下北沢通信

中西理の下北沢通信

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青年団第91回公演『忠臣蔵・OL編』@アトリエ春風舎

青年団第91回公演『忠臣蔵・OL編』@アトリエ春風舎

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忠臣蔵チラシ

突如届いたお家取り潰しの知らせを聞いた赤穂浪士たち(赤穂藩士たちと一度書き換えたが、考えてみれば浪士たち自身は気が付いていないが、すでに中央(江戸)で幕府によるお家取り潰しは確定しているため、ここにいる人たちはすでに藩士ではなく浪士なのだ)を描く群像劇。現代の会社勤めの人と浪士たちを二重重ねにしているのがこの作品の仕掛けだが、武士編では現代の要素を取り入れていても基本的には江戸時代のことと認識してしまうのに対して、企業が突然倒産してしまったのを後から聞いた社員たちのように現代の出来事感は「OL編」の方が強い。
実はコロナ禍以前の2019年にも同じ作品をこまばアゴラ劇場で見ているのだが、実はこの時は青年団の豊岡移転ということが直近に控えていたため、劇団移転を巡って実際に話し合いがあったかどうかは定かではないのだけれど、おそらく劇団主宰者である平田オリザがその時に言ったかもしれない「自分の身の振り方は自分が決めてください。移住の強制はいっさいなく、自由参加型の劇団移転にします」という言葉がこの舞台を通じて聞こえてくるような気がした。
その後、コロナ禍になり直接劇団関係者の声を聴くことができていないのだが、今回の座組みの中にも豊岡に移住したもの*1、東京(首都圏)に残ったもの*2、東京を離れまったく別の場所に移住したもの*3が含まれていて、劇団のあり方として興味深く思った。もちろん、この「忠臣蔵」は赤穂事件の史実を下敷きにしているが、一種の組織論にもなっているから、ひょっとしたらその後に決まった青年団の移転における基本的な構えにも何らかの影響は与えているのかもしれない。
今回の座組みを見て目から鱗だったのは東京を離れまったく別の場所に移住したものの存在で、これにはこの舞台の出演者に含まれているかどうかは分からないが、実家のある故郷に戻り、そこを生活拠点として、公演の稽古の時だけ豊岡に長期滞在して公演に臨むというスタイルが可能になったということなのだ。もちろん。日常的に接していないことによる情報ギャップやキャスティング時における不利というのはまったくないはずはないが、少なくとも東京在住者と地方在住者の間には有利不利の差はないはずで、これは画期的なことではないか。

平和ボケした赤穂浪士たちのもとに、突如届いたお家取り潰しの知らせ。
その時、彼らは何を思い、どのように決断したのか?
私たちに最も馴染み深い忠義話の討ち入り決断を、日本人の意思決定の過程から描いた、アウトローな『忠臣蔵』2バージョン

出演

忠臣蔵・武士編』
永井秀樹 大竹 直 海津 忠 尾﨑宇内 木村巴秋 西風生子 五十嵐勇

忠臣蔵・OL編』
根本江理 申 瑞季 田原礼子 髙橋智子 本田けい 西風生子 山中志歩

スタッフ

舞台美術:杉山 至 舞台監督:海津 忠
照明:井坂 浩 照明操作:西本 彩 伊藤侑貴 衣裳:正金 彩 中原明子
チラシイラスト:マタキサキコ 宣伝美術:太田裕子 制作:太田久美子 土居麻衣

*1:髙橋智子は豊岡在住。jocr.jp

*2:cloudcasting.jp

*3:瑞季は現在岡山県奈義町在住。www.sanyonews.jp