」などさまざまな趣向で作品が書かれており、特に柳沢吉保を中心に赤穂事件後に討ち入り首謀者の処分を巡って、幕府関係者が右往左往するという「例の件だけど、」は優れた作品だと思っていて、残念ながら最近の再演はないようだけれど抜群に面白くて、ぜひ再演してほしい作品だ。
平田オリザ版の「忠臣蔵」も再演を何度も繰り返している人気作品だ。赤穂事件という歴史的な出来事に材を取ったという意味では青年団としては異色作。
実は元来は1999年、第2回シアターオリンピックスで、清水港を舞台に壮大な野外群集劇として上演したのが初演(宮城聰が演出)。 2000年静岡芸術劇場ではSPACが7人の男優により上演*3、室内劇へと変更。青年団は2006年に『忠臣蔵・OL編』としてセルフカバー的に上演し、より原型に近い『忠臣蔵・武士編』とともにその後、人気演目として再三にわたり上演されてきた。
平田版で描かれているのは赤穂藩士たちのもとに突然届いた主君の江戸城で狼藉と切腹、お家取りつぶしの知らせの後、開城拒否立てこもり派、幕府への恭順派、討ち入り派など藩論が分かれて、右往左往する城内において、いかなる論議により流れが形成されていったのかを描いたものだ。
戯画化されてかなりコミカルなものとはなっているが、大石は自分の意見をことさら押し付けることなく要所要所で短く口を挟むだけで討ち入りという結論に誘導していく。昼行燈とも呼ばれ評された大石内蔵助はこれまでは青年団では志賀廣太郎をはじめリーダー役が似合う年長の俳優が演じてきたが、今回の永井秀樹はリーダー然としていなくて、とらえどころのない感じが大石に適任だったかもしれない。
平田オリザの「忠臣蔵」と自転車キンクリートの「例の件だけど、」には討ち入りの前と後の違いはあるが、ともに日本において組織内でどのような経緯でもって物事が決まっていくのかを描いているという意味では共通点もあって、いつか連続上演の企画でもあればと考えている*4。
平和ボケした赤穂浪士たちのもとに、突如届いたお家取り潰しの知らせ。
その時、彼らは何を思い、どのように決断したのか?
私たちに最も馴染み深い忠義話の討ち入り決断を、日本人の意思決定の過程から描いた、アウトローな『忠臣蔵』2バージョン出演
『忠臣蔵・武士編』
永井秀樹 大竹 直 海津 忠 尾﨑宇内 木村巴秋 西風生子 五十嵐勇『忠臣蔵・OL編』
根本江理 申 瑞季 田原礼子 髙橋智子 本田けい 西風生子 山中志歩
スタッフ
舞台美術:杉山 至 舞台監督:海津 忠
照明:井坂 浩 照明操作:西本 彩 伊藤侑貴 衣裳:正金 彩 中原明子
チラシイラスト:マタキサキコ 宣伝美術:太田裕子 制作:太田久美子 土居麻衣