スペースノットブランク『ウエア』@こまばアゴラ劇場
スペースノットブランク『ウエア』@こまばアゴラ劇場を観劇。単位時間当たりの情報密度がやたら高くて読解するのに労力を要する作品であることは間違いない。そのため上演時間は70分程度とそれほど長いわけではないのだけれど、作品の流れについていくのが非常に難しくて、見終わった後、異常なほどの疲労感を感じてしまった。つまらないわけではないけれど、しんどいというのが見終わっての第一印象だった。
設定としてまずメールやLINEなどネットの環境を通して、ゲームの様なもの(実態ははっきりとはしないが映像制作会社という設定なようだ)を共同制作している岡正樹と須田学という二人の人物を巡っての物語である。しかし、実はこの二人は親しいようで実際にあまり会ったことはない。相手とは互いにメーリングリストやLINEなどを通じてやりとりしているため互いの存在にはネット越しでのバイアスがかかっていて、それが電脳空間の中に浮遊する実態のよく分からないものとして描写されていく。観客である私たちはその脈絡がなく実態不明の存在をなんらかの統一化された解釈のもとに実体化しようと試みるのだが、それがなかなかうまくいかないような仕掛けになっている。
体感的には仮想空間にあるようなものがここには描かれているのだが、とはいえ原案を提供している池田亮にとっては実際の共同制作作業で実感としてモデルである作者が現実に感じていることの幾分かがそこには反映されているのではないかと思う。だから、そこを何とか接続して実体化しようと試みたが、それはなかなか難しくて、徒労感に襲われた。それが普通ではない疲労感を感じることの理由になっていたのかもしれない。
最後の方に謎の存在である「メグハギ」というのが出てくる。作者は劇場サイトの解説でそれを「アンコンシャス・バイアスの化身」と表現しているのだが、この作品を一度見ただけではそれが何なのかは判然とはしない。
最近の若手の作品にはよくあることだが、この舞台でも意図的に俳優(パフォーマー)が演じていることと実際にそうであることにはズレがある。例えば岡と須田は途中で双方とも男として設定されているのが、演じているのが男性と女性なので、初見では当然男女の同僚だと思って冒頭からイメージしてしまう。分かってからすでに定着したイメージを後から修正するのに結構苦労したが、こういうのもアンコンシャス・バイアスと言ってもいいのかもしれない。
原作・美術:池田亮 音楽:額田大志 演出:小野彩加、中澤陽
スペースノットブランク、三度目のこまばアゴラ劇場となる本公演では、遺伝や家族にまつわる実体験をベースとした舞台作品を創造する演劇ユニット〈ゆうめい〉代表の池田亮氏を原作及び美術に、音楽のバックグラウンドを用いた脚本と演出でパフォーミングアーツの枠組みを拡張していく舞台作品を創造する演劇カンパニー〈ヌトミック〉主宰の額田大志氏を音楽に迎えた創造的なコレクティブによって、アンコンシャス・バイアスの化身「メグハギ」をめぐるアドベンチャーを描きます。2020年3月に初演された『ウエア』を再解釈したニューバージョンを上演すると共に、世界観を共有する新作『ハワワ』を上演。一週目に『ウエア』を上演したのち、たった一度の「通し上演」を行ない、二週目は『ハワワ』へとバトンタッチする公演形態となります。
スペースノットブランク
小野彩加と中澤陽が舞台芸術を制作するコレクティブとして2012年に設立。舞台芸術の既成概念に捉われず新しい表現思考や制作手法を開発しながら舞台芸術の在り方と価値を探究している。環境や人との関わり合いと自然なコミュニケーションを基に作品は形成され、作品ごとに異なるアーティストとのコラボレーションを積極的に行なっている。出演
『ウエア』荒木知佳、古賀友樹
『ハワワ』大須みづほ、古賀友樹、鈴鹿通儀、奈良悠加スタッフ
音響・照明:櫻内憧海
舞台監督:鐘築隼
保存記録:植村朔也
当日運営:渚まな美
制作:花井瑠奈